愛でクルマを語るから豊田章男は信用できる 〜ビジネスパーソンの実践的言語学27

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座、いざ開講!


「ここだけの話ですが、これだけが、将来トヨタから出す唯一のスポーツカーにならないことを願っています」ーーー北米国際自動車ショーのプレスカンファレンスにて、復活したスープラの紹介に立ったトヨタ自動車の豊田章男社長

スポーツカーが売れなくなったといわれて久しい。狭くて、うるさくて、燃費が悪い。速い、カッコいいといった“ロマン”でクルマを売るのは至難の業だ。あのフェラーリですらハイブリットSUVを出す時代に、トヨタは、2シーターのスポーツカー「スープラ」を17年ぶりに復活させた。

1978年に「セリカXX」として誕生したこのクルマは、1986年に発売された3代目から北米と同じ「スープラ」と名乗り、スポーツカーファンに絶大な支持を得た。以後、4代目まで高い人気を誇ったが、2002年に排ガス規制に対応できないとして生産を終了。以後、ミニバンやSUVが隆盛を誇る一方で、トヨタからスポーツカーらしいスポーツカーが発売されることはなくなっていった。

ビジネスとして考えたら、なかなか算盤にあわない分野だ。“道具”としては、これほど使い勝手の悪いクルマはない。数が売れるクルマではない。これがレクサスなら、価格を上げることもできたかもしれない。でもトヨタであり、スープラだ。あくまでも手の届く価格にこだわったはずだ。北米価格で4万9000ドル。日本でも500万円台で発売されるだろう。開発費などを考えれば、採算に乗せるのは至難のわざだ。

それでもスープラが復活したのは、他ならぬ豊田章男社長の強い思いがあったからこそだろう。彼の愛、熱い思いは、プレスカンファレンスでもほとばしっていた。

「皆さんそれぞれの人生において、特別な愛着を持ち、あなたの心の中で特別な場所を占めるクルマが、1台はあると思います。私にとっては、それがスープラです」

「トヨタは新しいスープラをつくる計画はありませんでしたが、世界中の多くの熱狂的なスープラファンの皆さんと同様、私は密かに、このクルマを復活させたい、と願っていました」

「SUVも素晴らしいです。でも、タイトな、後輪駆動のスポーツカーに勝るものはあるでしょうか? ここだけの話ですが、これだけが、将来トヨタから出す唯一のスポーツカーにならないことを願っています」

世界屈指の大企業のトップが、まるで自分のおもちゃを自慢する子供のようにスープラへの愛を語っている。「社長がそこまで言うのなら」と、その言葉を担保にこのクルマを買ってもいいと思わせるほどだ。効率やコストパフォーマンスばかりが語られるご時世に、その効率やコストパフォーマンスで世界と戦ってきたブランドが放ったロマンあふれる1台。愛があるビジネスは応援したくなる。そう思うのは、かつてスープラに憧れたオジさん世代だからなのだろうか……。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images


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