【ニューヨークは死なない①】閑散とするタイムズスクエア。そこに立ち続ける“ネイキッド・カウボーイ”。

新型コロナウイルス感染が世界中に蔓延している中、アメリカ・ニューヨークでは学校、ジム、観光名所などが次々と閉鎖され、外での飲食も禁止。22日にいよいよロックダウン(外出制限)が始まり、不要不急の外出は禁じられてしまった。世界的大都市の今について、ニューヨークに20年以上在住するスポーツジャーナリストの杉浦大介さんが緊急ルポを寄せた。

“現場”と呼べるべきものは存在しない  

過去数週間の間に、ニューヨークに住む人々の生活が急変したことは間違いない。当初はコロナウィルスの影響も“対岸の家事”的に考えていた市民が多かったが、ニューヨーク州のクオモ知事が“非常事態宣言”を発令した3月7日あたりから街の空気は一気に変わっていった。

11日にはNBAプレイヤーの中から感染者が出て、その翌日にはメジャースポーツのシーズンが軒並み延期か中止。13日にはドナルド・トランプ大統領が「国家非常事態宣言」を出し、平穏な日々は完全に終わった。以降、ニューヨークでも学校、ジム、観光名所などが閉鎖され、レストラン、バー、カフェでの飲食も禁止。22日にはいよいよロックダウン(外出制限)が始まり、不要不急の外出は禁じられてしまった。

ニュースを見れば、いつもは活気に満ちたニューヨークの街が“ゴーストタウン”になったとセンセーショナルに伝えられている。実際に大方のニューヨーカーが静かに家に篭っている状態。必要最小限の買い物やエクササイズは許されてはいるが、ストリートは静まり返っており、どこか危険な匂いを漂わせているのは事実である。

コロナ渦によって生活を変えられた人間の中には、この街に20年以上住み、スポーツライターとして活動してきた私ももちろん含まれる。今の私の生活は、米スポーツ現場を毎日のように転々とし、取材、執筆を繰り返していた数週間前とは似ても似つかない。MLB、NBAがすべて活動を停止しただけではなく、基本、誰も外出しないのだから、“現場”と呼べるべきものは存在しない。本格的な取材活動がいったいいつ再開できるのか、見当もつかないというのが正直なところだ。

あまりの急展開に、まるで世紀末を描いた映画の登場人物にでもなったようにも感じられる。24日にもクオモ知事が「感染のピークはこれから」と発表するなど、状況は悪くなる一方。最近はマスクを着用しなかったアジア人が暴行されたとか、スーパーマーケットの食糧品棚が空っぽになったとか、外出自粛に従わない若者がいるとか、テレビやオンラインでもネガティブな報道ばかり。今後を考えても、いったいどうなるのかと絶望感を感じているニューヨーカーは少なくないに違いない。

©GettyImages

この街の人々の心はまだ死んだわけではない  

ただ、そんな時期でも、いやそんな時期だからこそ、あえて記しておきたい。この街の人々の心はまだ死んだわけではない。確かに状況は良くないし、これから感染者は増え、さらに多くの犠牲者が出るのだろう。同時に殺伐とした街を切り取った報道も増えるとしても、それだけがすべてではないのだ。

自宅近辺で過ごすことが圧倒的に増えた過去数日の間、限られた交流の中で、私が人々の暖かい心に触れたことは1度や2度ではない。テイクアウトでの販売しか許されなくなった飲食店はどこも厳しいはずだが、もてなしの気持ちは失われていない。

いきつけのカフェの店員は2歳の娘に笑顔でアイスクリームをご馳走してくれたし、ダンキンドーナツも注文したよりも多くのドーナツを包んでくれた。一時的な閉店を余儀なくされた駅前の花屋さんは、クローズ間際、店の前を通りかかった私の愛妻に大きな花束をプレゼントしてくれた。

厳重にマスクと手袋をした店員たちには、もう近づくことも許されない。それでも優しさは変わらないし、そんな彼らの好意は、保つことを義務付けられたソーシャル・ディスタンス(6フィート以上)を超えて私たちの胸を打つ。

また、一時閉店することになった近所のレストランのウェイターの言葉も、彼が最後まで笑顔だったがゆえに、一際印象に残っている。

「今はただ静かに我慢するしかない。まずは健康が一番大事だからね。すべてが終わったら、またオープンできるから・・・・・・・」

厳しい状況下で、ネガティブな情報ばかりが街を象徴するニュースとして伝えられてしまうのは残念ではある。それらは真実ではあっても、まだこの国には良い部分がたくさん残っているし、ニューヨークも同じだ。

2001年の同時多発テロ事件直後と同様、現在のニューヨークには一丸となって苦境を乗り越えようという空気が確実に存在する。もちろん例外はあるが、「今は我慢するとき」という気持ちがほとんどの人々の心の中にある。そして、“自粛”が必要でも笑顔やジョークは規制せず、前向きであり続けるのもアメリカに住む人々の良いところだ。

「金のためにここに立ち続けているわけではない」  

所用で止むを得ずマンハッタンに出た24日のこと。ほぼ無人になったと伝えられてきたタイムズスクエアを通りかかると、観光客との記念撮影で大金を稼ぐと評判になったストリート・パフォーマー、“ネイキッド・カウボーイ”の姿が目に入った。もう観光客など存在しないし、人々に接することも許されない。にもかかわらず、カウボーイは裸で何をやっているのか……?

「私はすでに十分にお金は稼いだから、金のためにここに立ち続けているわけではない。自分が元気な姿を見せることで、街を盛り上げていきたいんだ!」

ブリーフ、カウボーイハット、ブーツといういでたちの“ネイキッド・カウボーイ”は、ギターをかき鳴らしながらそう言った。外出制限下で、彼の活動継続が適切なのかはかなり微妙ではあるが、基本、常に一人で行動し、しっかりとマスクを着用し、周囲の人たちとの距離を保ち続けていたことは記しておきたい。

こうやってカウボーイが独特の形で示したように、ニューヨークにはまだまだ元気が残っている。だとすれば、また盛り返していける。この街独特のパワーが消えていない限り、復興は十分可能なように思えてくるのだ。

ストリート・パフォーマー、“ネイキッド・カウボーイ”


Daisuke Sugiura
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、スポーツライターに転身。20年以上、NYに在住してMLB、NBA、ボクシングを中心に取材。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポルティーバ』『Number』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿。