イケア・ジャパン社長 ヘレン・フォン・ライス 日本と違う発想とは?~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

29ヵ国で355店舗を展開し、売上高4兆円を超えるスウェーデン発祥の家具販売世界最大手、イケア。その日本法人で、昨年女性管理職50%を達成したイケア・ジャパン代表取締役社長ヘレン・フォン・ライス氏の実行力に注目が集まっている。限りある労働力と資源を最大限に活用するという、スウェーデン的思想とは──。

人という資源を最大限に活かす文化

滝川クリステル(以下滝川) ヘレンさんがイケア・ジャパンの社長に就任してから、イケアの企業理念でもある「平等」や「ダイバーシティ」の考え方が、日本でもより注目されるようになったように思います。

ヘレン・フォン・ライス(以下ヘレン) そうだと嬉しいですね。日本では女性CEOがかなりまれな存在だと知って以来、家庭と仕事の両立について積極的に発信してきましたから。感情論抜きに事実だけを見ても、働きたい女性がみな職に就いたら、日本のGDPが10〜15パーセント上がるという試算が出ています。そんな素晴らしいチャンスをなぜ摑まずにいるのか。もったいないと思います。

滝川 日本でも女性を労働力として活かしていこうという動きはあるのですが、なかなか進まなくて。イケアではスウェーデンをはじめ、どの国でも管理職の男女比がフィフティフィフティと聞いています。どんな戦略で女性の活躍を可能にしているのでしょうか?

ヘレン 実際に女性スタッフに何が必要かを聞く。それに尽きると思います。例えば託児所を用意すること。労働時間をフレキシブルにすること。そして給与体系を平等にすること─そんなに突飛なリクエストはないはず。ここIKEA Tokyo-Bayでは「ダーギス」という事業所内保育所を設置していますし、現在全店舗に導入を進めています。そして、フルタイム・短時間での勤務にかかわらず、福利厚生や賃金幅も平等なんですよ。

ドレス¥298,000(マウリツィオ ペコラーロ/三喜商事 TEL:03・3238・1398) 靴¥92,000 ピアススタイリスト私物

滝川 全スタッフが正社員なんですね。

ヘレン ええ。トップが「必ずやる」と決めさえすれば、そこまで難しいことではありません。もちろん時間と努力は必要です。私たちの変化も「目標は必ず達成する」と決意して変えてきた結果。そのためにはクリステルさんのようなインフルエンサーや、女性の政治家、経営者が問題を正しく発信し続けることが重要ですし、権力を持った男性の協力も不可欠です。スウェーデン政府がしたように、まず内閣の男女比を半々にしたら、世の中も追従するのでは?

滝川 日本も目標値はあるのですが……。ヘレンさんはスウェーデンを離れてから、中国に2年、アメリカに3年、ご家族とともに転勤されています。旦那さんとはどんな話し合いを?

ヘレン 夫もイケアの社員です。結婚当初からお互いのキャリアについて話し合い、ずっと対等に歩んできました。ただ私の仕事の都合でスウェーデンを離れることが決まった時、まだ娘は10歳、息子は5歳でした。そこで夫は「自分が家族をフォローするから、ビジネスは君がリードして」と、柔軟に自分のキャリアをステップダウンして、家族を優先してくれたんです。そうして家族が団結したからこそ、日本に来ることもできました。本当に感謝しています。

滝川 スウェーデンでは、子供を最優先する考え方も顕著ですよね。子供の貧困率に関する調査報告でも、日本のランクが先進国でワースト上位なのに対し、スウェーデンはトップ10圏内に入っていたと思います。

ヘレン そうね、心や身体を育てる過程で、最高の環境を与えることを第一に考えます。できるだけ自然の中で体験をさせるのもそう。私の娘と息子は1歳から森の中にある保育園に通っていました。基本的に一日中、屋外にいて、木登りをしたり、雪が降ってもダウンや毛布にくるまって外でお昼寝するの。自然の中で走り回り問題にぶつかり……、そういう複合的な経験こそが心身の能力に結びつくのだと信じているんですよね。

滝川 体験しなければ学べないことは本当に多いです。大人も。

ヘレン ええ。一方で、赤ん坊の頃からひとりの人間として尊重します。体罰はいかなる理由があれど法律で罰せられます。スウェーデンは小国だから、貴重な資源を大切にするんですよ。赤ん坊の頃から敬意を払われていると、大きくなって社会で活躍してくれます。女性の活躍を推進するのも同じ理由。人が少ないからこそ、みんなが能力を最大限に発揮できるよう、みんなで環境を整えるの。

滝川 日本とは、発想がまるで違うように思えます。残念ながら理想的な状況とはギャップがあるけれど、イケアのようにファミリーが多く来場する場でメッセージを発信してくれると、とても心強いです。

地球の将来に責任を持つ企業でありたい

滝川 イケアはサステナビリティの取り組みにも積極的ですね。意外と知られていませんが。

ヘレン はい。イケアは将来に責任を持つ企業だと自負しています。地球環境とどう向き合っているのかを、誠実に、正直に発信するのは当然のこと。日本でも若者の意識はもう変わってきていますよね。テーブルにしても、森林認証を受けたサステナブルな素材でなければ買わない、という主義の人が今後増えていくと思います。就任当初、日本ではあまりサステナビリティに関心がないように感じましたが、今後はリードするつもりで、より積極的な情報発信をしていくつもりです。

滝川 具体的にはどんな展開を予定されているのでしょう。

ヘレン もともと日本はリサイクル市場が活発ということもあって、まず「家具下取り・還元サービス」という、イケア製品のリサイクルサービスを始めました。

滝川 それはイケア・ジャパン独自の取り組みなんですか?

