【FC東京】大金社長「長谷川健太監督とともに"勝利へ向かう組織"作りを」

現在、Jリーグで優勝争いをしているFC東京。史上最高の観客動員数も記録するなど、ここ数年で激に進化し続けているのはなぜか。その鍵を握り、FC東京を支える各分野のプロフェッショナル6人にインタビューを行い、躍進の秘密を解き明かしていく連載【FC東京躍進の理由】。第5回は、FC東京社長・大金直樹。


首都・東京のクラブとして、優勝しなければ!

大金直樹は、プロサッカークラブ・FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社の代表取締役社長である。

1966年生まれの52歳。茨城県日立市育ち。身長180cmオーバーのスタイリッシュな立ち居振る舞いはいかにも首都・東京のクラブを牽引するリーダーらしいが、それもそのはず。大金は、FC東京の前身である東京ガスサッカー部の選手だった。

筑波大を卒業後、東京ガスの社員選手としてサッカー部に入部した。当時の日本サッカー界においてはJリーグの下部リーグに相当するJFL(ジャパンフットボールリーグ)で活躍し、チームのキャプテンを務めるなど1995年までプレー。クラブが1999年にJリーグに加盟したことを考えれば、歴史的に非常に重要な“夜明け前”を選手として支えたことになる。

その後、営業畑で社業に専念していたが、2002年にビジネススタッフとしてFC東京に出向。2011年から常務取締役を務め、2015年に代表取締役社長に就任した。もちろん、東京ガスサッカー部OBの社長就任は同社として初めてのことだ。

「就任当初に考えていたのは、『タイトルを獲りたい』ということです。FC東京は2004年と2009年にカップ戦、2011年に天皇杯で優勝しましたが、それ以来タイトルから遠ざかっていました。J1リーグ戦での優勝経験はありません。やはり、首都・東京にあるクラブとしてそれではいけない。そう強く思っていました」

愚問を承知で、「どうしてタイトルが必要なのか?」と聞いた。その答えには、プロスポーツクラブとして追い求めるべき姿勢がある。

「やはり、プロスポーツクラブは、ただ単に収益を伸ばすために存在しているわけではありません。私たちの仕事や使命は、スポーツが好きで、サッカーが好きで、FC東京を応援してくれる人たちに夢を与えること。エキサイティングなワクワク感は、やはり勝利を目指さなければ生まれません。私はプレーヤーとしてはアマチュアでしたが、サッカーを通じて、家族や応援してくれる人と喜びを分かち合うことの価値を理解しているつもりです。あの喜びを、ひとりでも多くの人に感じてもらえる存在でありたい」

この数年間、FC東京はいつも「優勝を狙えるチーム」と評価されながら、期待どおりの結果を手に入れられない時間を過ごしてきた。大金が社長になって1年目の2015シーズンは年間4位と上位争いを演じたが、その後は9位、13位と低迷した。

「それはもう、"歯がゆい"どころの騒ぎではなく。やはり、成績のもの足りなさは、このクラブにかかわるすべての人が感じていました。私たちは、プロサッカークラブとしても、会社組織としてももっと成長したい。そのためにタイトル獲得が必要であることはわかっていたからこそ、年々、『絶対に』という想いは強くなっている気がします」

ピッチで戦うのは選手や監督、コーチングスタッフであるから、会社を運営するビジネススタッフにできることは限られている。しかし、長くクラブ運営にかかわっていると、「そういうメンタリティでは勝てないことに気づく」という。クラブに関わるすべての人が、本気で「獲りたい」と思わなければタイトルには手が届かないのかもしれない――そうした半信半疑の思いを確信に変えたのが、2018年から指揮を執る長谷川健太監督だった。

「2017年に来年の監督人事について考えている時、『優勝経験がある監督を呼ばなければ何も始まらない』と考えました。そのタイミングで、ガンバ大阪で数多くのタイトルを獲っている長谷川監督にお願いできたことは幸運だった。就任してすぐ、監督から『ピッチに立っている選手だけじゃなく、クラブとしてそこに向かわなければ絶対に勝てない』と言われました。私たちにとって、その言葉は本当に意味のあるものでした」

社長はできの悪いぐらいがちょうどいい!?

大金は毎年スタッフに"3つのコンセプト"を打ち出しており、その中に必ず「勝利のために」という言葉を入れているという。ピッチとは直接的な関係を持たないビジネススタッフであれ、チームを勝たせるために何ができるのか――。明確な答えを出すことを求めるのではなく、それを真剣に考えることで「勝利に向かう組織」を作ろうとする意識付けだ。

「ここ数年、クラブとして新しい取り組みやチャレンジは増えていると思います。マーケティング担当の川崎統括部長が中心になってやっている顧客のデータ化もその1つ。"昨年踏襲"を廃止し、1年前の自分たちの姿をどんどん変えていこうという姿勢で取り組んでいます。第31節終了時点で平均観客動員が3万人を超えているという結果は、その成果のひとつと言えるかもしれません」

大金の表情は、ファン・サポーターの話題になると一気に緩んだ。FC東京のファン・サポーターはユニークだ。こちらが発したそのひとことに、大きくうなずいて同意した。

「いやあ、本当に。とても面白いですよ。一人ひとりの主張がとても強い。センスも独特で、ポリシーがある。基本的にはとても硬派だと思うのですが、その一方で女性のお客様が増えているから『どうすればいいんだ?』と悩ましいところもあって(笑)。例えば、そのシーズンのユニフォームを着て応援してくださっているのは女性ファンが多く、男性ファンは東京ガス時代のユニフォームを着ていたりするんです。私たちとしては『今シーズンのユニフォームを着てくれないかなあ』と思うのですが、そのあたりの駆け引きが難しいし、面白いところですよね」

2019シーズンはいよいよクライマックスを迎える。ラスト3試合という第31節終了時点で、首位。優勝の期待感は高まる一方だ。

「もちろん、(期待感は)ひしひしと感じています。でも、こればっかりは“積み重ね”でしかありません。私たちは目の前の1試合に集中して、ラスト3試合の結果を積み重ねるだけ。ファン・サポーターの皆さんにも特別にお願いしたいことはなく、これまでどおり、一緒に戦っていただければと思っています。そもそも、私たちにはリーグ優勝の経験がないので、こういう時に何をどうお願いすればいいのか誰もわからないのですが(笑)」

明確な目標として「優勝」を掲げてきたからこそ、その可能性を目の前にしている現状に確かな手応えを掴んでいる。それでも、浮ついた気持ちは一切ない。この1年で"積み上げること"の重要性を痛感したからこそ、この状況でも「理想のFC東京」を目指す姿勢にブレはない。

「理想のイメージとしては、“東京らしく”その言葉に尽きるし、具現化するためにはあらゆることを積み上げていくしかないと思っています。リーグ優勝も"積み上げるべきもの"のひとつ。そうやって少しずつ、FC東京の歴史と文化が“東京らしく”なる。それはきっと、他に類を見ないクラブですよね」

最後に「社長として大事にしているものは?」と聞くと、大金は即答した。

「人。会社を作り、社会を作るのは人ですから。ウチのスタッフはみんな力のある人ばかりだから、僕はできの悪い社長でいいんです。社長って、それくらいがちょうといいんじゃないかな。私はそう思います」


Text=細江克弥 Photograph=鈴木規仁


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