僧侶で庭園デザイナーの枡野俊明が手掛けた渋谷のホテルに潜む枯山水の禅の庭とは?

渋谷の中心地に、その喧騒を忘れさせるような、静けさに包まれた枯山水の庭園がある。禅を説く僧侶でもある庭園デザイナー、枡野俊明師に、庭に込めた思いをうかがった。


自分自身の内なる声を聞く

セルリアンタワー東急ホテルのガーデンラウンジ「坐忘(ざぼう)」の窓の向こうに広がるのは、季節の樹々と大小さまざまな石で構成された枯山水“閑坐庭(かんざてい)”。ここが喧騒あふれる街・渋谷の一角だということを忘れさせる風景がそこにある。

デザインを手がけたのは、曹洞宗徳雄山建功寺の住職であり、日本を代表する庭園デザイナー、枡野俊明師だ。

「 『閑坐庭』という名は“閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)”という禅語から名づけました。“心静かに坐っていれば、実際には聴こえない松の葉の音も聴こえるかのように、おだやかな時間となる”という意味です。ほんの少しでも日頃のわずらわしさから解放され、静かな気持ちで過ごせるように、そして時間に追われている日々のなか、自然と対峙し坐ることで、自らの心の内をいま一度見直す場所にしていただきたい。それがこの庭の最大の役割だと思っています」

庭のテーマは水。花崗岩の一種である庵治石を何段にも組んで表現した水のうねりは、岩にぶつかり形を変え、さらに庭だけにとどまらず、寄せる波のようにラウンジ内へ。水面に見立てたカーペットに静かに波紋を広げ、さらに季節の花が生けられたロビー中央の花水鉢へと続いていく。

大小の石組で庭の流れるさまを表現。

「 障子を開けはなてば、部屋から濡れ縁、庭へと続く日本家屋のように、内と外がゆるやかに一体化しているのが、日本の空間づくり。ニューヨークともパリとも違う、四季の変化を尊ぶ日本ならではの空間にすべきだと考えまし

そして絶景は、庭だけで完成するものではないと枡野師は言う。

「 庭、インテリア、そしてそこで働く人間のたおやかな所作。そのすべてのバランスがあって、この『坐忘』の世界観ができあがるんです」

庭の細部にもこだわりがある。渋谷のなかでも、すぐ裏手に歴史ある屋敷町が広がり、喧騒と静寂をつなぐエリアにあるこのホテル。

「 『閑坐庭』も屋敷町側は植栽を多く石も加工せず有機的なイメージに。徐々に石に磨きをかけ、敷きつめる石も増やし、渋谷の中心部側は都会的な印象にしています」

ひっそりと咲く可憐な野花に春の息吹をみつけ、日ざしに輝く緑の色濃さに夏を感じる。そして雨粒がモノクロームの色彩で石を濡らすさまや、落葉するごとに地面に足跡を残す紅葉の艶やかさに心打たれる。

「 この庭を静かに眺めながら、自分自身の内なる声を聞く時間を過ごしていただきたいと思います」

心地よいシートとサービスに身をまかせれば、さまざまな表情を見せる「坐忘」の庭は、ほかでは得られない気づきを与えてくれるはずだ。

セルリアンタワー東急ホテル ガーデンラウンジ「坐忘」
住所:東京都渋谷区桜丘町26-1
TEL:03-3476-3439
営業時間:10:00~22:00(L.O.21:30)
交通アクセス:東急東横線・田園都市線、京王井の頭線、JR山手線・埼京線、東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線の渋谷駅から徒歩約5分
料金:コーヒー・紅茶各¥1,342~、ケーキセット¥1,782~、アフタヌーンティーセット¥3,920(1名さま)、日本茶セット(和菓子つき)¥1,508~
www.tokyuhotels.co.jp/cerulean-h/
SHUNMYO MASUNO
1953年神奈川県生まれ。「禅の庭」庭園デザイナー、曹洞宗徳雄山建功寺住職。芸術選奨文部大臣(当時)新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受賞。多摩美術大学環境デザイン学科教授を務める。著書に『悩まない禅の作法』(河出書房新社)などがある。


Text=牛丸由紀子 Photograph=古谷利幸