川淵キャプテンのパワーの源 「怒りの感情が、僕の一番の原動力」

去る1月に行われた第8回のゲーテが選ぶビジネス大賞「シーバスリーガル ゴールドシグネチャー・アワード2018」。ゲーテ編集部は「ビジネスイノベーション エンターテインメント部門」を受賞した日本サッカー協会最高顧問の川淵三郎氏に独占インタビューを敢行! サッカー日本代表監督やJリーグ初代チェアマンを経て、日本バスケットボール(Bリーグ)の立ち上げを牽引した川淵氏。日本のスポーツ界において数々の改革を断行してきた川淵キャプテンが、そのパワーの源について語った。 

怒って怒って、僕は突き進む

まず、今回のゴールドシグネチャーアワードを受賞された感想をお聞かせください。

正直、この賞がどんなものなのか分かっていなかったんだよね。でも、調べてみたら何やら権威のある賞なんだなと思って。もらえるならもらっておこう、という感じです(笑)

川淵さんはこれまで日本のスポーツ界に多大な貢献をされてきましたが、時には苦境に立たされたということもあったと思います。そういった壁を打ち破ってきた原動力はなんでしょうか。

僕のエネルギーの源は、”怒り”ですね。何で行動しないんだ、という怒り。Jリーグを発足させた時もそう。サッカーって世界中で愛されていてプロリーグもたくさんあるのに、日本ではあまり人気がなかった。それはたぶん、我々の工夫が足りないからだと思ったんです。もっともっと日本人のサッカーファンを増やしていけるはずで、そのために大きな改革が必要だと感じたのが発端でした。でもプロ化を進める際に、当時のサッカー協会の幹部たちはみんな反対しました。時期尚早だ、成功するわけないとか言って。それを聞いて怒り心頭ですよ。でも、その怒りの感情を力にして、僕は突き進んでいったんです。冷静に考えて、ちゃんと段取りを組んで、みたいなことではエネルギーは湧いてこない。バスケットボールの時も全く同じで、バスケの素人が改革なんてできるわけないと周りから言われました。

そういった声への怒りをパワーにして、改革を断行していったと。

僕が思うに、短期間で改革を成し遂げなければいけない時ほどトップダウンで意思決定をしていくほうがいい。「みなさんの意見はどうですか」なんて聞いていたら間に合わないでしょう。だから、たくさん勉強して現状の一番の問題を分析した上で解決の方向付けをする。それが僕の役割だし、それをできるだけの経験があったから成功してきたんだと思います。自画自賛です(笑)。

日本人って怒りの感情を隠そうとするところがありますが、川淵さんの怒りは聞いていてとても気持ちがいいです。

初めて会う人だから物事を荒立たせずに優しく大人しく喋ろうなんて、僕はまるで思っていない。むしろ「おれの言うことを聞かんでどうする!」って感じですよ(笑)

授賞式にてスピーチをする川淵氏。

授賞の大きな理由に、「JFA こころのプロジェクト」という社会貢献活動への取り組みがあります。これは一流のアスリートが教壇に立ち、子供たちに夢を持つことの大切さを説くプロジェクトですが、こういった活動の根本には川淵さんのどういった思いがあるのでしょうか。

この取り組みのきっかけとなったのは、とあるイベントでした。2006年に石原慎太郎都知事(当時)と子供たちのいじめや不登校、自殺の問題について話し合うパネルディスカッションをやったんです。その帰りにクルマの中で考えたのは、我々はサッカーの技術はたくさん教えているけれど、人間の生き方だとか倫理観、正義感といったことを教えることができていない、ということでした。ちょうどその時、隣の席に日本サッカー協会の広報部長がいたので、なんとかしてそういう精神的なことを教える取り組みができないかと話をした。そこから1年間ぐらい多くの専門家たちと議論をして決まったのが、夢を持つことの大切さを伝える授業です。夢を追い求める過程での挫折をどうやって乗り越えてきたとか、どう努力していくかも含めて一流のアスリートに”夢先生”として語ってもらうものです。これが11年間も続いていて、この10年で1万2千回くらい実施しました。

世の中に必要とされているからこそ、11年間も続いているんですね。

このプロジェクトのすごいところは学校の正規の授業の中に組みこまれていて、さらに160もの市区町村がこのプロジェクトと協定を結び、自治体の政務として授業を行っていることです。さらに、これからはもっと授業数を増やして毎年3000回を目標にやって欲しいと僕は言っているんです。3000回というと大体1クラスが30~40人ですから、1年間で約10万人。これはつまり、その年代でいうと一割の子供たちに授業をするということで、これは大変大きな影響力がありますよね。また、今までは主に小学5年生を対象にしていたのですが、今後は中学2年生にも教えることになっています。

この授業を受けた子供たちが大人になって、夢を持つことの大切さを語り継いでいく。川淵さんは本当に多くの”未来への種”を蒔かれていると思います。

この取り組みでは夢先生と子供たちとのコミュニケーションも大切にしています。授業の後日、子供たちが夢先生にメッセージや自分の夢を書いた手紙である、”夢シート”を送る。その夢シートひとつひとつに夢先生が返事を書いて送り返すんです。そのやり取りもまた感動的で、思わず涙を流してしまいそうになってしまうエピソードもたくさんあります。その話をまとめて、是非幻冬舎さんで本にしたい(笑)。

最後に2020年の東京五輪に向けて、日本スポーツ界を盛り上げていくために川淵さん自身がやりたいことや、何か考えていることなどはありますか?

それは僕が考えることではないです。でも、スポーツを通じて日本人の素晴らしい国民性が世界に伝わっていけばいいなと思っています。

作詞家で本アワードの特別審査委員長を務めた秋元康氏とのトークセッション。
Saburo Kawabuchi
1936年生まれ。公益財団法人日本サッカー協会最高顧問。日本の元サッカー選手で元日本代表監督。Jリーグ初代チェアマンを経て、第10代日本サッカー協会(JFA)会長を務めた。会長退任後は日本サッカー協会名誉会長を経て、2012年6月より現職。’13~’17年には公立大学法人首都大学東京の理事長、’15~’16年に公益財団法人バスケットボール協会(JBA)会長を務める。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会評議員会議長、国際バスケットボール連盟JAPAN 2024 TASKFORCEチェアマンなどを歴任。日本トップリーグ連携機構の代表理事会長も務める。

Text=ゲーテWEB編集部 Photograph=鈴木拓也