【シリーズ秘書】日本マイクロソフト社長秘書が実践するAI・デジタル時代の仕事とは?

企業の生産性向上やAIの研究でも知られるマイクロソフト。世界最大のソフトウェア会社の日本支社の社長秘書は、秘書業務のうち、いくつかのタスクは確実にコンピューターに取って代わられる日が来ると語る。では、これからの秘書の仕事とは? その存在意義とは?


AIにできない秘書の仕事は「誰かを幸せにする」こと

4年前から大変革に取り組み、創業44年目にして株価が最高値を更新しているマイクロソフト。日本法人の業績も好調だ。働き方改革の先進企業としても知られ、日本中から100万人以上が本社オフィスを訪れている。率いるのは、平野拓也社長。そして彼を秘書として支えるのが、エグゼクティブ・アシスタントの丸幸美穂子さんだ。平野社長は言う。

「一緒に働く前から、とにかくできる人だという噂を聞いていました。本当にそのとおりで、常に3歩先、5歩先を見て仕事をしている。また、私だけではなく関わる人たち皆をしっかり見ている。自分のアシスタントですが、ここまでできる人はまずいないと感じています」

社長室での打ち合わせ。ガラス張りの社長室の前が丸幸さんの席なので、いつでも互いの動きが把握できる。

すらりと長身の丸幸さん。学生時代はバレーボール部のキャプテンを務めていたという。自ら体育会系と語る彼女が、秘書という職業を選んだのは、偶然だった。

「たまたま製薬会社で会長アシスタントを募集していたんです。合格するはずないと思ったのですが、採用されてしまいまして」

ここで12歳年上の女性秘書室長に、秘書とは何か、徹底的に教えこまれる。4年勤務したのち、ロンドンで2年間生活し秘書専門学校などで学んだ。日本人は彼女ひとりだった。帰国後、日本HPで秘書としてついた役員が日本マイクロソフトに転じることに。誘われたものの、自分の実力ではない転職に思え、頑かたくなに固辞し続けた。しかし、最終的には「当たって砕けろという気持ちで(笑)」と決意。

彼女のスタンスでは、いわゆる定型的な秘書業務をこなすのは大前提。考えているのは、いかに皆にとって最良のゴールを目指せるか、だ。

「お客様はどんなご要望をお持ちなのか。平野の意向は? チームの仲間はどうしたいか……。ひとつのスケジュールを組むにも、多くの人と話をし、どうすれば最善なのかを常に探していくことが必要だと思っています」

だから日中、彼女のもとには、ひっきりなしに人がやってくる。役員、本部長、プロジェクトリーダー……。各チームからの相談を受けるのだ。

そして、一番いい形で平野社長に伝える場面をつくったり、平野社長が出ていく形をつくる。

「平野が一番大事にしているのはチームであり、人です。その気持ちに応えたいのです。私がどんな役割をすれば、皆がハッピーになれるのか。その役割をできる限り果たすことが、自分のバリューだと考えています」

企業の生産性向上やAIの研究でも知られるのが、マイクロソフト。秘書業務のうち、いくつかのタスクは確実にコンピュータに取って代わられる日が来ると語る。

「AI・デジタル時代の秘書とは何かを自分なりに考えた時、自分の上司がスムーズに気持ちよく働けるようにすることだけが秘書の存在意義ではないと思いました。上司が大事にしているチームの気持ちに寄り添うこと、仲間の気配りや努力を見落とさずできるだけ拾うこと、自分の周りの誰かの気持ちが温かくなるようなサポートをすること。そして、仲間と上司との橋渡しになること。秘書であれば、それができると思うんです」

あくまで黒子である、という立場も気に入っているという。

「後ろから見るからこそ、見える風景があるんです。前を走っていると、後ろが見えないこともありますから」

こうした姿勢は、母親からの教えが大きかった、と語る。

「子供の時、おやつが出てきたら、まず周りの皆が取るのを確認してから取りなさい、と教わりました。あなたが取れなかったとしても、それはそれでいい、と」

献身的でホスピタリティに溢れた仕事ぶりは、社内のみならず社外でも高い評価を得ている。平野社長はこう語る。

「アシスタントというより、パートナーですよね。本当に一緒に頑張ってくれています」

マイクロソフトでは、全世界の拠点のトップに仕える秘書がシアトル本社に集まって会合を持つ機会が、1年半ごとにある。

「それぞれの国で、それぞれがプロフェッショナルとして独自の努力をしていて、刺激を受けます。本社CEOのサティア・ナデラの秘書からは、その時その瞬間に全力を尽くす強い意識を学びました」

ここ数年、ライセンスからクラウドへ、ビジネスモデルの大胆な転換が図られるなど、会社は大きな変革期にあった。

「この激動期に秘書として仕事をさせてもらえることを、感謝していますし、この仕事を、誇りに思っています」


Takuya Hirano(右)
1970年生まれ。日本人の父と米国人の母を持つ。ブリガムヤング大卒。ハイペリオン日本法人社長などを経て、2005年マイクロソフト入社。’15年より現職。

Mihoko Maruko(左)
1973年生まれ。外資系メーカー、持田製薬、ロンドン留学、日本HPを経て、2008年にマイクロソフト入社。’14年より平野社長の秘書に。
Company Data
1986年設立。’75年にビル・ゲイツらがアメリカで創業した世界最大のコンピュータ・ソフトウェア会社の日本法人。事業は各種ソフトウェア製品、Microsoft Azure、Office 365などのクラウドサービス、Surfaceなどのデバイスなどさまざま。


Text=上阪 徹 Photograph=苅部太郎、坂田貴広