大迫傑インタビュー①「日本人選手が強くなる大会をつくりたい」

日本最速のマラソン選手、大迫傑。強くなることを、ただひたすらに求め続けた男へのインタビューから見えたのは「日本陸上界を変えたい」という開拓者の顔だった。自身の過去、現在、未来についてトップランナーが大いに語った。

強い選手はみんな、泥臭い練習、シンプルな練習を妥協せずに継続している

ゴールへの最後の直線で何度もガッツポーズをした。ふだんはクールな大迫傑が喜びをあらわにした姿はとても新鮮だった。

3月1日、東京2020オリンピック日本代表選手選考競技会でもあった東京マラソン2020で、大迫は2時間5分29秒を記録。自身の持つ日本記録を21秒更新してゴールした。

この瞬間、東京五輪男子マラソン代表枠3名の最後の1人は大迫に決まったといっていいだろう。実際に、最後の日本代表選考対象レース、3月8日に行われた琵琶湖マラソン2020で大迫の日本記録を破る選手は現れなかった。

「東京マラソンでゴールしたときはほっとしましたね。この大会にかけて長い期間トレーニングを積み重ねてきたので。日本代表の内定がぐっと近づき、そこにプラスして日本記録もだせたことで、体で喜びを表現しました。東京マラソンを終え、日本代表も内定して、今は心身ともにリラックスしています。トレーニングは毎日軽く走っている程度で、知人と食事をしたり、少しだけお酒を飲んだり。こうしてメディアのインタビューを受けると、今後の予定を質問されますけれど、今はまったくの未定です」

大迫には、日本実業団連合から日本記録の報奨金として1億円が用意される。東京マラソン翌日の記者会見で使い道を質問されると――。

「これからの選手のために使えることもあるのかなと、考えています」

このように日本国内で新しい大会を創設する可能性を示唆した。

「新しいレースについて、具体的なことはこれから考えていかなくてはいけないと思っていますが、テーマは明確です。日本人選手と海外の選手の差を縮めるための大会です。僕は日本選手とアフリカ系の選手との差をもっと縮めたい。Breaking2というプロジェクトがあります。42.195kmを2時間以内で完走するために、アスリートや科学者などのチームが一丸となって挑戦するナイキのプロジェクトです。プロジェクトそのものは価値があるかもしれません。ただし、現状アフリカ系の選手のためのものになっています。6大メジャーズ(東京マラソン、ボストン・マラソン、ロンドン・マラソン、ベルリン・マラソン、シカゴ・マラソン、ニューヨーク・シティ・マラソンの世界6大マラソン大会)も、アフリカ系の選手が記録を伸ばすためにある印象です。今のままだと、アフリカ系の選手のレベルは上がって、日本や欧米の選手との差はどんどん開いていくでしょう。その差を縮められるような大会をつくりたい」

アフリカ系選手の強さ、日本人選手の強さはそれぞれどこにあるのか。

「アフリカ系の選手の強さは体形とか身体能力だとは感じています。練習内容は日本人選手とそれほど違いは感じていません。日本人選手の強さは、ひと言では言えませんし、それぞれ違うと思いますが、僕は勤勉さだと感じています。いずれにしても、強い選手はみんな、泥臭い練習、シンプルな練習を妥協せずに継続しています。そして、自己分析能力もある。自分の弱さを見極めていること、自分の弱さを知る強さを持つことは大切です」

日本人選手が速くなるためには、従来の大会となにを変えればいいのだろう。

「たとえば、ペースメイキングです。ペースメーカーを日本人のレベルに合わせれば、記録も縮まっていくと思いますし、目標をより明確にして走れます。大会へ向けてのトレーニングも頑張れるはずです」

大迫の目は選手としての自分の成果だけではなく、すでに次世代の日本人選手が活躍する未来にも向けられているのだ。

②に続く

Suguru Osako
1991年東京都生まれ。佐久長聖高校、早稲田大学、日清食品グループを経て、現在はアメリカ・ポートランドを拠点に活動。マラソンのみならず、3000m、5000mの日本記録も保持する。プロランナーとしてナイキに所属。

Tex=神舘和典 Photograph=太田隆生