【松浦勝人】「僕はスタジオで楽曲をプロデュースする人になって、影の薄い存在になっていたい」

未来への投資

限度を知らずに何でもやりすぎてしまう。身体にいいと言われる療法を耳にすると、試さずにはいられない。健康療法の勉強をしている医師の友人がいるので、その人に教えてもらったり、安全性や効果を確認してもらったりして、最新と言われる療法はだいたい試している。

例えば、身体の傷ついた細胞を修復してくれる幹細胞療法。出生時、約60億個ある幹細胞は成人する頃には約3万個まで減り、加齢に伴うその数の減少は、老化や病気の原因と言われている。そこで、脂肪内の幹細胞を採取し、大量に培養してから点滴で身体に戻す。幹細胞投与後は非常に体調がいい。まったく疲れを感じなくなるばかりか、頭の回転もよくなり、僕はいつも以上に動き過ぎてしまう。

鍼も長いことやっている。背中に鍼を刺してからガラス容器を真空にして密着させるウェットカッピングもやった。凝りや痛みの原因となる、身体の中で鬱血しているドロドロの血液が吸いだされ、身体が軽くなる。

頭にも鍼を刺してもらう。8㎝ぐらいの長い鍼を、頭に突き立て、頭蓋骨に沿って入れていく。この状態で電流を流す。まったく痛みは感じなくて、終わると身体が軽くなる。その状態が数日は続く。

こういった健康療法の効果には個人差があるけど、周りから「何でそんなに元気なんですか?」とよく聞かれる。確かに、寝ないで朝までお酒を飲んでいても平気だし、普段のメンタルも上がっていく。

生きている間は、元気に生きたいという気持ちからやっていることだけど、あまりにもいろいろな療法をやりすぎて、どれに効果があったのか正直わからなくなってきている(笑)。新しい健康療法を探すのも楽しい。施術しているところを動画で撮ってもらい、それを人に見せるのも楽しい。もう、健康のためというより、健康療法マニアになっていると自分でも思う。


スマートウォッチもいつもつけていて、スマートフォンに心拍数や運動量を記録している。自分でも驚いたんだけど、心拍数の記録を見ると、東京にいる時は平均で90ぐらいと異常に高くて、海外にいる時は60ぐらいまで下がる。

医師に聞いたら、間違いなくストレスだと言う。東京にいると、無意識に常に戦闘モードになっていて、交感神経が活性化されて、心拍数が上がる。社長とか会長とか、僕の柄でもないことをやっていて、人前で話をすることなんか苦手なのに、決算説明会や株主総会に出なければならない。スーツを着ろ、ちゃんとしろ、酒は飲むな、24時間他人の目があることを意識しろ。それがすべて僕のストレスになっている。上場企業のCEOとしてそうしなければいけないということもわかる。一方で、僕が普通じゃない人だったからエイベックスができたんじゃないかとも思う。


アーティストとの関係も難しくなってきた。プロダクションというのは、才能のある原石に投資をして、その原石を人気者に育てて、投資資金を回収するビジネス。でも、ようやく投資が回収できるようになったら、本人が独立したいと言いだすこともよくある話。プロダクションとしては困ってしまう。これが、スタートアップ企業への投資であれば、投資をして、株式を保有し続けている間は配当が返ってくる。でも、アーティストは会社じゃなくて、人間だから。アーティストにしてみれば、恩義は感じていても、いつまで恩返しを続ければいいのか?と言いたくなる気持ちもわかる。

だから、エイベックスもアーティストの契約形態を何種類も用意して、選べるようにしている。従来のプロダクションと同じように、マネジメントのほぼすべてを引き受ける契約形態から、エージェントとして、最低限のマネジメントだけをして、アーティストへの配分を多くするという契約形態もある。

そういう改革をしてきて、今では、アーティストが独立したいと意思表示をしたら、会話を重ねたうえで独立してもやっていけそうなアーティストに対しては「独立しなよ。でも、エイベックスとエージェント契約を結ばない?」と言えるようになった。アーティストも面倒な仕事はエイベックスに任せて、自分はクリエイティブに集中できる環境がつくれる。


先月から、海外に1ヵ月ほど出張をしていた。そこで、最先端のエンタテインメントや最先端の音楽スタジオなどを視察してきた。今の音楽スタジオにはデスクが並び、パソコンが置いてある。テック企業のオフィスとあまり変わらない。そこにクリエイターたちが集まって、パソコン上で楽曲をつくっていく。これはいいなと思った。

以前は、地下のスタジオで、デモテープをつくり、僕はそれを聞いて、「ここはこうしてほしい」と指示を出していた。でも、今のスタジオなら、目の前でつくっている楽曲に対して指示をすることができるし、クリエイターたちと直接ディスカッションすることもできる。

海外に1ヵ月もいたというのは初めてのことだった。それでも、会社というのは生き物で、エイベックスは僕がいなくてもちゃんと回っている。僕がいなくても大丈夫というのは、少し寂しい気持ちになるけど、「僕がいないと大丈夫じゃないエイベックス」と「僕がいなくても大丈夫なエイベックス」だったら、後者のほうが断然いい。

会社としても、業界としても楽観視できない状況が続いている。でも、今手がけているエンタメ×テック×グローバルの事業改革が実る手応えもあるし、その後は業績が上がっていく道筋が見えてきている。

その業績が上向いた時、脚光を浴びるのは僕じゃなくていい。僕はその時、スタジオで楽曲をプロデュースする人になっていて、影の薄い存在になっていたい。業績を上げた時の経営陣と社員たちがスポットライトを浴びれば、それでいい。かっこよすぎることを言っているかもしれないけど、かっこつけたいんだよね。


Text=牧野武文 Photograph=有高唯之


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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長CEO。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。本連載をまとめた単行本『破壊者 ハカイモノ』(幻冬舎)を2018年7月に発売。
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