西京銀行頭取 平岡英雄 預金、貸出金の増加率が全国1位に。本当にいた!地方銀行の“半沢直樹“

ドラマでは半沢が銀行内で窮地を切り抜けていく姿が視聴者に受けた。だが、本来の彼、西京銀行頭取 平岡英雄は、「銀行の論理」より融資先を重視する銀行マン。まさにその論理を次々と打ち破っている頭取が、山口県にいた──

頭取より社長のほうがいい

 頭取という言葉で、どんな人物像を思い浮かべるだろうか。豪華な執務室に引き籠もり、権謀術数をめぐらす老人。テレビドラマ『半沢直樹』なら北大路欣也の役どころだ。
「頭取ってああいう重厚なイメージなんでしょうけど、私なんか軽い軽い」
 そう言って笑うのは、山口県周南市に本拠を構える西京銀行の平岡英雄頭取。58歳という若さもさることながら、銀行のトップとは思えない気さくさに驚かされる。
「実は頭取って肩書も使いたくないぐらい。社長のほうがいいですよ。町で『頭取!』って声かけられると、みんな見るじゃないですか。山口県に頭取は(山口銀行と)ふたりしかいないから、恥ずかしくて、好きなサウナにも行けない(笑)。

かつての頭取室は、今や応接室として使われる程度。平岡は金丸眞明専務(左、56歳)、杉野光信常務(右、58歳)と、ひとつの部屋をシェアしている。「寂しくないし、秘書の報告だって1回で済むでしょ」

 冗談はともかく、銀行では社長と呼ばずに頭取と呼び、社員と呼ばずに行員と呼び、入社と呼ばずに入行と呼ぶ。そうしたことのひとつひとつが、『銀行は特別なんだ』という意識に結びつく。変えていくべきことかもしれません」
 実際、平岡の行動も「頭取的」ではない。かつての頭取室は応接室に充て、自分は専務・常務と共同部屋で執務する。頭取車は誰でも使用できる。東京出張の際は、飛行機やホテルを自らネット予約する。
 もちろん、彼が変えたいのは頭取像ではなく、銀行員の意識のほうだ。
「銀行の常識は世間の非常識みたいなところがあって。
 例えば、お金を貸して金利をいただくわけで、融資先とは、一般企業でいえばお客さんに当たります。ところが、なぜか向こうが頭を下げてくるので、行員は勘違いする。
 官僚的な対応をする行員は、お客さんに叱られることより、本部の審査部門や監査部門に叱られることを恐れている。どこかで『面倒くさい人は来なくていいよ』と思ってるから、ひとりひとりに応じてサービスを変えられないわけです。
 銀行の免許って簡単にはもらえないので、競争がないに等しい。どうしても『上から目線』になりがちです。それを本物のサービス業に脱皮させていくのが、私のテーマ」

印鑑を忘れてもお出しします

 支店長時代は圧倒的な成績を上げていたので、49歳の若さで取締役になった時も、54歳で頭取になった時も、行内に異論はなかった。
 ただ、本人としては「毎朝、辞めようかなと考える」日々だったという。営業ノルマ達成に悩むことはなくても、別のストレスがあった。
「最初の頃は小さな支店の支店長をやりますから、500万円以上の融資はすべて本部稟議がある。これが理不尽で。
 ある時、本部の審査役が、稟議に回した融資の金額を下げてきた。『前の支店長は主事2級の資格だったけど、まだ若いお前は主事3級だから』と言うんですが、そんなことお客さんには何の関係もないでしょ。
 銀行の期末になったら、取引先に協力預金や協力借入をお願いするのもおかしな慣習です。銀行の都合だけで、お客さんに迷惑をかけている。
 こんなこと、今はいっさい許してませんが、私が役員になるまでは、いくら意見を上げても変えられなかった。常務ぐらいからですよ、ようやく仕事が楽しいと思いだしたのは」
 あれも変えたい、これも変えたい。長年かなえられなかった憤懣(まん)があるぶん、トップに立つや、堰(せき)を切ったように改革案を打ちだしていく。
 客に負担をかける煩雑な手続きはどんどん簡素化した。両替ひとつにも名前・住所・電話番号を書かせる「銀行の常識」への宣戦布告だ。

