【ブルネロ クチネリ】ソロメオ村にワイナリーが完成! ワインづくりは精神的な営み

カシミア製品を主力とするラグジュアリーブランドを手がける ブルネロ・クチネリさんも、ワインづくりに夢を馳せるひとり。 クチネリさんが抱く、ワイナリーオーナーとしての想いとは。


ワインの温かみは力となり、想像力をかきたててくれる

「精霊の宿る村」と呼ぶほどにブルネロ・クチネリさんが惚れこんだイタリア、ウンブリア州にあるソロメオ村。

ファッションの中心地ミラノではなく、夫人の故郷であるこの村に、自身のブランドの本拠地を構えたのは1985年。「この村が本来持つ力を引きだし、荒廃していた土地に尊厳を取り戻したかったのです」と語るクチネリさんは、以降、古城や住居の修復、職人学校の開設、公園の造園など、村全体の復興と再生に努めてきた。

そして昨年、復興プロジェクトのひとつとして、建設に5年をかけたワイナリーが完成。長年の夢であったワインづくりが、いよいよ始まるのだという。

「青年時代の望みに輝きを与えてくれたワインは光の唄であり、兄弟愛のようなもの。人生の種を私の中に蒔いてくれました」

栽培品種は標高が高く昼夜の寒暖差が大きいソロメオ村に最適なサンジョヴ ェーゼとメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン。スーパータスカンを彷彿とさせる品種構成だ。

もともとウンブリア州は、エトルリア時代の紀元前8世紀にまでさかのぼる、歴史あるワイン産地。中世にベネディクト修道会の僧侶たちによってワインづくりが発展し、16世紀にはローマ法王パオロ3世に愛飲されたという記録も残る。

クチネリさんのワイナリーは景観を損なわないよう丘陵斜面を利用して建てられ、建物正面では、人と風景とのよき関係を表すローマ神話の酒神バッカスの彫像が、ブドウ畑を見守る。醸造には、メンテナンスに手間はかかるが、近年の高級ワインづくりには不可欠な木製発酵槽を導入。ブルネロ クチネリの製品と共通する、手仕事と職人技による美を備えたワインが誕生する準備は万全だ。

クチネリさんは14世紀の古城や12世紀の教会なども修復し、 荒廃していた村の再生に注力。写真はソロメオ村にてクチネリ一家。

「深い精神性の象徴であるブドウの木と母なる大地は、普遍的で聖なる価値そのもの。そのふたつを一体化するワインセラーは私が夢見た聖堂です。祖父のワインが身近にあった私にとって、ある意味、ワインとは私の幼少時代の精神を再体験し、その息吹を再び吸いこんでいるようなものかもしれません」

クチネリさんにとってのワインづくりは、伝統産業の復活というよりも、勤勉で謙虚なかつてのベネディクト修道士のような、精神的な営みなのかもしれない。ここで醸造されるワインも、家族や社員、家族同然のソロメオ村の人々で楽しむだけで、一般販売する予定はないという。

「愛する孫と一緒に、かつての行為と儀式を今、繰り返すことができる。私はそれだけで十分幸せなのです」


「ブドウを栽培することは聖なる行為」と語るブルネロ・クチネリさん。
Brunello Cucinelli
1953年イタリア生まれ。’78年にブルネロ クチネリを創立。「美・人間性・真実といった永遠の価値こそ行動の理想であり道しるべ」の信念のもと、人間主義的企業を目指す。


Text=西田 恵