「それ、会社病ですよ。」クリミア問題はうやむやのままに?法は絶対、などと考えてはいけない Vol.22


ウクライナ領のクリミア自治共和国をロシアが編入する問題が大きく報じられています。旧ソ連時代、肥沃な土地を持つ穀倉地帯であり、軍事拠点もたくさんあったウクライナは、ロシアにとって極めて重要な地域でした。しかし、ロシアとは必ずしも折り合いがよくなかった。そんななか、もともとロシアの一部だったクリミアを、言ってみればプレゼントしたのが、ウクライナから頭角を現したフルシチョフです。旧ソ連の複雑な事情から、クリミアはウクライナに編入された過去があるのです。
 実際、旧ソ連が崩壊した時、その関係を巻き戻すような動きがクリミアにはあったようです。しかし、当時のロシアには受け入れる余裕がなかった。ところが今回、親ロシア派の大統領が失脚したことで、この問題が再燃。しかも今は、ロシアの資源にウクライナが依存している、過去とは異なる状況。数年前には、天然ガスのパイプラインをロシアに止められて大騒ぎする事件もありました。もうロシアは、ウクライナのご機嫌取りは必要なくなっているわけです。
 欧米先進国は「ウクライナ憲法にのっとった手続きをとっていない」と、国際法を盾にロシアを非難しています。一方でロシアは、国際法上、住民自治が優先されると言っている。20世紀前半の民族自決運動からヨーロッパの国は分割したり独立したりして生まれたわけで、民族自決的に考えれば、それも確かに言えなくもない。

注意しなければならないのは、国際法などというのは、実にいい加減な法律だということです。固有の領土といっても、いったいどの歴史までさかのぼるのか。また、実効支配だって認めてしまっている現実があり、それを尊重する法理も存在する。そして国際法の最大の問題点は、強制執行する権力が担保されていないこと。要するに、「法」としてはかなり頼りない。
 日本人は、法といえば絶対的なもの、というイメージを持ちがちですが、国際法などというのは、しょせんこの程度のもの。もとより覇権国同士は戦争したがらないし、力関係が明々白々な場合も同様。国際関係の本質は、経済力と軍事力のパワーゲームなのです。事の是非は別にして、国際社会の現実はそういうものなのです。
 今回の関係各国にとって、唯一最大の共通の利害は、クリミア問題が大規模な紛争にならないようにすることです。法と正義のためだけに戦争をしても、誰にもプラスはない。つまり、今のままの状況で、なんとなく時間だけが過ぎていく、ということになる可能性は高いでしょう。
 けしからん、と言っても答えは出てきません。世界は利害関係と損得勘定で決まる。そんなリアリティーのなかで、どうやって平和で豊かな国際社会を作るのか。これこそが、問われている世界の現実です。
 そして忘れてはいけないのは、過去の戦争はほとんど民意の熱狂で始まっているということ。その抑止はリーダーの重要な使命です。「戦争はかくも悲惨なものだ」と。また、内政的に安定しないと、外に敵を作りたがるもの。他国の安定に寄与することが、実は平和を生むのだと知っておく必要があります。


Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
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