書道家・武田双雲が現代アーティスト・Souun♡に転身する理由

書道家として国内外で活躍する武田双雲氏には、現代アーティスト、Souun♡というもうひとつの顔がある。その誕生までの軌跡と世界観、新境地に至った彼が目指す、「これから」に迫る。


「作品には、『楽』か『豊』の字が自然と浮き上がってきます」

日本を代表する書道家、武田双雲氏。パフォーマンス書道や音楽家とのコラボレーションなど、枠にとらわれない活動を続けてきた彼が今、現代アーティスト、Souun♡としても注目を集めている。

本格的にアートの制作に取り組むようになって約2年、すでに700以上の作品が生まれた。色使いから作風まで実に多彩。それでいて、どれも武田氏らしい躍動感と自由さ、ポジティブなエネルギーが感じられる。

「できあがるものが予測できてしまうから」と、敢えて絵筆は使わないのもSouun♡流。

「アートを始めるきっかけになったのは、娘から借りた色鉛筆。文字をカラフルに塗ってみたら、書道とは違う楽しさが味わえて」

そう言った後、「でも、おおもとをたどればネットでの対戦ゲームにハマったことなんですけどね」と、笑う武田氏。それは今から5年ほど前、暇つぶしにと始めたところ、自分でも意外なほど夢中になり寝食を忘れて没頭。そんな生活を約2年続けた結果、左腕は壊れる寸前に。「それでもなかなか止められなかった僕に、娘が『ゲームを止められたら、色鉛筆を貸してあげる』と、励ましてくれて。父親としては情けない話ですが、ゲームにハマってよかったこともある。それは、初めて〝競争〞を体験したこと。僕はマイペースに生きてきて、人と競ったことがなかったので、負けた悔しさや勝利する喜びとかを味わったことがなかったんですよ。感情を制御できない、自分の小ささも自覚できましたしね。やっぱり、人生にムダなことなんてひとつもありません(笑)」

アートには制約がない。それが最高に楽しい!

同じ頃、芸術家たちを特集したテレビ番組『芸術ハカセ』に出演したのも大きかった。ピカソの人生に触れ、「自由さに惹かれた」という。

「絵だけでなく、彫刻や陶芸など思いつくままに次々新しいことに取り組んでいる。考えるより先に手が動いているというか。その生き方に、圧倒されました」

当時は、武田氏がADHD(注意欠陥・多動性障害)の症状があると診断された時期でもある。「子供の頃から空気が読めず思いつくままに行動し、何度注意されたことか。でも、それがADHD だったからだとわかり、少しホッとしたんですよね。僕の主観ですが、ピカソも行動が衝動的。次に何をするか、他人どころか自分ですら予測できなかったんじゃないでしょうか。でも、クリエイティヴってそういうものかもしれません。人の予想や考えの範囲内では、新しい発想は絶対に生まれないから」

作品を展示しているのは、アトリエ側の「テラスハウス」。

収録後、武田氏は、「書道家にとって禁断の場所」である画材専門店へ。

「それまで墨しか扱ってこなかったので、いろんな色、素材を目にして、興奮しっぱなし。気づいたら10万円分くらい画材を買っていました。それをずらっと並べて、手にした色を思いのままキャンバスに重ねていく。これとこれを混ぜたらどんな色になるんだろうって、まるで化学の実験です。時には、アクリル絵の具にその場にあったお茶やコーヒーをぶっかけたりして。で、『うわっ、何この汚い色!いや、待てよ。汚いって、そもそもどういうことだろう?』って。僕は自由にやってきたほうですが、書道には書き順をはじめ、決まりごとがある。でも、アートには制約やルールがまったくない。それが、とても気持ちいいし、ものすごく楽しい!『自分は自分のままでいいんだ』って、許されている感覚をずっと味わえているんですよね」

絵の後に始めた陶芸も同様。不器用で手順通り行うことができないという武田氏だが、師事した陶芸家が、好きなようにつくらせてくれたのが功を奏し、すっかり魅了された。

「陶芸=器だと思っていたんです。何でもアリなら、と文字をモチーフにしたオブジェをつくったら、師匠が『面白い』とすごくほめてくれて。で、調子に乗っちゃった(笑)。絵も陶芸も40歳過ぎてこんなにワクワクするものに出会えるとは思わなかった。今、最高に幸せです」

