ガッデム·インスタ·クレイジー 〜Manners Makyth Man  ハリー杉山の紳士たれ 第8回

英国王エドワード1世の末裔にして、父親はニューヨーク・タイムズ誌の東京支局長として活躍した敏腕ジャーナリスト。日本で生まれ、11歳で渡英すると、英国皇太子御用達のプレップスクールから、英国最古のパブリックスクールに進学、名門ロンドン大学に進む。帰国後は、4ヵ語を操る語学力を活かし、投資銀行やコンサル会社で働いた経験を持つ。現在は、活動の場を芸能界に置き、タレントとしてラジオDJやMC、情報番組のプレゼンターなど、さまざまな分野で活躍するハリー杉山。順風満帆な人生を送ってきたように感じるが、その人生は、情熱たぎる彼の、抜きん出た努力なしでは実現しなかった。英国の超エリート社会でもまれた日々、そして日本の芸能界でもまれる日々に、感じること――。  


私もあなたも"いいね!"の数で存在意義を測っている

先日あるパーティーでの出来事。エントランスにはおなじみの顔ぶれが揃い、各誌編集長、ファッショニスタ、モデル、タレント、スタイリスト、業界人などが並び、フォトコールを待っていた。フラッシュが灯されるなか、邪魔にならないハウスの音楽に乗るカジュアルトーク。顔見知りもいれば、長年の友人もいた。

こういう場を仕切るのが"PR女帝"。カミソリのような鋭利な眼差しで、彼女たちはクライアントが満足できるように、段取りがうまくいくように、パーティーを見守る。求められるのは360度の視野と圧倒的な俊敏性、そしてクライアントの無茶振りに対応できる柔軟性。できる人であり、敵にすると面倒くさいタイプだ。

昔からの礼儀として、お仕事でパーティーに招かれたらまず"女帝"に気軽な挨拶。軽く会釈しても、遊び心あるウィンクしてもいいだろう。この日も僕は会場に着き、"女帝"を探していた。

都内で行われたとあるパーティーにて。(※本文中のエピソードとは関係ありません)

受付の後ろに"女帝"らしき人物はいた。センターパートのショートヘア。硬い顔は、手に持ったリストを見つめながら眉間にシワを寄せる。初めましての方だった。目があった。よし、第一印象は大事。こう言う時はわかりやすく顔をくしゃっとさせて、相手の心に安らぎを与える"高橋一生スマイル"を出してみよう。"イ・ビョンホンスマイル"は後にとっておくのだ。

"女帝"の顔はビクともしなかった。

むしろその顔はメデューサとなり、自分は石化した。

いや待て、メデューサの口角が上がった、手を挙げたぞ。こっちに来る。

よし、このタイミングで"イ・ビョンホン"だ。この歯並びをご覧になれ!!

メデューサは自分の横を走り去っていった。小刻みに鳴るヒールの音が心臓に突き刺さり、敗北感を倍増させていった。僕は透明人間の気持ちがわかった。

ふと後ろを見ると、メデューサは誰もが知っているモデルの方を、パーティーへあたたかく迎え入れていた。優しい表情を彼女は浮かべ、自然なボディタッチと共にエスコート。これぞ究極のビジネスフェイスというお面。思わず笑ってしまった。

メデューサとモデルの方は会場の"映える"フォトスポットを周り、次から次へと写真を撮っていった。PR会社として、"いいね!"の数は生命線なのだろう。それを獲得するのが、セレブレリティや、インフルエンサー。クライアントが求めるプロモーション効果を与えられなければ、一生の汚点になってしまう。メデューサの立ち振る舞いはなんとなく理解できた。

メデューサが次なるセレブリティを迎え入れるためにエントランスへ向かう途中、僕とすれ違った。手元にあるリストが視界に入ってきた。赤線で囲まれた名前とフォロワー数。インスタグラム50万フォロワー以上がプライオリティなのか。自分をフォローしてくれているのは3万人弱。透明人間から人間へとレベルアップする道のりはまだ長くなりそうだ。

後日、広告代理店の友人に話を聞いたところ、明確なデータを知ることができた。フォロワー1人の単価が5〜10円。1万人フォロワーがいたら1回の投稿は5万円〜10万円の宣伝効果があると。タレントや著名人は付加価値で高め設定。となると自分は大体1回の投稿は30万円の価値がある一方、100万人にフォローされると1回の投稿は1000万円の価値があることになる。

それではメデューサの身になってみよう。日常は彼女の目にどう映るのか? おそらく"いいね! スカウター"という武器を彼女は自然とかけているだろう。人だけではなく、食べ物、服、風景、すべて"いいね!"と言う戦闘能力で見てるのではないか。ドラゴンボールで孫悟空の実兄ラディッツが地球人を初めて見てつぶやく「戦闘力…たったの5か…ゴミめ…」。こう我々も街を歩きながら思ってるのではないか?

そう、メデューサだけではない。"いいね!スカウター"を気がついたら皆かけている。私も、今この記事を読んでくれてるあなたも。便利な現代社会で存在意義を示すツールは我々の心を鷲掴みし、離さない。

"ガッデム・インスタ・クレイジー"、どこまで続き、どんな変身を成し遂げるのだろうか。

第9回に続く

Manners Makyth Manについて
礼儀が紳士をつくる――僕が英国で5年間通学した男子全寮制のパブリックスクール、ウィンチェスター・カレッジの教訓だ。真の紳士か否かは、家柄や身なりによって決まるのではなく、礼節を身につけようとするその気概や、努力によって決まる、という意味が込められている(ちなみに、Makythは、Make を昔のスペルで表記したものだ)。人生は生まれや、育ちで決まるわけではない、と。濃い人生を送れるかどうかは、自分自身にかかっているのだ。


第7回 偏見を我の力にせよ