破壊vs創造 対極を愉しむ 出井伸之vol 09


破壊は創造を喚起し、目覚めさせる

世界中の友人たちから、大丈夫か、というメールが来た。移住してこないか、という申し出まであった。世界からは一時、本当に日本全体が壊滅状態になったと思われたようである。
 これほど日本に注目が集まったのは、久しぶりのことだ。過去の歴史もあって、厳しい目で見られることも多かった日本だが、空気はがらりと変わった。世界から集まった義援金の額には、みんな驚き、感謝したのではないか。これほど世界は日本に手を差し伸べてくれるのか、と。産業界でも援助の申し出がある。日本は今、世界から注目を浴びる国になっているのだ。


 被害に遭われた方には心からお見舞いを申し上げたい。そして、これからの日本は、何よりその犠牲を決して無駄にしてはいけない。この震災で見えたものをしっかりと検証し、新しい日本を創ることにつなげていかなければいけない。
 そもそも地球は、大きな変動期にある。温度変化や台風、地震など天変地異は世界中で起きている。拙著『日本大転換』はそれをベースにし、この絶え間ない変化に耐え得る街作りを推し進めないといけないと書いた。今回の地震は地球変動の予兆なのかもしれない。その意味で、今は極めて大事な時期である。
 日本は過去、幾度も大きな転機を経験し、そこには大きな破壊があった。だが、その後、日本は、世界中のどこにも、過去になかったような発展を遂げてきた。破壊と創造は、実は対の関係にある。破壊は創造活動を喚起し、それまで活用されることのなかった技術やノウハウを生み、花開かせるのだ。
 日本は、世界中から集まるサポートを活用しながら、新しいものを創り出していかないといけない。世界は、日本の次なるステップにこそ、注目することになるだろう。

日本という国のOSを入れ替えろ

では、何を変えるべきなのか。もちろん街の再興も重要だが、僕は“国の基盤”まで踏み込むべきだと思っている。縦割りの行政機構、官僚制、規制、情報通信インフラといった、本来、国のベースになるものだ。わかりやすくいえば、コンピューターのOSである。そもそもコンピューターは、優れたOSの上にアプリケーションが複数走っている。だが、いくら優れたアプリケーションでも、OSのひどいコンピューターではうまく作動しない。国にたとえるなら、縦(官僚)ではなくOSのような横の連携が大事である。
 今回の震災前から、日本はシステム的に破綻している。110歳を超え、既に亡くなっていた人が年金をもらっていた事件は典型例といえるかもしれない。もし国民総背番号制が導入されていたなら、安否確認にあれほどの時間を要したかどうか。
 電力会社の対応に驚かされた人も多かったと思う。停電は致し方ないとしても、避難エリアまで停電させてしまうお粗末さ。今回の地震で地域の電力会社が連携できなかったように、そもそも、なぜ他の地域からすぐに電気の供給が受けられないのか。原発の管理体制はもちろんだが、地域ごとに分割された電力供給体制も含めて、問われるべきことは多くある。
 震災後に誰もが困った通信に関してはどうか。被災地以外でも、インターネットは利用できたが携帯電話はつながらなかった。被災地で携帯が使えなくて、どれほどの人が大きな不安に襲われたか。通信に関しては制度的な問題だけでなく、技術的な問題から立ち向かっていく必要があるだろう。考えてみれば、携帯電話自体の技術はほとんど進歩していない。日本が発明しなければならないのは、“本当の携帯電話”だ。絶対に途切れない、堅固な通信システムを世界に先駆けて作るべきである。
 他にもたくさんある。地方に産業をどう作り、育成するか。災害に強い交通網をどう構築するか。メディアの在り方、スマートシティやスマートグリッドなど新しいコンセプトをどう復興に盛り込んでいくか……。
 そもそもどんな国を作りたいのか、というビジョンがないのが今の日本である。政治家は今こそ党派を超えて、将来を考えるべきだ。外交では頭を下げて復興支援を世界にお願いするべきだし、新しい日本のビジョンを明示する必要がある。もちろん、足元を見ることも大切である。だが、みんなが足元ばかり見ていたら前には進めない。創造への一歩も踏み出さなければならない。

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Text=上阪 徹 Photograph=OGATA
*本記事の内容は11年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい