「編集思考で新規ブランド開発に挑戦してみよう」凄腕アートディレクターの発想術③

1万冊の雑誌のエディトリアルデザインをはじめ、企業のブランディングや商品開発なども手がけるダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート代表の野口孝仁氏。その野口氏が提唱する「編集思考」は、新規サービス開発やブランド開発にも高い効力を発揮するという。ビジネスアイデアのメソッド講座、3回目。


コーヒーブランドの立ち上げをバーチャル体験しよう

前回は編集思考のメソッドを、編集現場での作業の流れに沿って説明しました。第3回では、これを新規サービス開発の現場に置き換えてみたいと思います。テーマは、「コーヒーブランドの立ち上げ」。編集現場での流れと同様に、5つのステップで開発を進めていきます。

STEP 1
テーマは「コーヒーブランドの立ち上げ」。これをベースに、ターゲットをざっくりとセグメントします。本当に“ざっくり”とで構いません。「カルチャー好きの20~40代の女性」くらいにしておきましょう。

STEP 2
コーヒーに関する情報を集めます。スタッフ全員で、コーヒーに関係があるさまざまなモノやコトを持ち寄ってください。

STEP 3
テーマから連想されるキーワードを出します。「ミルク」「こだわり」「待ち合わせ」「リラックス」「シアトル」「コンビニ」「清澄白河」「休日」「イタリア」「時間つぶし」……。連想されるものでしたら、どんなジャンルの言葉でも結構です。

キーワードを用いながら、スタッフ全員でエピソードを語り合います。今回は以下のようなコメントが出てきました。

コメント①「この前、純喫茶巡りをしたときに、お気に入りのお店を見つけた。どうやら昔から有名な作家さんも通っているらしい。今度は本を持って行ってみようかな」

コメント②「シアトル旅行で入ったカフェ。店員さんがフランクでいろいろ話していたら、産地別に色々テイスティングさせてくれた。かなり味が違うことにびっくり」

コメント③「友人が家に和菓子を持って着てくれた時にたまたま緑茶がなくてブラックコーヒーを淹れたら、意外と相性抜群だと気付いた」

これらのコメントから、ニーズを導き出します。

コメント①⇨ニーズ①「作家が愛した喫茶店が知りたい!」
コメント②⇨ニーズ②「いろいろな国のコーヒーの味が知りたい!」
コメント③⇨ニーズ③「意外な組み合わせをほかの人にも体験してほしい!」

STEP 4
ニーズを発見できたなら、次のステップはインサイト探しです。インサイト探しは、慣れるまで難しく感じるかもしれません。そこでインサイト探しに役立つ「編集メソッド 基本の編み方 5文型」を活用してみましょう。

「編集メソッド 基本の編み方 5文型」とは?
1.人物編み
2.場所編み
3.時間編み
4.対比編み
5.異素材編み

ニーズ①「作家が愛した喫茶店が知りたい!」を例にして、それぞれの編み方を解説していきます。

1.人物編み
人物にフォーカスを絞って、インサイトを想像します。ニーズ①の登場人物として挙げられるのが、まずは作家。そのほか、喫茶店の店主やコーヒーを注文したお客さんも考えられます。作家がオーダーしたコーヒーや店主の腕前など、想像をめぐらせながら、インサイトを考えていきます。
⇨インサイト①「著名人が好んだ味を体験してみたい」

2.場所編み
喫茶店の所在地、店内の様子、窓や席の配置といった空間について考えます。「作家はどの席に座ったのか」「いまもその席に座れるのか」などと想像してください。
⇨インサイト②「作家が座った席に座ってみたい」

3.時間編み
ここでは時間に注目します。「作家の生きた時代はどんな感じだったのだろうか」という疑問をもちつつ、その時代に思いを馳せるとわくわくしてきます。
⇨インサイト③「作家が通った時代にタイムトラベルしてみたい」

4.対比編み
本来のテーマと対になるものにフォーカスを当てます。コーヒーや喫茶店と対になるものは何でしょう? 「喫茶店に通う作家がいるように、居酒屋に通う作家もいただろう」と、舞台をスライドさせる感覚です。
⇨インサイト④「文豪が好きな喫茶店とか居酒屋って憧れる」

5.異素材編み
最後にコーヒーや喫茶店と直接は関係のない視点から考えます。例えば、ファッション。銀喫茶に通う作家は、なんとなくハイカラでおしゃれな感じがしますよね。そうした想像力を発揮させてください。
⇨インサイト⑤「純喫茶に通う作家のおしゃれを学びたい」

STEP 5
雑誌の特集タイトルをつけるように、インサイトから新しい価値を考えます。今回は、『作家が愛したコーヒー』という価値を採用。作家が飲んだといわれるコーヒーをリサーチし、それに近い味わいのブレンドコーヒーを作りました。商品名には「夏目漱石」「ヘミングウェイ」「宮沢賢治」と作家の名前を付け、肖像をあしらったパッケージを開発。コーヒーを通じて作家に会えるという"めぐり会い"を重視しました。

以上が編集思考を使ったサービス開発・ブランド開発の流れです。最初はあまり肩肘張らずに、気軽に挑戦してみてください。雑誌の編集会議のようなリラックスした、誰でも自由に意見やエピソードが出せる雰囲気作りが大切です。

次回は私たちデザイナーが普段行っている「アイデア体質を作るトレーニングや習慣」についてお話します。

Takahito Noguchi
1969年、東京生まれ。マガジンハウスにて『ポパイ』のエディトリアルデザインを担当。その後、キャップに4年間在籍し、'99年にダイナマイト・ブラザーズ・シンジケートを設立。人気雑誌のアートディレクション、デザインを手がける。現在ではそのエディトリアル発想を活かし、CI/VI・プロダクトデザイン、サービスアイデア、企業ブランディングワークにも数多く携わる。講師として、宣伝会議「アートディレクター養成講座」、「企業のための編集物ディレクション基礎講座」、「デザインシンキング実践講座」ほか。受賞歴は、One Showメリットアワー、reddot design award、German Design Award International、IF Design Award、A’Design Award & Competition、日本パッケージデザイン大賞。


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Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生