【バンク光本勇介】すべてのビジネスは実験だ! 気鋭IT起業家の最"狂"哲学<後編>

「STORES.jp」「CASH」「TRAVEL Now」。次々と常識外れのビジネスを生みだしてきた、バンク代表・光本勇介。混沌とした時代を飄々と駆け抜ける最"狂"IT起業家の思考に迫る。


CASHの成功で垣間見た世間の本質

ユーザーがアイテムの写真を撮ると金額が表示され、瞬時に口座に現金が振りこまれる。一方、バンクは買い取ったアイテムを中古市場に転売するという仕組みだ。CASHは光本の予想をはるかに上回る反響を呼ぶ。

「CASH」のアプリ画面。ユーザーに親しみを感じてもらえるよう、全体的にシンプルかつわかりやすいデザインとした。

「CASHは大きな話題になりましたね。パソコンの画面を眺めていると、CASHが利用されていることがリアルタイムでわかります。考えていたとおりのことが、目の前で起きている! 興奮しっぱなしでした」

しかし、CASHが利用されるということはつまり、バンクから現金が出ていくことを意味する。あまりの反響の大きさにサービスを一時停止する事態にまでなった。CASHはユーザーにお金を渡した後、モノを送ってもらってはじめて成立する、いわば性善説に則ったビジネス。光本が恐れていたのは、ユーザー全員が現金を持ち逃げしてしまうことだった。

「みんなが取引をしてくれなかったらどうしようって、正直かなり不安でした。でも同時に、絶対に全員が現金を持ち逃げすることはないという確信もあったんです。3.6億円をばら撒いたこの実験は、果たしてどういう結末を迎えるのか。とてもワクワクしている自分がいました」

翌朝、会社に大量の荷物を載せたトラックが到着した時、自分の仮説は間違っていなかったと光本は確信する。少額の現金を今すぐ手に入れたいというニーズが存在すること。そして、大部分の人間は信頼ができる、つまり性善説に立脚したビジネスが成り立つということ。CASHというサービスを通じて、世の中の真理が垣間見えた。

「CASH」リリース翌日、トラック3台分の荷物がオフィスに届く。

「僕は起業家なので、ビジネスを成功させたいという思いももちろんあります。でも、それ以上に、"実験家"として僕自身のアイデアや仮説を世に問うことで、人間の本質を明らかにしていきたいんです。僕の好きな言葉に『許可を取るよりも謝るほうが簡単だ』というものがあります。面白そうなことがあればまずやっちゃって、怒られたら謝る。それでいいんじゃないでしょうか。そういうマインドじゃないと、イノベーティブな発明って生まれてきません」

アートを買うことには得しかない

次々にビジネスを立ち上げる光本だが、その毎日は分刻みで動くいわゆる"ベンチャー社長"のそれとは真逆のものだ。

「基本的に、社長は暇なほうがいいと思っているので、実際の作業とかはなるべく周りに振り、僕は考える時間をなるべく多くとるようにしています」

都内某所にある自宅は、リノベーションを施した300平米のワンルーム。多くの現代アート作品が並ぶ様は、さながらギャラリーのよう。なかには数億円で購入した作品もあるというが、なぜそこまでして光本はアートを収集するのだろうか。

「アートは僕にとって、想像力をかき立ててくれる存在。アートの楽しみ方ってふたとおりのタイプがあるような気がしてて。すごいロジカルに、作家のバックグラウンドとか思想とか作品のテーマとかを理解して楽しむって人もいれば、直感で楽しむ人もいる。僕は後者のほう。現代アートって自分の理解を超えているというか、正直意味わからないじゃないですか(笑)。でも、僕はそれを美しいと思うし、ロジカルに語れないからこそ、想像をめぐらせることがとてもワクワクする。アートに囲まれて暮らす時間は、僕にとってとても大切なものなんです」

アートを投資として買う者もいるが、光本はそうではない。シンプルにアートが好きだから買うのだ。そこには、光本ならではのお金への考え方がある。

手前のマグカップは、旅のお土産として購入。変わったもの、面白そうなものには目がない。

「例えば、5億円の絵を買った時、多くの人は『5億円を消費した』と感じますが、僕は違う。現金をアートに変換しているだけなんです。円をドルに換えるようなもので、何も消費していない。しかも、そのアートによってさまざまな経験や感情を得ることができる。まさに、アートを買うことには得しかないんです。こういった感覚は、世界を変えるサービスをつくるための材料にもなっていると思います」

"狂っている"は最高の褒め言葉

アートを買うことで自分にどんな化学変化が起きるのか。世の中すべてが実験だと言い切る光本は、自分自身に対しても常に実験を繰り返しているのだろう。光本は今後も、とにかく"ぶっ飛んでいる"サービスを生みだし続けていきたいという。

「性善説というのは、これから僕がビジネスを続けていくうえで重要なキーワードになっていくと思います。それにインターネットの会社をやっている以上は、日本国内で5000万人が使うくらいのマスのサービスをつくってみたい。とにかく僕は、世の中にインパクトを与えたいし、"狂ってる"と周りから思われたい。狂ったようなことこそ、やる価値のある最高の実験なんです。

Yusuke Mitsumoto
神奈川県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2017年2月バンクを創業し、同年6月、即時買い取りアプリ「CASH」をリリースして話題に。また、10月にDMM.comがバンクを70億円で買収したことでも大きな注目を集めた。


『実験思考』
バンク代表 光本勇介
NewsPicks Book刊 390円

Text=竹村俊助(WORDS)、宮寺拓馬(ゲーテ編集部) Photopraph=川口賢典