描く時にテーマは設けず、感情のまま手を動かすだけ

現在、武田氏のアトリエは自宅近くにある古いアパートの一室。近く取り壊されることが決まっていて、気兼ねなく制作に没頭できる、と借りた。1K の室内一面にブルーシートが敷かれ、そこにアクリル絵の具のチューブやボトルとともに、描きかけのキャンバスが数点置かれている。壁には作品がかけられているだけでなく、壁そのものにも文字やアートが描かれており、さながら何でもOKな、武田氏の遊び場のようだ。

「描く時はテーマも決めず、こんなイメージで、という想定もしません。いつも作品ができた後、『うわっ、こんなのができちゃった!』って、自分で自分の作品に驚いてしまうほど。自分が描いたという感覚がないんですよ。だから毎回感動して、『オレ、アートの世界に革命起こしちゃったかも!』って(笑)」

色使いも作風もバラエティ豊かだ。

そう言って、壁に立てかけてあった絵を床に置き、おもむろに絵の具のチューブをふりおろし、色を飛ばす。さらにボトルから絵の具をたらし、それを手のひらで伸ばし始め……。素人目には十分完成していると思われる作品ですら、自分の心の赴くまま、手を加える。いや、おそらく本人には、加えるという感覚はないのだろう。気がついたら、身体が動き、色を重ねていた、といったところか。

キャンバスがきれい、この絵の具がきれい、この曲線がきれい。目の前に存在するものに純粋に感動し続けた先に、後に他者によって「作品」と呼ばれるものが生まれるだけなのだろう。「ゲームにハマったからわかったことですが、世の中ってジャッジだらけ。モノサシがあり、それを基準に上とか下とか決められて、みんなその評価を気にして生きている。でも、アートにモノサシはない。少なくとも僕は、何かを目指して描いているわけではなくて。ただワクワクする気持ちに突き動かされて、手を動かしているだけなんです」

アートの力で世界を楽しく、幸せにしたい

武田氏は、今秋、活動拠点をアメリカ・カリフォルニアに移す。5年ほど前から所有する家の敷地内に、陶芸用の窯を併設した工房を建て作品づくりに打ちこむのだという。長年続けていた湘南の書道教室も閉め、書道家から現代アーティストへと本格的に転身することになる。「アメリカに移ることで書道家・武田双雲と、現代アーティスト・ Souun ♡の境は益々なくなるでしょうね。それに、そこはとても気持ちがよくて、住んでいる人の幸福度もかなり高いんですよ。僕も、毎日幸せいっぱいで創作活動に取り組める気がしています。

陶芸作品は「楽」をモチーフにしたものが多数。「たのしくて、らく。ENJOYとRELAXという素敵な意味を持つ『楽』を世界中に届けたい」

アーティストって、生き様をさらけだす職業だと思うんですよね。ならば僕は、どんな生き様を示したいのか。そう考えた時に浮かんだのが、感謝や笑顔、穏やかさ。幸福感に溢れ、エネルギーにも満ちた生き方なんです。僕のアートを目にした人にもそれが伝わって、楽しくハッピーになってもらえたら」  

アートで世界を楽園にする。

その想いを胸に、武田双雲改め Souun ♡は、新たな一歩を踏み出す。

※ 掲載作品は、『ピカソ、ごめん。』展にて購入可能。作品についての質問、在庫確認は下記まで。武田双雲アートプロジェクト事務局:souunart@gmail.com


武田双雲イベントスケジュール
Souun♡「 ピカソ、ごめん。」展@代官山ヒルサイドフォーラム

 2 月 5 日(水)~16日(日)
※ 2 月 11 日(火・祝日)、 2 月 15 日(土)はライブパフォーマンスイベントを実施予定


熊本出身の画家・山本太郎氏、瀧下和之氏とのコラボ「 HINOKUNI展」@ 新宿高島屋美術画廊
 2 月 12 日(水)~ 24 日(月・振休)
武田双雲展「煌めき」@ 日本橋三越
 2 月 26 日(水)~ 3 月 2 日(月)
※詳細は武田双雲公式HP www.souun.net にて告知予定  


現代アーティスト Souun♡
1975年熊本県生まれ。書道家として活躍する一方で、2018年から現代アートの制作もスタート。今年は個展を積極的に開催するなど、書道家から現代アーティストへと本格的に転身。世界を目指し、アメリカに拠点を移す予定。


Text=村上早苗  Photograph=岡村隆広