ヘレン そうですね。イケアのポリシーは全世界で共有していますが、サービスやキャンペーンは各国の文化に合わせてアレンジしています。それからサステナビリティの取り組みとして大きいのはもうひとつ、ソーラーパネル普及計画があります。すでに店舗では導入していますが今後1年くらいを目処に一般販売もスタートしていければと。

滝川 イケアの店舗では、2020年までに100パーセント再生可能なエネルギーに変換するというお話もありました。

ヘレン 簡単なことではありませんが、再生可能エネルギーの開発には、惜しまず投資していくつもりです。正しいことには、喜んで投資したいんです。イケアが企業としてエネルギー問題に真剣に取り組んでいること、そしてこの問題がいかに重要かということを伝えるのも私たちの役目ですね。

滝川 地球のために何ができるか、常に考えているんですね。

ヘレン 世界をよりよい場所にするために貢献できるって、とても幸せなこと。私は運よく、教育を受けられる国に生まれて、常に自分を信じてくれる両親に育てられました。好奇心旺盛な私に両親は「何でもやってごらん、大変な努力が必要だけれど、その気になれば何でもできるから」と言い続けてくれたんです。その言葉に励まされ、家族に支えられて、今も走り続けている気がします。

滝川 お子さんたちにも同じようにお話しされるんですか?

ヘレン 彼らは私よりもさらにグローバル市民ですよ。友達についてうっかり「どこの国の子? 」なんて質問をすると「何言ってるの? そんなのどうでもいいでしょ」という目で見られます(笑)。彼らにとって世界はひとつ。ただし立場によってあらゆる物の見方が変わるし、白黒で割り切れるものではない、と肌で学べたのは、とてもよい経験だったのではないかしら。

滝川 文化や住環境の違いは、インテリアの提案では特に大きな問題にもなりますよね? 日本にいらして、驚かれたこともあったのでは。

ヘレン 一番不思議なのは、あまり家を重視していないように見えることですね。

滝川 インテリアに無頓着という意味でしょうか。

ヘレン ええ。家にあまり人を招かないかしら。マーケティング調査でも、衣類やペットにかける費用のほうが多いんですよね。他の国では聞いたことがありません。私にとって家は、世界で一番大切な場所ですから、皆さんの家も世界一心地よい場所であってほしいんです。そのためにも日本の暮らしを学び、理解して、皆さんにもっと興味を持っていただけるよい提案をしていきたいですね。

安くて高品質を世界レベルで徹底する家具のテーマパーク

船橋に位置する国内一号店「IKEA Tokyo-Bay」では、日本の生活様式により密着したレイアウトを多様な「ルーム」として提案。リビングルーム、ダイニング、キッチン、バスルーム、ベッドルームと実際に使う順番を意識した構成で、来場者の想像力を刺激する。年間2000件の日本の家庭へのリサーチを行い、ニーズに沿い続ける。昨年開始したオンラインストアにより、大型家具の購入もスムーズに。http://www.ikea.com/jp/ja/

Helen Von Rice
スウェーデン・マルメ生まれ。ルンド大学卒業後、1998年にイケアカタログを発行するIKEA Communications入社。IKEA of Swedenでの勤務後、2007年IKEA Communications執行役員に就任。中国赴任、アメリカ法人副社長を経て’16年8月より現職。

Christel’s Times Monthly Column

8回目となるEarth Walker 2018はご覧いただけましたか? 今回は「食べること」の原点に迫るため、南米ペルーを訪れました。ペルー本土の約6割はアマゾン川流域の熱帯雨林です。自然豊かな大地ですが、動植物にとっては弱肉強食の厳しい世界。生き抜くために必要な生命力は、そのまま栄養価の高さにもつながります。先住民の方々とともにいただいた食事は少量で栄養があり、さらにデトックス効果も抜群でした。日本に帰ってきてからも、とても体調がいいんですよ。飽食の日本に住む私たちは、食べ残しや添加物の問題、食品が製造される過程に関してももっと自覚的に行動すべきでは。そんな思いが伝わっていると嬉しいです。

陸路ではたどり着けない地、ペルーのイキトスで「生きることは食べること」ということを改めて教えてもらいました。

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Text=藤崎美穂 Photograph=レスリー・キー Styling=吉永 希 Hair & Make-up=野田智子