お客様サポートグループ/相続のスペシャリストを本部に集中させた。支店を訪れる客は、パソコンのテレビ電話を通じて、ここのスタッフに相談する。豊富な専門知識が求められる分野だけに、話がスムーズに進むようになって客からは好評だという。

「電気料金の振込用紙をコンビニに持ってくと、バーコードにピッで済みますよね。ところが銀行では、お客さんに伝票を書けと言う。あれがサービス感覚の差なんです。銀行は平気で4枚も5枚も伝票を書かせる。そんなの1枚だけ書いてもらって、ホチキスで留めときゃええやないの、って話でしょう。おじいちゃんやおばあちゃんに伝票書いてもらうと、目が悪いし、手が震えるしで、数字欄から大きくはみだしていたりする(笑)。なんで行員が代筆してあげないのか」
 印鑑を忘れたり、違った印鑑を持参した場合、取りに帰れと言われるのが普通だが、西京銀行では、最低ふたりの銀行員が本人確認できれば、印鑑レスで手続きを進める。
「地方銀行の強みは、お客さんをよく知っていること。窓口に来られる方の7割8割は知った顔です。どこの誰かわからない相手じゃないんだから、フレキシブルに対応しろということですね。それこそ銀行の差別化だと思うんです」

女性や高齢者に優しい駐車場に

 お客様目線の改革が、もっともわかりやすい形で表れているのが相続の処理だ。
 これまでは1円の預金であっても、解約するためには死亡届や戸籍謄本など、多くの書類を揃える必要があった。
「時間も費用もバカになりませんよ。そこで、お客さんが信用できる場合、100万円までだったら、書類なしで出してあげなさいと」
 一方で事務のスピードアップも図る。支店で相続の手続きをすると、専門知識の浅さから時間がかかったり、書類の不備にあとから気づくようなミスが起きた。そこでスペシャリストを本部に集め、支店に来た客にはテレビ電話で相談してもらうことにしたのだ。
「自分が客になってみると、問題点がよく見えます。父が亡くなった時、相続の手続きでうちの支店に行ったら、平気で1時間も待たすんですよ。そのあと郵便局に行くと、『本局でないと相談できない』って断られて、逆に『これだっ!』と。
 他業種から学ぶことは多々ありますね。駐車場が狭いので、ある支店を閉めた。跡地にコンビニができたら、駐車場のフェンスが全部取り払われているんですよ。これなら女性や高齢者も出入りしやすい。なんで我々は気づかなかったのか」
 西京銀行はこの3年で、全店舗の半分に当たる30店を改修したが、駐車場のフェンスをなくし、1台当たりの駐車スペースを拡大している。

自分の勉強も続ける!/酒は飲めないが、「人に会って話を聞けば、何か得るものがある」と、連日、各種会合に出席する。この夜は地元優良企業の若手経営者が頭取を囲む「周南フラット会」。

残業時間は1日3時間は減った

 相続の相談だけでなく、それまで支店が管理してきた書類も本部に集中することにした。
 扱う現金の量が昔より減っていることもあり、その管理は出納機という機械で間に合う。支店の金庫はむしろ約定証、手形、債権書類などを保管するために使われている。
 そうした重要書類を本部に送ることで、支店の金庫は空になった。新店舗では金庫自体を作らず、そのぶんお客様スペースを広げた。全国的にも珍しい金庫レス銀行だ。
 書類は徹底的にIT化することで、書類整理という大仕事がなくなる。この結果、残業時間も大幅に減った。
「以前は、支店では22時ぐらいまで残業するのが普通だった。遅くまでいると仕事した気分になるし、早く帰れば評価が下がるような空気もあった。
 今は平均退行時間が19時。4月からは18時半を目指します。効率よく仕事をこなせば、いくらでも早く帰れるはず」
 事務の負担が減ることで、客と話をする時間が増えた。支店は従来の事務処理工場から、セールス集中拠点へと役割を変えたのである。
 こうした業務の劇的な効率化が評価され、西京銀行は、日本そうじ協会「掃除大賞2014」業務改革賞を受賞した。

