【八村塁の素顔】③一貫力 なぜ八村は人に恵まれるのか?

競技者なら誰もが憧れる米プロバスケットボールNBAの舞台で、ルーキーながらチームの主力として存在感を放っている八村塁。コート外でも、チームにすっかりと溶け込み、先輩からの信頼も勝ち取っている。開幕戦を現地で取材したスポーツニッポン木本新也記者が、知られざる八村の人間力を分析した。  


恩義を忘れない、義理堅さ

NBAデビューとなった開幕戦からの連続先発出場は25でストップした。八村は12月16日のピストンズ戦で鼠径(そけい)部を負傷。同17日のブルズ戦から離脱を余儀なくさている。少なくとも5試合は欠場することが発表されており、復帰は最短でも同28日のニックス戦以降になる。試練を迎えているが、ここまでに記録した1試合平均13.9得点5.8リバウンドは新人としは申し分ない数字といえる。

試合前のルーティンが好調を支えてきた。ウオーミングアップでは必ずデビッド・アドキンス・アシスタントコーチとマンツーマンでシュート練習を実施。その後は2人でコート脇の椅子に座り、タブレット端末で映像を見ながらマッチアップする相手の特徴などを確認する。同コーチはW杯前の8月の日本代表合宿にも同行。6月のドラフトで加入が決まった直後から二人三脚で強化を進めてきた。1年目から信頼を置ける指導者に出会えたことは幸運だった。

指導者に恵まれなければ日本人初のドラフト1巡目選手は誕生していない。富山・奥田中の坂本穣治コーチはバスケ未経験の八村を熱烈に勧誘。初心者に対して初日の練習でいきなり「NBA選手になるんだ」と言って、その気にさせた。

高校進学時に明成(宮城)、北陸(福井)、八王子学園(東京)など全国の強豪から勧誘が舞い込んだが「卒業後に米国の4年生大学に行ける高校」という条件をつけたのも坂本コーチの提案。前例のない条件に各校が戸惑う中で「NCAA(全米大学体育協会)はかなり難しい。カナダの大学なら可能性がある」と代替案を提示したのが、明成高だった。

明成高の佐藤久夫コーチは潜在能力を引き出すことに重点を置き、特別メニューで指導した。4人対5人のゲーム形式の練習を取り入れ、八村を常に4人側のチームでプレーさせて、2人分の役割を要求。カテゴリーが上の大学生との練習試合も増やし、身体能力が飛び抜けていた八村が全力を出せる環境をつくりだした。

ゴンザガ大のマーク・フュー監督は、言葉の壁など米国の生活に慣れない八村をじっくりと計画的に指導。1年目は控え選手、2年目はシックスマン、3年目は主力選手として起用して、徐々にプレータイムを伸ばして成長を後押しした。

人を大切にするから、人に恵まれる。八村は明成高からゴンザガ大進学時には幼なじみの双子の兄妹とともに、少年野球時代の恩師である高嶋信義氏のもとを訪れて、渡米を直接報告している。NBAドラフトでウィザーズから指名された直後には、前出の奥田中の坂本コーチの携帯電話に連絡を入れて直接、感謝の気持ちを伝えた。

W杯前の8月には日本代表合宿の合間を縫って、母校・明成高のインターハイの試合を観戦した。練習に加え、CM撮影やイベント出演などがぎっしり詰まったスケジュールの中、佐藤コーチのために時間を捻出。後輩に「自信を持ってやろう」とエールも送った。ビッグネームになっても恩師や母校への恩義を忘れない、義理堅い一面が垣間見える。

NBA選手に憧れてバスケに打ち込んだ自身の経験から、子供たちのサインには極力、応じる。10月26日にサンアントニオで開催されたスパーズ戦では新婚旅行で試合観戦に訪れたカップルにサプライズでサインをプレゼントするなどファンサービスも一流だ。

プロ選手として、コート外での振る舞いや活動も大切にする一方で「ビジネスも入ってくるけど、バスケが最優先」とのスタンスはぶれない。アンバサダーやCMなどの契約を結ぶ際にも企業のブランドイメージが自らの考えと合致しているかを重要視する。人を大切にするから人に恵まれ、何事も筋を通すから成功への道筋も示される。因果応報。運命を引き寄せてきた決断や行動は、ポリシーを曲げない〝一貫力〟に基づいている。

Text=木本新也 Photograph=gettyimages