代打は神様? 球道 即(すなわち)仕事道 宮本慎也


代打は神様?

気持ちがどれほど結果に影響するか。現役を引退した最後の最後で、僕はそれを改めて実感することになった。
 最終シーズンの打率は2割6分6厘。前のシーズンが2割6分7厘だったので大差はないとも思えるが、打席数が違う。259打席と394打席。ちなみに全盛期は600打席以上の年もある。要するに、代打の打席が増えたのだ。
 その代打の成績が、引退したシーズンの後半、急激によくなった。現役引退発表後、自分でもびっくりするような結果が出始めたのである。振り返れば、あのバッティングをもうちょっと早くできなかったのか、と思った。そして、何が違ったのかというと、気持ちの部分が大きかったのだ。
 それまでは、なんとか結果を出さないといけないと、ああでもない、こうでもない、といろいろ考えすぎてしまっていた。ところが、引退発表後はシンプルに、もう残りおそらく数十打席しかないのだから、とにかく悔いのないように振ろうと考えた。その一心で打席に立っていたら、いい結果が出てしまったのである。

シンプルな気持ちになれたのは、実は大きなきっかけがあった。代打の打席が増えていったが、なかなか結果を出すことができないなかで、かつて阪神タイガースで代打の神様と呼ばれた川藤幸三さんに話を聞きに行ったことがあったのだ。代打は、どういう心構えでいればいいのか、教えてもらおうと思ったのである。
 川藤さんは、おなじみのあの口調でこんなふうにズバッと言われた。
「アホか、宮本。代打は補欠や。代打の切り札とか、代打の神様とか、テレビではええかっこして言われるけど、そんなもん真に受けたらあかん。オレのときもそんなふうにさんざん言われたけど、代打はあくまで補欠や。ほんまに期待されとったら、4打席立たすやろう。お前が監督やったら、そうするやろう。所詮は補欠なんや。だから、打てんで当たり前と思っとったらいい。もし打てたら、こっちのもんや、ありがたいと思っていけ。オレはそう思ってやってたぞ」
 ちょうど夏前あたりだった。目からウロコのアドバイスだった。プレッシャーを受けるな、レギュラーよりは期待されていないんだ。そのくらいの意識で打席に立てばいいのだ、と。この人、いいこと言うなぁ、と思った。もっとも、この話を聞いてから数週間後に引退発表をしてしまったので、ご挨拶に行った時、「なんや、引退の腹は決まっとったんやないか」と叱られてしまったのではあるが。
 気持ちひとつで結果は変わる。結果を出している人は、やはり気持ちのコントロールが圧倒的にうまいのである。

Composition=上阪 徹 Illustration=きたざわけんじ
*本記事の内容は14年1月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい