世界水泳で2種目制覇! 瀬戸大也が必死に泳ぎ続ける理由 ~ビジネスパーソンの言語学55

最近、説明や謝罪時の、違和感のある言葉遣いが話題になりがちだ。当コラムでは、実際の発言を例にとり、公私の場で失敗しない言葉の用い方を考える。ビジネスパーソンのための実践言語学講座55、いざ開講!


「これ以上に水泳がやめたくなるくらい練習したら、いい結果がついてくる」ーーー世界水泳2019・400m個人メドレーで優勝した瀬戸大也選手

400m個人メドレー決勝。実績のあるライバルが予選で落ちるなか、瀬戸大也選手は予選をトップ通過。"一人旅"になるかと思われたレースは、最後の自由形で失速。だが、2位の選手の強烈な追い上げを交わして、約1秒差で優勝を果たした。

「死ぬかと思った。タイム的には満足できないが、本当にラッキーだった」

200m個人メドレーに続き、これでこの大会2つめの金メダル。来年に迫った東京五輪の出場も内定した。

「アスリートとして東京五輪を終えて、まだできたというのを残したくなかった」

20歳代前半がピークといわれる水泳競技で、現在25歳の瀬戸はピークの最後にあると言っていいだろう。かつて練習嫌いだった男は、いま最後の晴れ舞台に向けて、全力で練習を続けているという。

「これ以上に水泳がやめたくなるくらい練習したら、いい結果がついてくる」

スパルタというのは、平成どころか昭和の言葉になってしまった。厳しさよりも、明るさ、楽しさ。スポーツの指導に関する常識は、大きく様変わりしている。厳しい指導とパワハラは紙一重。指導者たちも“おっかなびっくり”選手に接しているはずだ。だからこそ、彼のように自分自身を追い込める選手は強い。

400m決勝は、勝負だけを重視した安全策なら余裕で勝つことができたはずだ。だが瀬戸はそうしなかった。最後に失速したのは、勝負だけではなくタイムも追い求めたから。「安全策が頭によぎったのは、まだまだ自分の甘さ」と、積極的に攻めの泳ぎを見せた。

彼はなぜそこまで自分を追い込めるのか? 瀬戸は今大会のコメントで、何度もライバルかつ戦友の萩野公介の名前を出していた。リオ五輪400m個人メドレーの金メダリストである萩野は、現在スランプに陥り、戦線を離脱している。

「(2012年の)ロンドン五輪は、自分が出られず公介の泳ぎを見てパワーを貰った。ピリッとする。メッセージ的にはよかったと思う」

同じ年で小学生時代から背中を追いかけてきた男の復活を願う。「萩野のぶんまで」と頑張っているわけではないだろう。リオでは萩野が金メダルで、瀬戸は銅メダルだった。きっと彼は、オリンピックの舞台で、萩野と勝負し、そして勝ちたいのだ。だからこそやめたくなるくらいまで泳ぎ、必死でメッセージを送る。

その思いは、萩野に届いたはずだ。20年近く、切磋琢磨してきた2人のライバル物語は来年、最終章を迎える。2人の勝負が実現すれば、東京五輪の最大の注目レースになることは間違いないだろう。

Text=星野三千雄 Photograph=Getty Images