情報漏えい、仮想通貨不正、児童ポルノなどのサイバー犯罪に立ち向かう守護神・高谷康久

iPhoneはもちろん、ブログやSNSも存在しない2005年から、インターネットの安心・安全を守り続ける男がいる。イー・ガーディアン高谷康久社長だ。飲食店経営という夢を一旦止めて、サイバーセキュリティに取り組むことを決意した理由とは? ネットの進化に伴い、巧妙になるサイバー犯罪にどのように立ち向かっているのか? "ネット上の守護神"が熱い思いを語った。


稲盛和夫氏に憧れ、京セラへ転職

私の人生が大きく変わったきっかけは稲盛和夫さんの本との出合いです。稲盛さんの生き方、考え方、経営手腕……。すべてが衝撃的で、「なんとか稲盛さんの元で働けないだろうか」と考えました。当時、私は26歳。大学を出て、ジョンソン・エンド・ジョンソンという会社で働いていましたが、辞表を提出し、稲盛さんが会長を務めている京セラに転職したのです。

京セラでは、稲盛さんが創り出した"アメーバ経営"を目の当たりにしました。アメーバ経営とは、組織をアメーバと呼ばれる3~4人の小集団に分ける経営手法。それぞれのアメーバのリーダーは、自分自身が中心となって計画を立て、アメーバの目標を達成していきます。小さな集団をたくさん作ることで、社員ひとりひとりが主役になる。全社員が経営者意識を持てるというメリットがあります。この「全員参加型経営」の考えは、いまも私のビジネスの基本であり、イー・ガーディアンでも実践しています。

稲盛さんの考え方や経営手法に触れるうちに、徐々に経営者意識が芽生えてきました。「起業しよう」と思い立ったのは33歳のとき。京セラに入社して、7年が経過したころです。その事業とは飲食店チェーン。私は大阪人で、いつかは大阪名物の"粉もの"の店を持ちたいと思っていたんです。数ある粉もののなかでも、私が注目したのは"いか焼き"。いかと生地をプレスして焼く、大阪では知らない人はいないソウルフードです。でも、東京にはいか焼きの店はほとんどない。チェーン展開するには格好のテーマだと思ったし、成功の自信もありましたね。

京セラでの勤務の傍ら、いか焼きの事業化に向けて準備を開始。でも、時を同じくして、本業のほうでも大きな動きがありました。京セラとKDDIが共同でデータセンターを設立。私は企画営業や携帯公式サイトの立ち上げなどの業務を担当しました。その後、データセンターの業務のうち、コンテンツ事業が売却されることになり、ネット上のサイトの監視を担っていた部門も引き継がないかとお話をいただいた。その部門のトップをやってみないかという話が出たのです。

「ネットの守護神」の誕生

いか焼きか、それともインターネットの安全を守るか――。答えは、すぐに出ました。ネットの安全です。いか焼きは個人的なこと。チェーン化のアイデアの裏には「事業を成功させて、儲けたい」という個人的な欲も少なからずありました。でも、インターネットの安全を守ることは、社会的な意義が大きい。これからネット上での事件や事故は増えていくだろうし、一生をかけて取り組む価値があると思いました。決断するのに、ほとんど時間はかからなかったですね。

2005年、京セラを退社。新しく独立する部門の株式を買い、36歳にして社長に就任しました。それがイー・ガーディアンです。会社名は私が考えました。「インターネット上の安心・安全を守る」ことから、守護神の意味を持つ“ガーディアン”と名付けたのです。

当時は、ブログもなく、SNSも存在しない時代。多くの人がコミュニケーションの場として、"2ちゃんねる"などの掲示板を利用していました。そんな掲示板が、ものすごく荒れていた。暴力的な書き込みのほか、援助交際の相手探しなどが多かった。いまでは信じられないことですが、隠語を使って覚せい剤を売買する投稿もあったんですよ。イー・ガーディアンでは掲示板の書き込みを社員が自分の目で確認し、犯罪性のあるものについては警察に通報。警察と連携し、事件の発生を防いだり、自殺をくい止めたりした例も複数あります。

こうした地道な監視作業が、徐々に評価されるようになりました。例えば子育てサイトの監視業務を行った縁で、のちに出資先になっていただいた企業もあります。その後もソーシャルゲーム、EC、ネット広告などインターネットを活用したビジネスの拡がりとともに、当社を必要としていただき、各社様と長いお付き合いになっています。

