さだまさし新刊『酒の渚』発売。ナオト・インティライミが語る、"まっさん"との酒の思い出

中一の時、「雨やどり」を聴いて深く 感動したナオト少年は、長じて さだまさしさんと酒を酌み交わす仲に。雑誌「ゲーテ」連載『酒の渚』の書籍化を記念し、ナオトさんがさださんとの思い出を語ります。 


仮設屋台での「さだ大学」

「ナオト、来月一緒に被災地行こう」

まっさんから突然電話がかかってきたのは、初めて電話番号を交換していただいて、ほんの四~五日後のこと。NHKの番組で、陸前高田でバンドのロケがあるから一緒に行かないか、って声をかけてくださったのだ。もちろん、「何が何でもスケジュールこじあけます」と言って、僕は陸前高田に向かった。

まっさんはツアーの真っ最中で、初日の夜合流して、少しロケをした後の、仮設の屋台での打ち上げでのこと。ビールを呑んで気が大きくなった僕は「曲、作りたいんです」「この日に、この被災地にいる感情じゃないとできない曲があって、でも、僕ひとりではとても言葉にできない」とまっさんにお願いした。まっさんは、「そんなに簡単に曲は作れないぞ。何、言いだしてるかわかってるんだろうな」と。そうですよね、ごめんなさい……、と思っていたら、マネージャーさんに「ギター持ってきてくれ」って言って、「ナオトちょっと来い」と仮設屋台の隅っこに連れていかれて、「やるか!」と。夜中の十二時から五時間かけて作った曲が「きみのとなりに」。まっさんが歌詞ベースで、僕がメロディベースなんだけど、歌詞を見ただけですぐメロディが浮かんでくる。「笑っちゃうくらい今を生きてる」とか、言葉にすでにメロディが乗ってるから。

そして、たくさんの音楽的なテクニックを教えてくれて、まさに「さだまさし楽曲制作ワークショップ」にたったひとりで参加するっていう、すごく贅沢な時間だった。でもそれは、打ち上げの流れで、仮設屋台の片隅でっていうのが大きかったんだろうな。

それ以来、「呑んでるから来ない?」って、パッと電話がかかってくるようになった。行くと、噺家さんに、演歌の大御所、芸人さんやタレントさん……たくさんの人たちがまっさんを囲んで呑み、語らっている。僕はいつも「さだノート」って表紙に書いたノート(もう何冊にもなる)を開いて音楽についてはもちろん、日常会話ではあんまり使わない面白い江戸弁や、井伏鱒二さんのエピソードとか、とにかく、アンテナにひっかかったことは片っ端からメモ。

まっさんと呑む場は僕にとって「さだ大学」。この大学は貴重な学び舎で、歴史の勉強であり、道徳の時間であり、古典も美術も、とにかくいろんな授業が展開されてる。僕もいろんな質問をするけど、やっぱりお酒が入ってるからこそ、思い切ったことも訊ける。

まっさんは、「俺が持ってるバトンは全部やるから、ナオトが欲しいものがあったら、持ってっていいぞ」って言ってくれる。お酒はいつも、まっさんに合わせてビールからワインについていく感じかな。「ナオト、赤ワインは身体にいいんだよ。でも、呑みすぎたらダメだけどな」なんて言いながら。


Naoto Inti Raymi
シンガー・ソングライター。66ヵ国をひとりで渡り歩き、各地でライヴを行い世界の音楽と文化を体感。「インティ ライミ」はインカの言葉で「太陽の祭り」。


『酒の渚』 
幻冬舎 ¥1,100

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