クリエイター 高松聡 宇宙を想う時間 少年の夢をかなえる贅沢

「正直なところ、私財のほぼすべてを注ぎ込んでいますよ」 宇宙滞在の"旅費"なんて見当もつかないが、途方もない額だろうとの察しはつく。 6歳で、アポロ11号の月面着陸をテレビで見て以来、「宇宙飛行士になること」が夢だったと、クリエイティブ・ディレクター 高松聡氏は語る

地上にいる限り満たされることのない夢

ソユーズ宇宙船のシミュレーター訓練を終えた直後の高松氏。

 大学生で飛行士試験応募を考えるも、視力が条件を満たせず断念。広告界に飛び込み、世界初の宇宙空間ロケを敢行した大塚製薬ポカリスエット「宇宙CM」を制作。日清カップヌードル「NO BORDER」「FREEDOM」でも宇宙をテーマにし話題となった。

「そうした仕事で夢をかなえた気分を少し味わいました。でも地上にいる限り、100%満たされることはなかった」

 そこで昨年、民間人として日本初となるISS(国際宇宙ステーション)搭乗宇宙飛行士となるための訓練に入る。本職宇宙飛行士と、ロシアでカリキュラムを消化し修了。数年以内に宇宙への出発を待つ身に。それまで稼いだ貯えは、宇宙へ向かう燃料に消えた。

1.船内がどんなシステムになっていていざという時どうすべきか、すべてを頭に叩き込む日々。 2.特殊航空機を急降下させて無重力状態の訓練。浮遊している高松氏。 3.「こんなロケットを間近で見られる、それだけでも少年のように興奮してしまいますよ(笑)」。 4.海上に不時着したことを想定した訓練。そのほか、マイナス30度の地帯に不時着した場合、レスキューが到着するまでどのように生き延びるかといったさまざまな訓練がある。

「宇宙から帰ったあとどう生活するか、今は考えないようにしてます。40年来の夢である宇宙飛行のことでなければ、こんな無謀な使い方は到底できません」

 訓練は、52歳の身に過酷だった。毎日8時間の座学、実技、体力トレーニング。くわえて、試験の予習復習も欠かせない。

「まだここまで勉強に打ち込めるんだと自分を再発見できた。サバイバル訓練をしたり、狭い宇宙船内で同乗者とのチームワークを築いたり。心と身体の両面で、この年になって初めての経験が重ねられたのは嬉しい」

 憧れの人たちとの交流も、何ものにも代え難いものとなった。

ソユーズ宇宙船のシミュレーター訓練を終えた直後の高松氏。

「宇宙飛行士の方々と、映画を観る機会がよくありました。『ゼロ・グラビティ』を観て、よくできている、でもあそこはあり得ない、といった話が聞けたり。宇宙物理学を踏まえた根源的な問いについて語り合ったり。宇宙に行った方と宇宙の話ができる、こんな贅沢はありません」

 宇宙でやりたいことは明確にあり、準備を進めている。

「高精細の機器を持ち込み写真や映像を撮ります。宇宙から見た地球の美しさを地上で共有したい。僕が宇宙へ行く10日間が、世界中の人が地球を見つめる10日間になれば本望です」

Satoshi Takamatsu
1963年栃木県生まれ。電通を経て2002年クリエイティブエージェンシーGROUND、宇宙映像制作会社SPACE FILMSを設立。大塚製薬ポカリスエット「宇宙CM」で宇宙ステーションでのCM撮影を敢行。日本初のISS搭乗予定の民間人宇宙飛行士。


Text=山内宏泰、村上早苗 Photograph=西村裕介

*本記事の内容は16年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)