【起業家インタビュー】RPA界の革命児・石井岳之 「起業家にカリスマ性なんて必要ない」

いま、ビジネスシーンでRPAへの注目度が高まるばかりだ。RPAとはロボティック・プロセス・オートメーションの略語で、AI(人工知能)を備えたロボット技術を用いて、定型的な業務を自動化・効率化していくシステム。このRPA分野にてプラットフォームメディア「RPA BANK」を展開し、情報発信や開発に必要なスキルの提供を行う企業がセグメントだ。同社が主催する「RPA DIGITAL WORLD 2018」はRPA国内最大級カンファレンス。今年は7月4日に東京国際フォーラムで開催され、4398人の来場者を集めた。熱気あふれる会場にて、セグメント代表取締役社長・石井岳之氏に話を聞いた。


ボクシングで培った緊張感

子供の頃から、ロボットに対する興味が人一倍強かったわけではありません。でも、ドラえもんやドラゴンボールといったアニメを見て、「大人になった頃には、人間とロボットが一緒に生活しているんだろう」と、当たり前のように考えていました。大学は理系ではなく、文系の経済学部を選択。マクロ経済について学びましたが、それほど勉強に励んだわけではありません。どちらかというと、勉強よりもスポーツに打ちこむ毎日でしたね。

そのスポーツとは、ボクシングです。実は、プロのライセンスを取得していたんですよ。今もボクシングを続けていて、週5回、1日2時間程度のトレーニングを積んでいます。なぜボクシングに夢中なのか? リングの上の緊迫感が好きなんです。リングに上がってしまうと、誰も助けてくれない。その状況で、相手が本気で打ちのめしにくるわけです。甘い考えは一切通用しない。少しでも気を抜くと、すぐにのみこまれてしまいます。これは、ビジネスでも同じ。緊張感を持ち続けていないと、簡単に追い抜かれてしまいます。

もうひとつ、ボクシングを通して学んだことがあります。それはトレーニング理論の重要性です。残念ながら、日本のトレーニング理論は欧米に比べて遅れています。現在でも根性論が根付いていて、練習や試合のなかで「根性を見せろ」とか、「もっと速く打て」といった声が飛び交うわけです。でも、トレーニング理論を知らずに、どれだけジャブの練習をしても一向に打つスピードは速くなりません。力学に基づく体の使い方を身に付けてこそ、速いパンチが打てるようになります。ボクシングは、「死ぬ気で取り組まなければならない」「何事にも理論が大切」という2つのことを教えてくれました。

自分の手で何かをしたい

こうした考え方は、私の仕事哲学にもつながっています。2005年、私は大学を卒業して、RPAホールディングス(当時の社名はオープンアソシエイツ)という会社に就職しました。当時は「将来、何をしたいか」という明確なビジョンは見えていませんでしたが、「自分の手で何かをしたい」という思いだけは強かった。だから、当時は数名しか社員がいない、働く人の顔が見えるベンチャー企業を選びました。今にして思えば、典型的な“青い鳥症候群”だったともいえますね(笑)。

RPAホールディングスでは、大企業に向けた新規事業のコンサルティングとホワイトカラー層の業務改善に関する仕事を受け持ちました。今までホワイトカラー層が時間を費やして行っていた仕事を、AIや機械学習、ルールエンジンなどを活用することで、効率化を図っていくわけです。このシステムは日本ではまだ珍しく、現在のRPAの原型といえるもの。やりがいを感じながら、仕事に打ちこむことができました。

その一方で、起業への思いも膨らんでいきました。学生時代から会社を立ち上げたいという夢はありましたが、実際にコンサルティングの仕事をするうちに、組織の中で与えられた役割をこなすよりも、「何をやるか、誰と働くか」を自分で決めたいという思いが強まりました。加えて、時代の後押しもありましたね。2005年頃から、イノベーションは“工場で生みだす時代”から、“Web上でプログラミングする時代”に変化。大きな資本がなくても、誰でも起業のチャンスを得られる時代になったのです。