地球が温暖化するので融資はできない

 西京銀行は今年ようやく預金量1兆円を超えたばかりの、決して大きくはない第二地銀だ。しかし、近年の勢いには目をみはるものがある。
 預金・貸出の増加率は、平岡が頭取になった平成23年3月期に、全国の地銀・第二地銀104行でトップに。その後も上位を維持している。
 地方銀行は貸出リスクを取らず、国債ばかり買っている──。よく耳にする批判だが、こと西京銀行に限っては当てはまりそうにない。貸出の半分を占める個人ローン残高は、この4年で倍増した。
「実は地方って、ローンの事故率が非常に低い。借りるほうも顔見知りだから、踏み倒して夜逃げするなんて格好悪い。親兄弟や親類縁者に泣きついてでも返済する。
 それなのに、銀行員は難しく考えるのが偉いと勘違いしてきたんです。簡単に貸し出すのは悪い銀行員だと。

 海の近くにアパートを建てたいという賃貸住宅ローン申請に対し、『これから地球温暖化で海水面が上がってくるので、融資できない』と難癖をつけた審査役がいるぐらい(笑)。
 それではお金が本当に必要な人のところへ回っていきません。地域経済の土台を支えるのが我々の使命なんだから、適正なリスクは冒さないと。審査能力を高めて、これまでなら貸せなかった層にまで融資を広げるよう努力しています」
 住宅ローンの申請に対しては、3日以内に回答を出す。事案を持ち込むハウスメーカーは他社を出し抜けるから、また西京銀行に頼むことになる。住宅ローン残高が飛躍的に伸びた秘密がここにある。

ゴルフの実力だと係長にもなれない…… /ゴルフ好きだが、練習は大嫌いで、なかなか100が切れない。「趣味を名乗るなって言われます。アプローチショットだけは秘密で練習しとったのに、この写真でバレるやないの(笑)」

「大切なのはスピード。もちろん失敗もありますが、間違ったら、素直にそれを認めて、やり直せばいいだけ。銀行員はミスを恐れすぎです。
 私だって失敗しますよ。最近だと周南市の中心部にローンセンターを作ろうと役員会に諮り、プレスリリースまで出した。だけど直前になって必要ないとわかり、中止を決めた。監査役に県の元副知事がいるんですが、『県庁なら、絶対にありえない』って(笑)」
 銀行の面子、頭取の面子を考えれば、普通なら中止はない。元副知事の驚きは、褒め言葉でもあるだろう。
 銀行には減点主義がはびこっている。銀行員がリスクを冒さないのは、自分で判断してミスした場合、出世に響くからである。現場での柔軟なサービスや、積極的な融資を実現するには、その文化を根底から覆す必要がある。敵の姿が見えないぶん、難しい闘いになる。
「銀行の論理」に挑み続ける平岡の姿は、むしろ半沢直樹にダブって見える。ただ、その闘いを邪魔する上司はいない。

周南のシンボル、石油化学コンビナートを背に/「地方が疲弊してるというけど、そうは思わない。努力しなくても報われる時代が終わっただけ。要は頭の使いようです」


Hideo Hiraoka
1956年、広島県広島市生まれ。広島大学卒業後、'78年に山口相互銀行(現・西京銀行)入行。経営戦略室長、総務人事部長などを経て、2005年に取締役兼執行役員。'10年から現職。熱狂的な巨人ファンでもある。

Text=丸本忠之 Photograph=岡村昌宏(crossover)

*本記事の内容は14年4月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)