右足を上げたり、上げなかったり……。大谷翔平はなぜフォームを固定しないのか?【実践的行動学㉔】

幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から“大谷番”として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。 

レッグキックとトータップ  

右足を上げず、内側に少しだけひねる。これまでも筆者は大谷の打ち方をすり足気味、ノーステップ気味などと記してきたが、ようやく腑に落ちる答えが見つかった。

8月23日。大谷がアスレチックス戦で22打席ぶりの安打となる5号3ランを放った。前日から打撃コーチの助言で右足を上げる打ち方を試したが、右足を上げない打ち方に戻した打席で快音を響かせた。試合後のオンライン会見で日米自己ワーストの21打席連続無安打と不振だった原因を「(ボールとの)距離感とタイミングがズレていた」と明かすと、「基本的には距離感とタイミングというのはレッグキックをした状態でのものなので、そこを基準にして、あとはトータップするかしないかだと思う」と詳しく説明してくれた。

レッグキックは足を上げる打ち方で、トータップはいわゆるすり足気味、ノーステップ気味のもの。トーは「つま先」で、タップは「軽く叩く」の意味。'18年オフに大谷が自身の打撃フォームについて「ステップはしているので、それが事実」と語っているように、確かにつま先を支点に内側にひねった後に踏み込んでおり、タップという表現もこれまでより格段にイメージしやすくなった。

レッグキックとトータップ。今後は臨機応変に臨むという。

「どちらかをずっとやっているとそういう動きに慣れてしまったり、そういう感覚に慣れてしまう。良くも悪くもですけど、そういう感覚に慣れないように、常に新鮮な状態でやれればいいかなと思います」

自分主導の投手に比べ、打者は投手の動きやボールに動きを合わせていく。再現性を高めるというよりは、柔軟に対応できる動きを追い求めるのだろうか。大谷は「両方やりながら良い位置を保ちながらやれればいい」と語っていた。

「練習も大事ですし、試合の中で試すのも大事。(レッグキックは)一つの練習の一環としてやるのはいいんじゃないかなとは言われていたので、それはそれで良かったんじゃないかなと思う」

結果が出なかったからレッグキックが駄目だったわけではない。このほか、大谷は投手によってスタンスの向きを変えるなど試行錯誤は多岐にわたる。

余談だが、恥ずかしながら筆者は会見で大谷が発したトータップが聞き取れなかった。何度レコーダーを聞いても「どうとく」「とっとく」にしか聞こえず、他社の先輩記者に質問し、ようやく正解が判明した。レッグキックとトータップ。これから日本の野球界で当然のように使われる言葉になればメディアの一人としても喜ばしいことだ。

Text=柳原直之