7月4日に東京国際フォーラムで開催された「RPA DIGITAL WORLD 2018」の各ブース。

「成果にコミットする」意識を持つ

2012年、セグメントを設立しました。業務の内容に関しては、RPAホールディングス時代と大きくは変わりません。ただし、仕事に挑む気持ちはまったく別次元。「成果にコミットする」という意識が高まり、そのために必要なスキルや粘っこさを常に示してやろうと考えて行動するようになりました。

日本人は起業や経営を難しく考え過ぎていると思います。「失敗するリスクが大きい」とか、「経営にはカリスマ性が必要だ」とか。でも、実際に起業してみて思うのは、「起業や経営は誰にでもできる」ということ。カリスマ性なんて、必要ないですよ。もっとも重要なのは、起業家精神を継続して持ち続けること。初めての起業でいきなり成功をつかめる人はごく少数です。9割が失敗するといわれています。その失敗した時に何を学ぶのか、そして次のチャレンジにどうつなげていくかが重要。経験とスキルを積み重ねながら、次を目指す精神力が起業家には欠かせません。

ロボットがもっと活用される時代を作る

セグメントでは、「人間とロボットが楽しく協働する世界の実現」を目指しています。人間とロボット、それぞれの特徴や得意分野を活かせば、ビジネスの生産性は格段に高まるはずです。例えば、インターネット広告事業。ニュースなどでも報じられるように、広告制作の現場はとても過酷な環境です。莫大な情報を集め、その情報を整理し、レポートにまとめ、クライアントと打ち合わせを繰り返す。作業が徹夜になることも珍しくありません。でも、情報収集やレポートの制作はロボットの得意分野。人間と違って24時間働けますし、エクセル入力など、ルーティン化できる作業は人間よりもミスが少なく優秀です。そのぶん、人間はクライアントとの打ち合わせなど、人と人の関係が求められる仕事に打ちこめばいいのです。

こうした世界を実現するために、セグメントでは「RPA DIGITAL WORLD 2018」などのイベントを定期的に開催。ロボットを導入した企業の事例を紹介するほか、ロボットに関するさまざまな情報を提供しています。今後さらにロボットの活用が進み、「この業種で、こんな使い方ができるのか」と驚かされるような事例に出逢いたい。そして、ロボットを使うことで成功を収める起業家に出てきてほしいと願っています。

「RPA DIGITAL WORLD 2018」の講演会場は常に満席だった。


●座右の銘

ニュートンが書簡の中に書いたとされる言葉「巨人の肩の上に立つ」です。

いま、セグメントはRPAをビジネスの根幹にしていますが、このRPAは私たちが一から作り上げたわけではありません。先人や偉人が積み上げてきたものに基づいて、やっとビジネスとして運用できる形になったということです。そうした意識を常に持ち、決して独善的にはならずに、謙虚にビジネスに向き合っていきたいですね。


●愛読書
幅広いジャンルの本を読むので一冊に絞るのが難しい……。ビジネスに直結する本では、ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が書いた『イノベーション・オブ・ライフ』。単なる成功戦略の指南書ではなく、信念や人生のルールを長期的に持つことの大切さを教えてくれます。

プライベートでは、城山三郎さんの『落日燃ゆ』をはじめ、日本の歴史小説を読むのが好きですね。昔の武士や戦時中の人々は、命を賭けて職務に就いていた。でも現代では、そうした機会はほとんどありません。死ぬ気で仕事に取り組むというメンタリティとはどのようなものなのか、それを少しでもつかみたいと思って歴史小説を読んでいます。私にとって歴史小説は、ボクシングとともに仕事へのモチベーションを高めてくれる欠かせないアイテムなのです。


TAKAYUKI ISHII
1981年千葉県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、オープンアソシエイツ(現 RPA ホールディングス)に入社 。2016年、セグメント代表取締役、オープンアソシエイツ代表取締役に就任。
SEGMENT
ウェブマーケティングサービスを目的として、2012年設立。社員数23名。”未来の変化を捉え、挑戦し続ける”を掲げ、躍進する注目の企業。RPAの総合プラットフォームメディア「RPA BANK」を通して、ロボットと共に働く幸せな時代をつくる。
https://rpa-bank.com/


Text=川岸 徹 Photograph=坂田貴広