阿部勇樹は常に自分に問いかける「ハングリーさを忘れてはいないか?」

阿部勇樹は輝かしい経歴の持ち主だが、自らは「僕は特別なものを持った選手じゃないから」と語る。だからこそ、「指揮官やチームメイトをはじめとした人々との出会いが貴重だった」と。誰と出会ったかということ以上に、その出会いにより、何を学び、どのような糧を得られたのか? それがキャリアを左右する。【阿部勇樹 〜一期一会、僕を形作った人たち~24】。レスター編の最終回。 

8部のチームからプレミア優勝、代表選手にまで上り詰めた男から感じたこと

2016年にレスターがプレミアリーグで優勝したシーズン。エースストライカーだったジェイミー・ヴァーディは、イングランド代表デビューを飾り、その半生に注目が集まった。2007年に8部のクラブと週給30ポンドで契約したヴァーディは、約10年後にプレミアリーグ得点王に輝いたのだ。

「認めてもらえれば、結果を残せば、上へ行ける」

ヴァーディほどの成功例は珍しいかもしれないが、ヨーロッパには、選手たちの向上心、野心が強くなる環境が揃っている。ヨーロッパとひと言でいっても、国の数だけトップリーグがあり、その下には2部、3部とリーグが続く。そして、スカウトや代理人がいたるところ眼を光らしている。チャンスや可能性があるから、競争が激化し、厳しい環境が自然と生まれているんだと思う。

僕が移籍したレスターが属するチャンピオンシップは、欧州のほかの2部リーグのなかでも注目度の高いリーグだ。実際、他国の2部リーグと比べれば、資金力も豊富なこともあり、アフリカなどの代表選手も在籍しているため、一定のレベルを維持している。カップ戦ではプレミアリーグと対戦する機会もあり、そんなプレミアリーグだけでなく、欧州各国の1部リーグのクラブからもスカウティングされている。

「チャンスは転がっている。見てくれている人がいるから、しっかりやるだけだ」と誰もが思っているだろう。

そういう場所は、僕にとっても「上へ行くチャンス」を感じさせてくれた。結果的にいえば、1年半で帰国することになったが、チームメイトや対戦相手の「野心」は僕にとっても刺激となった。

「学校、どうしているんだろう」

トップチームと同じ場所でトレーニングをしているアカデミー(育成年代)の選手たちを見ながら、そう思うことがあった。彼らは僕らと同じように午前中に練習をしていたからだ。もしかしたら、長期休暇だったのかもしれないが、クラブハウスで朝食を摂り、トレーニング後に昼食。そして午後にトレーニングをしていることもある。とにかく、1日のうちほとんどの時間、クラブハウスで彼らの姿を見た。練習しているのか、ケアなのか、ミーティングなのか、その理由はわからないけれど、とても長くクラブハウスにいたことは事実だ。

そして、彼らから漂う空気からは、「野心」が感じられた。

部活動ではなく、クラブに所属してサッカーをプレーするヨーロッパの子どもたちは、幼いころから弱肉強食の世界に生きている。ヨーロッパの多くの国では、中学や高校という分け方ではなく、年齢毎にチームがある。結果を残せば、飛び級で上のチームへ進級できるし、レベルの高いクラブへの移籍もある。逆に試合に出られないのであれば、レベルを下げたクラブへ移らざるを得ない。

だからこそ、自然と貪欲さが身についてるのかもしれない。クラブハウスにいる時間の長さだけではなく、トレーニングの様子を見ても、それが伝わってきた。

「日本の高校生、これからプロになるという選手には、これくらいのハングリーさを持ってほしいな」

そんな想いを抱きながら、同時に「僕はあの頃、これほど長く、グラウンドに居たのかな」とも思った。

10代の少年たちが漂わせる「夢を掴みたい」という熱は、当時30代になろうとしていた僕に問いかけた。

「ハングリーさを忘れてはいないか?」と。

あれから9年が過ぎた。

浦和へ戻っても、レスターでの経験は僕のなかに生きている。日本では味わえない貪欲で野心に満ちた生存競争のなかで、闘った感触が僕を駆り立ててくれた。あの時間はある種の原点回帰にもなった。

そして今、出場機会を求める日々に、かつての想いや熱が引っ張り出されている。同じクラブに長く在籍しているが、僕の立つ環境は変わり続けている。だからまた、新鮮な刺激を味わいながら、貪欲に闘える。


Text=寺野典子 ©URAWA REDS