アーティスト河原シンスケ「苦境の時にアートなんて一番最後。でも自分はやれることをやる」

コロナ禍のフランス・パリ(5月11日よりロックダウンが一部解除)で暮らす日本人に、現地在住のカメラマン、松永 学が取材。 今回は画家でアーティスト、デザイナーの河原シンスケさんに話を聞いた。  

シンプルな生き方「原点回帰」を目指して  

パリを拠点に活動するアーティスト、河原シンスケさん。何度も撮影させていただいたことのある自邸は、スモールスペースながら、アトリエも兼ねた不思議な空間。内装もほとんど自分で手がけています。

シンスケさんは武蔵野美術大学卒業後、1980年代初頭よりフランスを中心に、アメリカ、日本でアーティスト活動をスタート。パリのパレ・ド・トーキョー、ロンドンのサーチ・ギャラリー、京都の西本願寺伝道院など、数々の展覧会での作品発表に加え、エルメス、ルイ・ヴィトン、ファベルジェなど多くのブランドともコラボレーションしてきました。 2020年9月にはベルギーブリュッセルで個展を予定しています。

日本とパリを行き来する自由人に、今の生活を聞いてみました。

「マクロン大統領が非常事態宣言を出した3月17日。遂にこのパンデミックの恐怖は、悪夢でなく現実だと認識させられました。

その直前まで次の展覧会の打ち合わせでベルギーのブリュッセル、新しいホテルプロジェクトでイビサ島に行っていました。すでにスペイン本土では感染拡大が危惧され始めてはいるものの、島自体はまったく穏やか。日中は真夏のような太陽と青い空、透き通る海が間近にあって、ピースフルな雰囲気で都会の危機感は届きませんでした。でも、流石にそろそろヤバイな、ここから出られなくなるな、と感じてフライトにギリギリ間に合ってパリに戻って来ました。

そして、この宣言。全フランス国民、全世界に向けた大統領の言葉はひとかけら、ひとかけらに心がこもっていて、‘Nous somme en guerre!‘「我々は戦争中です!」という言葉の重さが本当に心に響きました。そして、我々はロックダウン生活に突入しました。

私は普段からこもって作品制作しているので、一般の人たちに比べれば、それ自体は苦痛ではなく、かろうじて曜日や時間の感覚を持てたのは、仕事の依頼や、エージェントからの連絡があったから。「今日はいつもよりメールや電話が少ないないなあ」と思っていると、それは週末だったりといった具合でした。

この状況も早一ヵ月半が過ぎ、友達にも会いたい、食事にも行きたい、外でスポーツもしたい、と思います。でも今は無理。そう、戦争中にそんなことができるでしょうか? できたでしょうか? 以前アムステルダムに行ったときにアンネ・フランクの隠れ家を訪ねたことがあります。たった13歳の彼女は2年間も、そこで家族と息を潜めて暮らして、あの『後ろの家』(『アンネの日記』)を書きました。それと比べれば大した苦痛ではありません。

別に挑戦しているわけでないのですが、今日までまだ4回、それも食品の買い物にしか外出していません。皆それぞれの考えがあるから、何人かの友人は「ちょっとは外に出ないと良くないよ!」「散歩くらい出れば? 煮詰まるよ!」と言われますが、私は出かけないことに決めました。平和な時代に生きてきた自分にとって、「死ぬまで戦争なんて身近では起こらないだろう」「明日帰りたくなれば日本にだって直ぐ帰国できる」「パリが嫌なら何処か行っちゃおう!」など、それまで当たり前に思っていたことが今回完全に崩れました。

それでも、自宅にいられ、電気、水道、電話、インターネットだってある、一人でおもいっきり歌うことも、踊ることもできる(ちょっと近所迷惑かもですが……)。そんなこの状況に文句を言う自分をやめてみたら、仕事はいつもより集中でき、トレーニングもジムに行くよりハードにこなせるようになりました。

苦境の時にアートなんて、一番最後。呑気に見えても、実はすぐ近い将来への不安は膨大ですが、悩んでばかりいても自分にできることはたかが知れています。それなら今、自分のできることだけをやろうと決めました。

シンプルな生き方「原点回帰」を目指してという意味をこめて、毎日作る食事を’Naked Cooking’(「裸のごはん」)としてSNSにアップしたり、絵を描く以外に今、長編を書いています。それが何になるかは、わかりませんが……。

裸のごはん

9月にブリュッセルで予定している展覧会も現時点ではどうなることかわかりません。それでも制作を続けます。それが目の前にあるできることですから。

まだまだ不明なことだらけの未確認飛行物体的UFOのようなコロナ。終息後の世界は今とはきっと違っていることでしょう。それでも人類はたくさんの苦行をこれまでも乗り越えてきました。これからはパートナー、子供達、家族との関わり方も今までとは違うものになるでしょう。でも、それが新たな小さな挑戦の第一歩だったりするのかも知れません。

これまでに読んだことのない本、観たことのない映画、聴いたことのない音楽、様々な学習……掘ればまだまだできることは、コロナの自宅待機の間だけでは到底カバーしきれない程膨大な量です。

こんな時だからこそ、とにかくポジティブに、心身ともに健康でいられるよう努力したいと思います。

部屋でサバイブしましょう! 皆さんお気をつけて! STAY HOME ! 

明るい未来のために!」

河原シンスケInstagram
https://www.instagram.com/shinsuke_kawahara/  


Text & Photograph=松永 学