「それ、会社病ですよ。」中国の消費者は本音で行動する。リーゾナブルないいモノは売れない Vol.3


日中関係の悪化で、中国市場での日本企業の苦境が伝えられています。しかし、実は政治的な対立が起こる前から、自動車や電機などの日本の製造業は相対的な存在感を落としていたのです。いずれ市場が成熟すれば実態は顕在化したはずですが、今回、思わぬ形で表に出てしまった。そう捉えるべきです。
 もっと言えば、日本の製造業は世界中で同じ課題に直面しています。地球規模で進行する社会構造の変化についていけていない。
 経済成長によって中産階級が多数派となる社会を作ることができたのは、20世紀後半の数十年に過ぎません。それは人類史上、珍しい、幸せな時代でした。今の世界の経済構造では、富を持つわずかな人を頂点に、所得が下がるほど人数が増えていくピラミッド型の社会構造にならざるを得ないのです。
 その状況を放置した典型例がアメリカです。富が人口の1%に集中している。その事態を避けようと所得再分配に挑んだヨーロッパは、国家財政破綻と高い失業率に苦しんでいます。
 中産階級が多数派の社会になるか格差社会かは産業構造で決まります。政治やイデオロギーではどうにもならない。そして中国で起きているのも、アメリカ型の所得階層構造です。ところが、日本の製造業は今なお中間層が対象の製品を中国に送り続けています。市場にマッチしていない。必要とされているのは、“リーズナブルないいモノ”などではないのです。とことん贅沢で高級なモノか、最低限の機能に特化したとことん安いものか。中途半端な商品は、中国では売れません。

例えば、ヨーロッパの高級車メーカーは、世界中でこの思想を貫いています。これほど円高ユーロ安になっても、イタリアやドイツの高級車が値段を下げたという話は聞きません。むしろそれはブランドを毀損することを彼らは知っているからです。仮に販売台数が減っても、利幅で儲かればよいと考える。それで企業としては成立するビジネスモデルなのです。
 日本の製造業は今、大胆な発想転換が求められています。分厚い中間層を前提とした日本市場は世界の例外だと理解すること。作った設備や雇った人材を無駄にしたくないからモノを作るという癖から抜けだすこと。高級か激安か、突き抜けた商品を送りだすこと。量に頼るビジネスから脱却すること。年間生産台数なんてものを目標にしているメーカーはもはや先進国にはありません。単にビジネスモデルを変えるのではなく、コーポレートモデルを変える勇気が必要です。
 尖閣諸島についての日中関係をどうするか、政治的には、お互い譲れるわけがありません。しかし経済的にこれ以上悪化することもないと私は見ています。なぜなら日本人以上に、経済について中国人は本音で行動するからです。本当に必要なモノ、欲しいモノがあれば、中国の人々は日本から買うのです。逆に言えば、本音で行動したらどうしても買いたくなるようなモノを、日本は作らないといけないのです。その命題をクリアすべく日本企業が大進化できるか否か、今が勝負です。


Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
*本記事の内容は12年11月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい