ブライアン・フェリー ベテランだからこそ、若い世代や異なる未知の個性と仕事をする

優れたミュージシャンは、たったひとつの音を聴いただけで、はっきりとその人だとわかる響きを持っている。ロキシー・ミュージックのヴォーカル、ブライアン・フェリーの場合、それはピアノだ。彼は世界的なロックシンガー。当然ヴォーカルのポテンシャルは高い。しかも声は艶やかに濡れている。それに対し、鍵盤楽器のスキルが特別なわけではない。しかし、ブライアンのピアノは、歌と同様、彼の“声”だ。その魅力に迫る。

 たとえ初めて聴く新曲だったとしても、ピアノを一音聴いただけで、あっ、ブライアン・フェリーの新譜が出たんだ!とわかる。エロスを感じるのだ。
 10月20日にリリースされるアルバム『オリンピア』で、ブライアンを象徴しているのが「リーズン・オア・ライム」のリフ、そして「ハータッチ・バイ・ナンバーズ」のたどたどしいともいえるほどシンプルなイントロだろう。この2曲のピアノの響きにはとろけるような艶があり、ブライアンでなくてはあり得ない響きを生む。
「『リーズン・オア・ライム』は僕自身最も気に入っている曲。それは、自分らしい作品だからです」
 このインタビューは、ブライアンが「FUJI ROCK FESTIVAL 2010」出演のために来日した7月末に行われた。コンサート会場の苗場へ向かう前日、都内のホテルで『ゲーテ』のこの音楽特集のために時間をつくってくれたのだ。
「ピアノはふだんはほとんど弾きません。でも、レコーディングで鍵盤に触れると、自分自身を特別だと思うことができる。あっ、今、すごくうまくいっているな、と感じられるんです。僕のピアノは、“雰囲気”を生み出せます。そこに、たくさんの優れたミュージシャンの演奏に参加してもらうことで、僕だけの音楽の世界をつくり上げていけるわけです」

『オリンピア』(EMIミュージック ¥2,500)/ロキシー・ミュージックのオリジナルメンバーが約37年ぶりに集結した、13枚目のソロアルバム。デイヴ・ギルモア、マーカス・ミラー、ナイル・ロジャースなど豪華メンバーで臨んだ意欲作。Photography = Adam Whitehead

 フジロックに、ブライアンはロキシー・ミュージックとして出演した。このバンドは1971年に結成。解散と再結成をくり返しながらもライブ限定で集まっている。ソロ作の『オリンピア』にも、ロキシーの盟友、アンディ・マッケイやブライアン・イーノが参加。さらに、アンディ・ニューマークやピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアなど旧友も参加している。ある意味、ブライアンのキャリアを凝縮した作品作りになっている。
「同世代の彼らとは美意識を共有できる。そして、豊富なキャリアを持つ音楽家は自分の個性をとても上手にコントロールできます。演奏する楽器を思いのままにあやつり、自分にしか表現できない音を僕に与えてくれます。新しい音楽は異なる個性が交差することによって生まれるんです。そして、今回は僕たちより若い世代のマーカス・ミラーもアルバムを通してベースを弾いてくれています。また、息子のタラがドラマーとして、アイザックがミキサーとしてそれぞれ参加している。世代を超えたセッションでもあるんです。僕はジャズが大好きで、マイルス・デイヴィスを聴き続けていますけれど、マイルスが常に自分より若い世代とバンドを組んでいたようにね」
 マイルスのバンドからは、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、チック・コリア、そしてマーカスらが巣立ち、のちの音楽シーンを牽引している。
「だからマイルスは、よく数多くの若いミュージシャンを育てたといわれていますよね。もちろんそれも間違いではないのですけれど、本人の意識はおそらく逆だと思う。才能と活力が豊かな若いミュージシャンたちからインスピレーションをもらいたかったはずです。新鮮なエネルギーを自分と結び付けることで、新しい音楽を生み出していったのでしょう。僕の『オリンピア』も同じです」

ブライアン・フェリーの「人生の5枚」

『カインド・オブ・ブルー』/マイルス・デイヴィス/ジャズの金字塔。「ビジネスに身を投じるゲーテの読者がリラックスする夜に聴いてほしい」(ソニー)
『アマンドラ』/マイルス・デイヴィス/『TUTU』の後1988年に録音。「プロデューサーのマーカスを通じマイルスとつながるのは僕の幸せ」(ワーナー)
『エイプリル・イン・パリ』/チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス/「僕の大好きなスタンダード集。今でもよく聴きます」(ユニバーサル)
『アー・ユー・エクスペリエンスト?』/ジミ・ヘンドリックス/1967年の名盤。「BTの『ヘイ・ジョー』が抜群。学生時代ジミのライブを観たのは最高の体験」(ユニバーサル)
『Songs For Swingin' Lovers』/Frank Sinatra/初期の作品集。「シンガーとしてのシナトラは魅力的ですが、このアルバムはさらにアレンジも見事です」(輸入盤)
Brian Ferry
1945年英サンダーランド出身。ソロのほか、ロキシー・ミュージックのヴォーカルで活躍。『アヴァロン』など名盤を生む。

Text=神舘和典 Photograph=大森 直

*本記事の内容は10年9月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい