香りの革命児がTOKYO発に徹底的にこだわる理由とは?【カラーズ橋本宗樹】

東京・青山から最先端のオーガニックコスメを提案する「カラーズ」。 業界の風雲児として知られる同社代表取締役、橋本宗樹氏が考える "東京ブランド"だからこそ実現可能なオーガニックの未来とは――。


科学的エビデンスを求めた進化型オーガニック

オーガニックな美容や食にこだわることが当たり前のライフスタイルとなった昨今。オーガニックコスメ界に、極めて科学的なエビデンスを求めて切りこみ、革命を起こしてきた男がいる。東京・青山を拠点に、本格オーガニックを提案する、カラーズ代表の橋本宗樹氏だ。オーガニックコスメの企画・開発から販売までを手がけ、マス市場に浸透させるなど、化粧品業界に多くの革新をもたらしてきた。

約10年ほど前から”根本治療”として植物の力を見直し、薬草学、植物薬理学の知識を持って人の心と身体に訴えかけるアプローチを続けてきた。橋本氏は日本でまだ少ない植物療法を専門とする”メディカルフィトテラピスト”の資格を持ち、経営者でありながら植物療法士としても、企画・開発に力を注ぐ。

「物事を深く掘り下げるタイプなんでしょうね。突き詰めたら止まらなくて。僕がコスメの世界に興味を持ったのも、海外との関わりのなかで日本人のよさを追求したいという気持ちが強くなったからなんです」

データを集積し、コスメのレシピをつくる自社内のラボ。自身もメディカルフィトテラピストである橋本氏はこの場所で、化学とオーガニック、それぞれの開発経験をもつ研究者とともに科学的証拠を求めたアプローチを行っている。一般的な研究所ではなく、創造力を高め、センスも大事にしたい。そんな想いからつくったラボは、ドアのデザインやインテリアなどの細部にまで橋本氏の徹底したこだわりが垣間見られる。

橋本氏の経歴は、少し変わっている。イギリスのクラブを日本で復活させるイベントなど、代理店の業務に携わっていたが、いつしか”何か形として残したい”という想いが強くなり、化粧品業界へ飛びこんだ。最初はイタリアを拠点に生産していたが、最高品質を求めた結果、"日本産"に目を向けるように。それがカラーズの原点である。同社は"東京"をテーマとしてきた。ストレスフルな街は、心に負荷を抱える人も多い。だからこそ植物の精油の力が必要だ、というのがカラーズの考え方だ。

「東京というアイデンティティのなかでつくられるナチュラルな化粧品とは何かを、ずっと模索してきました。そう考えた時にやはり、東京というストレスの多い街の現実は見逃せない。そこで改めて植物療法の世界を紐解きたいと思い始めました」

妥協なく真実を追求するフィトテラピストの姿を目の当たりにしたのも、橋本氏が植物療法の世界に魅せられるようになった理由のひとつだ。植物療法の第一人者である森田敦子氏に師事し、あらゆるデータを収集し、科学的な効果を求めてきた。

「今、世界的な潮流ともなっている根本治療の世界を身近な化粧品へと落としこむ。それが我々の仕事であり、かつ我々にしかできないことだと思います」

特に大切にしてきたのが ”心へのアプローチ”。植物による根本治療は、悪い部分を取り除く対症療法とは異なり、免疫力を高め、病気の根源の抑制を目的とする。カラーズは殊に自律神経とホルモンに着目してきた。

「実は心と身体を治癒するのは、同じひとつのステロイドホルモン。炎症が起きたら身体を治そうとするし、悩みがあれば心に使われてしまう。これがストレスで肌が荒れる原因なんです。だから精油の力で抑えるんです」

例えば最近、抗うつに効果があると話題を呼ぶローズの精油。これもバラの花の香りを合成香料で再現したフレグランスと、ブルガリア産ダマスクローズとでは香りもまったく違えば、その存在意義も異なる。

「精油が脳に与える効果については、現在世界中で研究されていますが、なかでも僕は香りを感じる嗅覚に着目してきました。嗅覚は五感のなかでも最も原始的であり、本能を刺激するんです。そこに非常に奥深き哲学を感じます。香りとは説明しづらいものであるからこそ、その難しさに多くの可能性が秘められている。ロマンを感じますね」

2年ほど通い続けている 西麻布のバー「twelv.」​。​日本酒ソムリエが常駐するバーだ。「とことん追究するという面で、彼は日本酒であり、僕は香りであった」と、オーナーの髙三瀦徳宏氏には出会った時からシンパシーを感じ、会うたびに刺激し合う仲。

”日本の美”を表現した革新的なフレグランス

香りには、心に効果するものと、貴族たちの遊びであり、文化として受け継がれてきた芸術的なものの2種があると橋本氏は言う。後者の芸術性を求め、2017年、新たに生みだしたのがフレグランスブランドの「TOBALI」だ。

「東洋と西洋において、香りは薬や神聖なものとして扱われていました。それが芸術として昇華したのが、平安時代。貴族たちはこぞって自分の香りをつく
り、ひとりひとりが調香師ともいえる存在でした。香りは自己表現の道具であり、優雅な、貴族の遊びでもあったのです」

そんな平安時代の香りを世界で初めて再現し、核となる香り「Hidden Japonism 834」が誕生した。

「ブランド名が意味するのは”帳とばり”。日本人の控えめな奥ゆかしさを
テーマとしています。西洋からするとどこかネガティブに捉えられがちですが、僕はそこに独特の美意識を感じます。例えば世阿弥が語っていたように、秘することで魅力というものはより深まると思いますから。そんな日本の美を、香りで伝えたくて」

日本独自の美を求めた結果、TOBALIは国境を超えて欧米でも大きな話題を呼び、世界中の香水マニアたちの心を摑んだ。

「自負かもしれませんが、フレグランス業界の常識を覆したという想いがあります。400年以上続く香りの老舗『日本香堂』とのパートナーシップを果たし、歴史と知識を礎いしずえに、世界に向けて”日本”を見せたいというビジョンがありました。自分の生まれ育った土地をどう表現するかということも意識しましたし。僕、日本人のこだわりって、すごいものだと思っていて。例えば寿司屋や鰻屋にしても、ひとつの料理を100年以上究めてきた国はそうありません。日本、特に東京はあらゆる文化を受け入れ、篩ふるいにかけることで、本質を凝縮し、巧みに残してきた場所だと感じています」

そんな橋本氏が今、力を注ぐのが、静岡の有機ハーブ園との連携。いずれカラーズの商品すべてを国産原料にするという、夢に向けた初めの一歩である。

静岡にある契約農家の農園。現在は200 坪ほどで、製品になるための量にはまだ足り ないそう。原料化に向けた農地の拡大と栽培 計画を進行中。

「フランスでは組合が蒸留器を持ち、その周りに畑があって、皆で共有するシステムが構築されています。しかし日本では、オーガニックコスメの原料となる植物がほとんどなく、かつ植物を精油にするための蒸留施設がない。フランス同様、日本でも原料をつくり、蒸留器を入れ、そこに農家の方々を誘致することが必要と考えています。行政も巻きこみ、地域の産業をつくることで高齢者の雇用なども踏まえた地方創生へとつなげていきたい」

というのも、日本にはそのポテンシャルがあるからだ。農業から化粧品、パッケージになるまでを国内でできるようにその過程をいかに”センスよく”オーガナイズできるのか。

「日本には農業を世界最先端のものにできる実力があると考えています。しかしそれは極めて人間的であり、人が生きるための根源に近いもの。それを僕はすべて、東京ならではのハイセンスな感性で整えていきたいと思っています。そうすることで人々が求める、新たな未来は、きっと切り拓くことができる。それが僕のアイデンティティであり、カラーズにしかできないスタイルでもあるのです」

Muneki Hashimoto
1975年東京都出身。日本人形づくりの家系で、日本の文化や技術を世界に強く発信したいという想いから日本産オーガニックコスメの道へ。2000年にオーガニックコスメメーカー「カラーズ」を設立。’17年フレグランスメーカー「トバリ」を設立し、両代表を務める。


現代によみがえる日本古来の”秘める美”の香り

2017年パリでデビューした「TOBALI」。香水とフレグランスキャンドルが揃う。ボトルや箱は古来神聖とされてきた白で統一し、御神酒をイメージしたボトルデザインが印象的だ。各フレグランスは世阿弥や織田信長など、人物の二面性やギャップを表現し、相反するイメージとともに奥深き魅力を追究した香り。パリのプランタンやロンドンのセルフリッジズなどの百貨店で世界的に展開され、その人気はフランス版「VOGUE」や「ELLE」など、欧米のさまざまなメディアで伝えられた。日本ではオンラインショップ(https://tobali.jp/onlinestore/)のほかリステアやエストネーションで購入可能。

”気品に秘める狂気”など、相反する二面性を香りで表現。オードパ ルファン[50ml]¥12,000、キャンドル¥7,200(トバリTEL:050・3786・2888)


Text=野上亜紀 Photograph=五十嵐 真