【シリーズ秘書】デルタ航空の社長と秘書は経営と航空のプロによる最強タッグ

旅客運送数および旅客キロ数で、世界第2位の大手航空会社、デルタ航空。その日本支社で日夜ボスを支えるのが、航空業界と顧客対応のプロという一面を持つ、凄腕秘書だ。伝説的ともいえるふたりの協力プレイをとは?


飛行機運航の鍵を握るのは秘書だった!

デルタ航空日本支社を率いる森本 大(まさる)支社長が「別格にスキルの高い秘書」と評価するのは、2012年以来、ともに業務を担う稲葉由貴子さん。

「彼女の優れたところは多数ありますが、敢えて他の人にないものを挙げるなら、旅客サービス部や予約センターでの管理職経験で培った"航空業界と顧客対応のプロ"という部分でしょう。そのうえ、僕にだけでなくすべての人に親切で大変気が利く。打ち合わせが長引き、次のお客様をお待たせしてしまうことがあっても、彼女がその間お客様と話をしていてくれるので、非常に和やかな雰囲気で商談を開始できて助かります」

本国との会議や政府機関との折衝、海外はもちろん日本国内の各空港での打ち合わせなど、国内外への出張も多く、分刻みの予定をこなす森本支社長。かつては小売業、観光、飲料メーカーなど大手企業のトップを歴任する「経営のプロ」が、秘書に求めるのはどんなことなのか。

海外からのお客様との会食をセッティング。森本支社長に候補のレストランを聞かれ、即座に2 、3 の選択肢を提案。

「業界は違えど、経営者の仕事はさほど変わりません。しかし、ITの進化とともに、昔の経営者ならばこんなことまでしないということも、今は自分でやったほうがむしろ効率がいい場合もあります。反対に、僕の代理で秘書に任せる領域も増えました」

稲葉さんは航空業界におけるプロ。国交省との窓口も彼女の仕事だ。そのなかのひとつが、スロットと呼ばれる飛行機が空港に離発着する際のスケジュールの認可申請。いわば運航の要といえる重責をも担っている。

「航空業界に関しては稲葉さんのほうが経験は長い。傍らに何でも聞ける高度な知識を持った人間がいるということは、僕にとって非常に大きなメリットです。週に1度、ランチを兼ねて全体のすり合わせをするのですが、彼女は中長期プロジェクトすべてが頭に入っている。それを踏まえて事業戦略に直結したスタッフとの打ち合わせを僕に提案し、セッティングをしてくれるのです」

そんな稲葉さんはどのようなことに心配りをして業務を遂行しているのだろうか。

「スケジュール管理に関しては、うまくいって当たり前。森本は探求心が強く、自ら学んで解決していくタイプなので、熱中するあまり、こちらが意図的に空けてある人間ドックのスケジュールや"ここで休んでほしい"というタイミングに、自身で予定を詰めてしまうことも。それを何とか制し、少しでも休めるよう軌道修正するのも秘書の仕事です」

言われずとも察する調整力は、予約センターでの管理職経験が役立っていると稲葉さんは言う。

「当時は指示を出す立場にありましたから、ボスが普段どうしてほしいのかがよくわかります。しかし、それ以上に"波長が合った"のも幸運なことでした。森本について6年になりますが、いいコンビだと言っていただけるのであれば、そういった要素もあるのかもしれません」

デルタ航空には「社員や社員が属する地域社会を大切にする文化がある」と話す稲葉さん。プロフィットシェアリングと呼ばれる全世界約8万人の社員への利益還元のほか、成田空港内にあるNAA保育ルーム「たんぽぽ」への絵本寄贈など、地域社会への貢献にも力を入れている。森本支社長と稲葉さんが終始見せる笑顔は、その社風とホスピタリティ、そしてプロフェッショナル同士の信頼が結ぶ、阿吽の呼吸を十二分に表している。


Masaru Morimoto(左)
デルタ航空日本支社長。1963年生まれ。同志社大学卒業、ハーバードビジネススクールでMBA取得。大手信託銀行を経てシグニチャージャパンを起業。その後クラブメッド社長、日本コカ・コーラ副社長等を経て現職。

Yukiko Inaba(右)
秘書兼スロットコーディネーター。大学卒業後、ノースウエスト航空(現・デルタ航空)に勤務。夫の海外転勤により3年間ニューヨークに同行した後復職。予約部でマネージャーを務め、2012年より現職。
Company Data
デルタ航空日本支社。本社は1924年農薬空中散布事業から事業開始、’28年にデルタ・エア・サービスに改名し、翌年旅客事業に参入。2008年にはノースウエスト航空と合併、現在323都市に就航する時価総額で世界一の航空会社。日本国内5つの空港から、計13路線を運行している(2018年8月現在)


Text=三井三奈子 Photograph=鈴木拓也