眼の再生医療の第一人者、髙橋政代 患者目線で医療界を改革 ~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

世界で初めて目の難病患者へのiPS細胞の移植に成功した再生医療のプロ、髙橋氏。 夫婦ともに医師で、日常会話はもっぱらお互いの研究内容だという。 医療界を改革すべく猪突猛進あるのみ。患者目線のその目が見据える先とは——。


すべての経験が糧になる境界領域での新発見

滝川 2014年9月、髙橋先生が率いるプロジェクトチームはiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の網膜細胞の移植手術を実施し、成功させました。世界初の快挙から3年半が過ぎ、再生医療への期待はますます高まっています。網膜再生医療研究の第一人者として、現在はどのような治療法を研究されているのでしょうか?

髙橋 次のチャレンジは網膜色素変性という難病の治療です。20年前、サンディエゴのソーク研究所にいた時から考えていた治療で、私が再生医療の世界に入ったきっかけでもあります。

NEXT VISION理事と、理化学研究所プロジェクトリーダーを務める髙橋政代氏。患者ひとりひとりに合う治療が必要と医療界を牽引する。

滝川 もともとは、京都大学病院で眼科医として臨床の現場にいらしたんですよね。脳神経外科医であった旦那様(現・京都大学iPS細胞研究所教授の髙橋淳氏)の留学に伴い、ソーク研究所に渡ったことが、大きな分岐点になったのだと。

髙橋 30代前半の頃ですね。娘ふたりも連れて。そもそも眼科を選んだのも「家庭との両立がしやすそう」という理由でしたし、ソークでは夫の研究を手伝うつもりでした。でもそこで幹細胞の存在を知り「世界で初めて幹細胞を知った眼科医になってしまった、これを治療に生かすのは私の使命だわ」と思ってしまったんです。

滝川 脳神経科の、しかも世界で最先端の研究内容を眼科医が知るのは、まれなことですか?

髙橋 なかなか行かないですね。でも異なる分野の組み合わせでできることって本当にたくさんあります。日本はまだ縦割りのイメージが強いですが、海外ではダブルメジャー、トリプルメジャーが当たり前になってきていますし、理研(理化学研究所)でも「横串を刺しなさい」ってよく言われています。

滝川 オープンだからこそ、広がっていくんでしょうね。

髙橋 おかげでどの分野でもやりたいことが出てきて、時間が足りなくて困ってしまうくらい。例えば今、自動運転の研究にも携わっているんですよ。視覚障害の方の移動手段になればというところから入って。手を広げすぎているかもしれないけど、でもやっぱり新しいことって、そういう境界領域で生まれると思うんですよね。

滝川 昨年12月に全国初の眼科医療の総合施設である、神戸アイセンターも開設されました。

「ルールが中心ではなく、患者さんが中心の医療を」という考えのもと2017年12月1日にオープンした国内初の眼科専門施設、神戸アイセンター。髙橋さんが理事を務めるこの施設は、眼の病気から研究・治療、臨床応用、さらにはリハビリ・就労支援まで、眼に関するトータルな支援を行うユニークな施設だ。

髙橋 はい。高度医療の研究・臨床から、日常的な問題やリハビリ支援まで、眼の問題でお困りのあらゆる方を対象にした施設です。10年前に提案した時には、できるわけない、と笑われたんですけど、やっと。

滝川 10年で実現って、かなり早いのではありませんか?

髙橋 ふふ。私はスピードが取り柄なんです。キャッチフレーズは「行き当たりバッチリ」といつも言っているんですが。

滝川 バッタリじゃなくて、バッチリなんですね。

髙橋 時代のスピードもどんどん速くなっているでしょう。長い時間をかけて綿密に計画するのは無駄だし、進めながら臨機応変に改良していくほうがいい結果を生むと思うんです。

滝川 でも大きなことを組織で行うとなると、協議に時間がかかる部分もありませんか?

髙橋 何人かで「やりたいね」とか言ってるだけでは動かないけれど、本気であれば必ず変化は起きます。全力で走っていると、不思議と目の前の扉が開いていくんですよ。2014年の網膜移植手術も、当時は世間ではまだ、iPS細胞を危ない細胞だと思っている人も少なくなく、関連する法やルールも決まっていませんでした。ルールは待っていたら何年先になるかわからないし、日本の場合、ゼロリスクを目指すので、実施のハードルが必要以上に上がってしまう可能性もありました。だからチームで安全性を確信できた時点で、実現に向かってガーッと走りだしたんです。

