日本の音楽産業は米国から5年遅れている ~素人目線 松浦勝人の生き様~


エンタテインメント2.0の世界

同じものでも、内側から見る景色と外側から見る景色は違って見える。僕らがいる音楽を中心としたエンタテインメント業界は、業界にいる人から見ると、成長する要素がたくさんあるように見えると言う。

米国の音楽産業が復活をしている。Apple MusicやSpotifyなど聴き放題サブスクリプションサービスからの楽曲使用料収入が、大幅に増えているからだ。CDやダウンロード型のデジタル配信も、下がっているとはいえ、まだ収益源になっている。理想的なかたちで、ストリーミング、サブスクへの移行が進んで、それが全体の売り上げを押し上げている。

日本の音楽産業は、米国から5年遅れのようなところがある。だから5年後には米国と同じように、サブスクに移行が進み、全体の売り上げが上がってくると期待してもいいのかもしれない。 CDだけでなく、ダウンロード型のデジタル配信も縮小傾向だから、アーティストが、自分の楽曲を広めるには、サブスクに楽曲を提供するしかなくなっていく。そうなると、すべての楽曲がサブスクで聴けるようになり、サブスクが盛り上がって、日本のマーケットも上向きになるという見方がある。

この業界は、今までCDの売り上げが一番大きかったから、 CD以外の部分でなおざりになっていたものがたくさんある。

アーティストも、今までは音楽だけを作っていたけど、今ではそれにとどまらない人がたくさん出てきている、ファッショ ンや、雑貨、映像、いろいろなものを作ることで、自分の世界観を表現する。それをブランド化していくのも僕たちの仕事。

ここまでは、あくまでもエンタテインメント1.0の話。2.0の世界でも広がりが生まれてきている。CGの仮想アバターを通して配信をするバーチャルユーチューバー。仮想ライヴ空間を提供するライヴ配信サービス。 著名人の時間を株のように売買できるアプリケーション。タレントが直接商品を販売するライヴコマース。新しいプラットフォームが次々に登場している。そこで活躍する才能を発掘し育成するのも僕らの仕事だ。

IT業界から見ると、エンタテインメント業界は可能性に満ちた世界に見える。

でも彼らは、自分たちのプラットフォームで活躍するタレント、パフォーマーを、発掘し育て、売りだしていくというマネジメント業務はやりたくないと言う。大変な仕事に見えているのだそうだ。その分野は僕たちが、ずっとやってきた仕事。難 しいけど、一番面白いところだ。 

確かにマネジメント業というのは特殊な仕事だ。マンガのように言うならば、ちょいワルオヤジのような社長が電話本引いただけの事務所を借りて、原宿を目をギラつかせながら可愛い女の子を探し回り、ナンパするようにスカウト、その子をレコード会社に連れていく。「この子、絶対売れますよ」とレコード会社のディレクターに売りこんで、育成支援金を支給してもらう。そのお金で給料を払ったり、次のアーティストを探したりと事務所を回していく。

もちろん、現実は甘くはない。 タレントを3人育成したら、1人はスターになってもらわないと事務所は倒産するだろう。その代わり、スターを育てることができたら、一夜で立派な「芸能プロダクション」と呼ばれるようになる。投資効率何千倍どころではない。元がほぼゼロみたいなものなのだから、無限大になることもありえる世界。

でもどこで、この子には才能があるかどうか、芸能界でやっていけるかどうかを見極めるのか。このノウハウは、マニュアル化することができない。

値段のつけようがない「人」に投資をする

オーディションで、歌もダンスもうまく、ルックスもよくて、 誰もが選ぶ、というほうにいかないで、何もできないけど、人間性だけが面白いという子を選んでしまうことがある。自分でも不思議。でも実際にそういう子がスターになることもあった。 客観的に正しい正しくないでなく、極論を言えば、スターを見つけるには直感のようなものが 必要なのかもしれない。

そう考えると、確かに一般的な企業には、踏みこんでいけない仕事なのかもしれない。だとしたら、僕らはそこで僕らの強みを活かすことができる。

前にも話したけれど、これからの世の中は、会社という器がどんどん溶けていく。エンジニアでもデザイナーでもフリーランスが増えていて、必要な時に集まり会社の形になって仕事をする。終わったら、バラして、別の仕事を別の器でやる。

そういう「会社2.0」の生き方をしている人たちは、企業から見ると信用がない。人として信用ができたとしても、客観的な与信情報が取れないと企業は事業契約を結べなかったりする。2.0の人たちは企業と仕事ができない、企業は2.0の人たちの才能を活用できないという状況が生まれている。

でも、僕らはずっとそういう人たちと仕事をしてきた。才能があるのか、売れるかどうかわからない若者を信じ、莫大な育成費用や広告宣伝費を投資する。レコード会社やテレビ局など企業に売りこむ。信用がまだない人に、信用を担保し、企業と仕事ができるようにする。

多くの企業やベンチャーキャピタルは、会社に、事業に投資をする。でも僕らは、会社や事業よりも、人物そのものを信頼して投資をし、育成、企業に対してプロモーションをする。それがやりたくてエイベックス・ ベンチャーズという投資会社を設立した。でもやってみると、ビジネスの話が出てきて、会社に投資をすることが増えていく。 そればかりだと、他のベンチャーキャピタルと同じになってしまって、僕らがやる意味がなくなる。だから人への投資をしやすくするため、子会社だったベンチャーズを、新しく作った僕直轄の部署に吸収した。

僕らだから投資ができる、投資をする意味があるというところを発見し、値段のつけようがない「人」に投資をする。僕たちは、「人の可能性」に投資をしたい。

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Text=牧野武文 Photograph=有高唯之


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松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長CEO。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。本連載をまとめた単行本『破壊者 ハカイモノ』(幻冬舎)を2018年7月に発売。
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