GMO 熊谷正寿 すべてでナンバー1を目指す男。背水の陣で目的を達成するのが僕の流儀

20歳代の古い手帳には、ビジネスジェットの写真が貼ってある。夢を夢のままで終わらせない。GMOインターネットグループの熊谷正寿代表は、ずっとそんなふうに生きてきた。「子供の頃から空を飛びたいと思っていました。今でもよく眠っている時に空を飛ぶ"夢"を見るくらいなんです(笑)」。  昨春、長年の夢をかなえるため、ヘリコプターの免許取得を目指して動き始めた。

「ヘリコプターや飛行機の免許を取ると、定期的に航空身体検査という聴力や視力、脳波の検査を受けなければならないんです。40歳代なら2年に1回でいいんですが、50歳代になると毎年検査を受けなければならない。身体的なことを考えると、今しかないと思ったんです」

20歳代に書いた"夢手帳"には、ポルシェやフェラーリと並んでビジネスジェットの写真が貼ってある。手帳に書かれた夢はほとんど実現したそう。

免許を取る前にヘリコプターを購入

 当然、取りたいと思って簡単に取れるような免許ではない。身体検査をパスしても「航空工学」「航空気象」「航空法規」など5教科の学科試験と、40時間以上の飛行訓練を経たうえでの実地試験が待っている。

「学科をパスするだけでも大変な勉強が必要なんです。酒席やゴルフを控えて時間をつくり、一生懸命勉強しました。何十冊とある参考書をPDF化して、iPadやiPhoneでいつでも見られるようにし、受験用のアプリを活用してどんどん暗記するようにしました。そうやってようやく無事に学科試験を突破して仮免許は取得できたんですが、操縦訓練がさらに難しい。ヘリコプターの操縦は、玉乗りをするようなもの。五感で状況を感じながら、両手両足を使って操縦している感じ。1時間の訓練でもかなり疲れます」

 ヘリコプター免許の取得は、困難かつ長期間の戦いだ。そこで熊谷氏は、自らにハッパをかけるようにある行動にでる。

「免許を取る前にヘリコプターを購入しました。そうやって背水の陣を敷き、自分を追いこんで、目的を達成するのが僕の流儀。買ったのは、アグスタウェストランドAW109グランドニューという世界最速のヘリ。最高速度は285キロ。風向きにもよりますが、速ければ京都まで1時間半で行けるんです」

 6人乗りの大きな機体だが、流線型の美しいフォルム。座席はベージュの革張りでラグジュアリーな雰囲気。ファーストクラスとはいわないが、ビジネスクラス並みにゆったりとしている。熊谷氏がこだわったのは、そのボディーカラーだ。

「フェラーリの『グリジオ・イングリッド』という色で塗装しました。イングリッド・バーグマンの瞳をモチーフにしたという僕の一番好きな色。フェラーリに頼み込んで塗料の配合を教えてもらい、ヘリを同じ色にしました」

新木場の東京ヘリポートからGMOのオフィスがある渋谷に向かっての訓練飛行。直線距離で約12キロあるがわずか7分で到着した。

一番になることは笑顔への近道

 熊谷氏の飛行に同乗させてもらう。エレベーターのようにスーッと上昇したかと思うと、あっという間に湾岸からGMOの本社がある渋谷の上空へ。この日は風が強かったにもかかわらず、揺れもほとんど感じない。快適で楽しい空の旅は、約30分間続いた。

「ヘリコプターの免許の次は飛行機。いずれはVIPのための空飛ぶウーバーのような事業を始められればと思っていますが、まずは自分のお客様のための"おもてなし"に使いたいと考えています。このヘリなら快適かつスピーディーに空の旅ができる。誰にとっても貴重な時間を節約することは、最高のホスピタリティーになるはずです。しかもそのヘリを僕が操縦していたら、面白いサプライズになると思いませんか」

 みんなを笑顔にしたい。それが熊谷氏のモチベーションだ。そのためにビジネスはもちろん、何事にも全力で挑み、ナンバー1を目指す。

2016年4月に発足したGMOアスリーツ。2020年の東京五輪に向け、ナンバー1を目指す若きアスリートたちを支援。

「一番になることは、笑顔への近道。だから僕は社の仲間たちにいつも一番のサービス、一番のプロダクトを生み出すようにと言っています。どうすれば笑顔をマキシマイズできるか。それが僕の行動基準なんです」

 GMOのインターネットインフラ事業は、マーケットシェアでナンバー1。圧倒的な強さで日本のネット業界に君臨する。また、昨年創設した陸上チームGMOアスリーツも、当然目指すは世界一。2020年の東京オリンピックで金メダリストを輩出するべく、熊谷氏自ら全国に足を運び、スカウティングを行うこともあるという。

「アートの分野でも世界一になろうと思ったんですが、普通にやったらルーブル美術館にはかなわない(笑)。だから一点集中して、ジュリアン・オピーの世界一のコレクターになったんです」 

 熊谷氏は、自らの夢に挑み、それを次々と実現してきた。夢を追うのに年齢は関係ない。すべてでナンバー1を目指す、パワフルに走り続ける生きざまは、多くの人に勇気と笑顔をもたらしてくれる。

(C)Keizo KIOKU/「削ぎ落とされたシンプルな作風が自分のフィーリングに合った」という英国の現代アーティスト、ジュリアン・オピーの作品をコレクション。約90点を保有する質、量ともに世界一のコレクターだ。作品の多くはオフィスに展示。2015年に一般公開された時は話題となり、2日間で1000人以上が訪れた。
Masatoshi Kumagai
1963年長野県生まれ。95年にインターネット事業を開始し、現在はネットインフラ、ネット広告・メディア、ネット証券、モバイルエンターテイメント事業を展開。上場企業9社を含む107社からなるGMOインターネットグループを率いる。グループ全体のパートナー数は約5100名。

Text=川上康介 Photograph=興村憲彦

*本記事の内容は17年2月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)