滝川 ルールができる前に。

髙橋 もちろんチームワークやコンセンサスは前提であって、実際には周りの方、厚労省や研究所のセンター長たちが一緒に走りながらルールを制定してくれた感じですね。やはりiPSには期待してくれているので、走る私がコケないように。

滝川 リスクも責任も負う心意気が見えるからこそ、みんなが協力してくれるのでしょうね。

髙橋 それでのちに薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)も変わったんです。厚労省の人に「思ったより早かったですね」と言ったら「先生の勢いがすごかったですから」と返されました。どんどん加速していて、もう遅いのには耐えられない。「ブルドーザーに乗ったサッチャー」とか言われてます。

滝川 すごいインパクト(笑)。

髙橋 学生時代はおとなしかったんですよ。同級生に会うと「なんでこんなになっちゃったの」って言われます。でも違うフィールドに行くことへの恐怖感は昔から少ないですね。京大病院での助教授の立場から理研への異動も、眼科医のキャリアとしてはありえないルートです。でももっと研究する時間が欲しくなって、まあいいかなと。

滝川 執着がないのですね。

髙橋 でもやると決めたことは諦めません。そのあたりの根性は、大学時代に所属していたテニス部で培った気がします。真夏も炎天下で5時間くらい、延々と試合してましたもん。

滝川 えええ……。テニスは私もやっていましたけど、真夏に5時間は考えられない。

髙橋 そんなにレベルが高くないからスマッシュのような決め球は打てないし、短気を起こして打ちこんだらミスして負けてしまう。ひたすら来たボールを拾うんです。粘り強さはかなり鍛えられました。

滝川 精神的なタフさも。

髙橋 チームワークもね。でも最近は面接でスポーツやってたかたずねるのダメらしいですよ。

滝川 そうなんですか? その人の大事な要素なのに。

髙橋 ねぇ。卒業後は大学病院で20年間、眼科で臨床を一生懸命やって。だからこそ異分野との出合いが活きたと思うから、やっぱりどの経験も重要です。いろいろ吸い取って進んでます。

ワンピース¥97,000(マックスマーラ/マックスマーラ ジャパン TEL03·5467·3700 ) ピアスはスタイリスト私物

慣習にとらわれず個人に寄り添う医療を

髙橋 神戸アイセンターでの活動は、医療改革のようなことも視野に入れているんです。現在の日本の医療システムはクローズドで、何よりも既存ルールが守られています。多くの人が危機感を持っているにもかかわらず、ビジネスを毛嫌いするのもあってなかなか変えられずにいるのが現状なんですね。

滝川 そういう話は聞きます。縦割り型の問題にも通じますね。

髙橋 一方で世界に目を向けると、医療の現場にAIが入ってきています。画像診断でグーグルが提携していたり、アップルは従業員やその家族用に医療施設そのものを開設予定だったり。医療はいずれ、病院ありきのシステムから解放されるでしょう。日本もより患者さん中心としたシステムに変えるべき時が来ているし、再生医療はそれを牽引できるはず。アイセンターは眼科領域だけの小さな施設ですが、だからこそ軽やかに動ける強みがあると思っています。

滝川 私たちは過渡期にいるのかもしれませんね。難しい挑戦の連続で、大変な思いをされることも多いのでは。ストレス解消にはどんなことを?

髙橋 ドライブは好きですよ。神戸のポートアイランドは道がゆったりしているので、好きな音楽をかけながら走ったり。

滝川 いいですね。私も運転好きで、よく走りに行くんです。

髙橋 そんな感じします。うだうだせず、スパッとしてそう。

滝川 初対面で見抜かれてしまいました(笑)。おこがましいですが自分も行動に移すのは早いほうがいいと考えているので、お話とても励みになります。

髙橋 わりと公私分けず、何でもひとつずつのプロジェクトと考えるんです。子供のお弁当をつくるプロジェクト、とか。あと10年くらい全力で走り抜けたら、引退してガーデニングしたいですね。「草ぼうぼうの庭をきれいにするプロジェクト」から始めたいと思います(笑)。

Masayo Takahashi
1961年大阪府生まれ。’86年京都大学医学部卒業。京都大学大学院医学研究科博士課程、アメリカ・ソーク研究所の研究員として網膜の研究を続ける。京都大学病院探索医療センター助教授を経て、2006年より理化学研究所へ。非常勤医として、眼科患者の診察も担当。

前回はこちら                        次回に続く


Text=藤崎美穂 Photograph=斎藤隆悟 Styling=吉永 希 Hair&Make-up=面下伸一(FACCIA)  Cooperation=東京プリンスホテル


滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
気になる方はこちらをチェック