奥田瑛二「大人になるって何だろう?」

日本では数少ない男の色気を感じさせる役者、奥田瑛二。演ずる役柄には気骨とダンディズムが漂い、自身の生き様を重ねる。俳優として、映画監督として、そして男として、年をとるということとは――。

年をとって"心の体力"がついてきた

”背中には、男の生き方そのものが、無防備のまま現れる"

奥田瑛二氏がかつて自伝でそう綴っていたのを、撮影に向かう本人の背中を見て思いだした。そして文はこう続いたのだった。

”そこに魅力を感じるとしたら彼の生き方に無意識のうちに惹き寄せられている”

俳優や監督作品を通し、その存在が多くの人を魅了する奥田氏は、今年68歳になった。今考える若さとは?

「大人になれないということではないでしょうか。僕も35歳過ぎて役者として売れだした頃から、大人になるって何だろうという疑問がいまだに続いてます。それも普段、鏡を見るたび『なんだ? いくつだ、俺は』と思う。顔つきがある時期から止まっているんですよ」

鏡に映った顔は45歳の自分。その頃、舞台初日の前日に最終稽古で十字靭帯を断裂した。テーピングでなんとか25日間の舞台は終えたが、この時にそれまでがむしゃらに走り続けてきた「ガソリンが切れた」という。

「それも雷が落ち、何か回路がショートしたような。でもその時"俺はいくつまで生き、いくつで何をやるんだ?"ということをより強く自覚しました」
 
そこでそれまで漠然としていた映画監督になるという思いに挑み、10年毎の目標を定めるとともに、一番になることを決意した。

一方、近年では俳優として演じるのも、フィクサー的であり、若い世代がそれを乗り越えることで成長を遂げるというような存在感ある役柄が多い。

「そういうハードルになりたいという気持ちはありますね。それはひとりの男として。演技を通して、個に対してアイデンティティの大切さを植えつけたい。組織や肩書きにしがみつくのではなくてね。例えば悪役だって形でできてしまいます。でもそうじゃない。そこに清濁合わせた駆け引きや人間臭さがあり、それが本当の物語だと思います。だからこそそれを演じられるような役者でありたいと思います」

でもいまだにわからないことがあって、とふと漏らす。

「俳優としてなぜ売れたのかが僕にはわからない。どんなに集中して自分を追いこんで演じても、自分の中ではああダメだ、もっとやらなきゃ、怠けているという繰り返し。そんな際限のない道に入っちゃった人生だなと思います。それに夢中になっていると、売れた理由もわからないし、大人になってないとか、ならなきゃいけないなんていうのも関係ない。そんな世界に生きているのでしょう」

さすがに若い頃と比べれば体力こそ衰えたが、精神は逞しくなった。そんな"心の体力"がますますついてきたと笑う。

「売れたのが謎であり続ける限り、また人生にはそんな答えの出ないような大事なものがあればあるほど、若くいさせてもらえるというか、若くいられるんじゃないでしょうか。結局そういうことだと思うんですよ」

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Eiji Okuda
俳優・映画監督。1979年『もっとしなやかに、もっとしたたかに』で主役デビュー。以降、映画、舞台、テレビで活躍。2001年映画『少女』を初監督。’06年の監督作『長い散歩』にてモントリオール世界映画祭グランプリはじめ三冠を受賞。近作『散り椿』(’18年9 月28日公開)では、主人公と対立する城代家老を演じる。また、お笑いコンビ・ガレッジセールのゴリが監督する『洗骨』(18年公開)では主演を務める。

Direction=島田 明   Text=柴田 充   Photograph=滝川一真   Styling=久保コウヘイ   Hair & Make-up=石塚千絵子