東京大学とコラボレート

「人の目による監視」から事業はスタートしましたが、時代の流れは急速です。とくにインターネットの進化は驚くほど速い! 会社を立ち上げたころには、スマホでゲームをする時代が来るとは想像もしていませんでしたから。そうした時代の変化に伴い、監視のシステムも「人の目」から「自動化」へと移り変わりました。

イー・ガーディアンは、技術集団ではありません。長い間、人の力を頼りに事業を行ってきました。でも、時代はテクノロジーを求めている。そこで、高い技術を持った集団と組みたいと考えました。画像解析において世界的にもトップクラスの技術をもつ東京大学に声をかけたのです。

インターネット上には大量のポルノ画像があふれています。その善悪は別として、児童ポルノは完全な違法です。2010年代初め、この児童ポルノが世界中で大きな問題になっていました。東京大学には「児童ポルノを取り締まりたい。大量のポルノ画像から児童ポルノを抜き出す画像認識システムを共同開発したい」と申し出ました。東京大学が引き受けてくれるか自信はありませんでしたが、「社会的意義がある」と言って快諾してくれたのです。

こうして世界初となる人工知能搭載の画像認識システム「ROKA SOLUTION」が完成しました。児童ポルノ撲滅に大きく役立ったのはもちろん、その後、予想以上に幅広い分野で活用されるようになりました。例えば、インターネット上にあるビールの画像のなかから、特定の銘柄のビールだけを選ぶ。監視目的だけではなく、マーケティングや販促などにも応用できます。

時代とともに進化しているインターネット監視システムですが、戦いに終わりはありません。次々に新しい犯罪が出てきます。最近では、ビットコインの盗難事件が記憶に新しいでしょう。インターネットが進化すれば、残念なことに、犯罪の手口も巧妙になってしまうのです。日本では2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されます。ひとつでも多くネット犯罪を防げるよう、監視システムを強化していきたいですね。

大家族主義が会社を成長させる

経営者としての心得は「大家族主義」。これは京セラの稲盛さんの「家族意識を持てばその組織は発展する」という言葉に基づいたもの。全社員が仲間を愛し、愛しているからこそ、怒りもするし、喧嘩もする。家族であればこそ、感情を込めて相手と向き合うことができるのです。

家族の関係というのは大変堅牢です。たとえ途中で意見のぶつかり合いがあっても、本当に家族のように理解し合える組織であれば、最終的に必ず良い結果にたどり着くと考えています。成果はもちろん重要ですが、結果ばかりにこだわってギスギスするより、プロセスもしっかり見る。長期的には、そうした方向に行った方が成長できると思っています。

現在、イー・ガーディアンは海外進出にも力を注いでいます。フィリピンに拠点を作り、アジアでの業績は順調に伸びています。こちらも文化の壁を越え、フィリピンと日本法人が密な関係性を構築しています。イー・ガーディアンがグローバルな企業になって、「あの会社って、日本生まれだったの?」なんて言われるようになれば最高ですね。いま、私は50歳ですが、夢が現実になるように突き進みます。そして70歳になったら、いか焼きのお店を始めましょうか(笑)。

「他責ではなく、常に自責である」
この言葉を常に頭において、行動しています。


●愛読書

「生き方」稲盛和夫
稲盛さんの考え方が詰まった教科書のような本。新卒で入社した社員に、読むようにすすめています。


Yasuhisa Takatani
関西学院大学法学部を卒業後、1993 年、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。’95 年、京セラ株式会社に入社、情報システム部門にて、システムインテグレーションの事業に従事。その後、KDDIと共同設立したデータセンターの企画営業、および携帯公式サイトの共同立ち上げを手がける。 2005 年、イー・ガーディアンに入社。 ‘06 年、代表取締役社長に就任する。
E-Guardian
1998年設立。2016年に東証一部上場。投稿監視、風評調査、ソーシャルリスニングのリーディングカンパニーとして、導入実績800社以上の基盤を誇る総合ネットセキュリティ企業。事業領域は年々拡大しており、ゲームサポートやアド・プロセス、そして子会社化したEGセキュアソリューションズとの連携によるサイバーセキュリティ分野まで幅広い。センターは、提携先をふくめてグループで国内6都市海外8都市20拠点の業界最大級の規模を有する。
http://www.e-guardian.co.jp/


Text=川岸 徹 Photograph=鈴木克典