インターハイ、五輪で敗れた経験が井上康生を名柔道家に育てた~ビジネスパーソンの言語学93

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座93、いざ開講!

「しかし、皆さんの人生はこれからです」ーーーインターハイの開催中止についてブログでコメントを発表した柔道日本代表の井上康生監督

コロナ禍を受けて、今年8月に予定されていた全国高校総体(インターハイ)が史上初の中止となった。部活動どころか学校そのものがほぼ止まっている状況で仕方のない判断だとは思うが、必死で競技に打ち込んできた高校生たちが相当に悔しい思いをしているのは間違いないだろう。柔道日本代表の井上康生監督は、自らのブログでそんな高校生たちに力強いメッセージを送った。

「予選、本戦を目標に日々努力をされていた高校生の皆さんにとって、とてもつらい決定かと思います。しかし、皆さんの人生はこれからです」

「私は高校3年のインターハイでは団体、個人戦共に県大会で敗れ、本戦に出場できませんでした。(中略)とても悔しく、情けなく、多くの涙を流したことをいまだに覚えています。しかし、この経験が柔道家としても一人間としても成長させてくれたように思います」

悔しい思いが人を育てる。井上は自らの経験からそれを学んだのではないか。2000年のシドニー五輪では金メダルを獲得。4年後のアテネ五輪では連覇を期待され、日本選手団の主将も務めたが準々決勝で敗退。’08年の北京五輪の選考会で敗れ、この年に現役を引退した。金メダリストとして過ごした時間より、敗者、挑戦者として過ごした時間のほうが長かったかもしれない。その経験、そのときの思いは、指導者になった今いかされているのだろう。

「この悔しい経験も、また皆さんがこれまで築き上げてきたこれまでの努力も間違いなく次なるステージで活かされると思いますし、活かすべきです」

思うように生きられないこの時期をどう生きるか、どう過ごすか。それは高校生だけの課題ではない。遊びたくても遊べない。働きたくても働けない。見えない敵と戦い、約束されていたと思っていた未来がどんどん遠くなっていく。不安な思いに押しつぶされそうになっている人も少なくないだろう。それでも、自分でコントロールできないものを恨んでも仕方ない。

 “次なるステージ”は必ずやってくる。つねに前向きというわけにはいかないだろう。ときには下を向き、ため息をつくのもいいだろう。だが、その時が過ぎたら自分を奮い立たせ、“準備”を始めようではないか。井上のように人生を振り返って「あのときがあったからこそ」と言えるように、今という時間を過ごせば明るい未来が待っているように思う。

Text=星野三千雄