作家・島本理生「お酒は小説を書くための原動力です」【お酒の流儀】

酔ってざっくばらんに話せば、普段見えない素顔が見えてくる。酒席でチャンスを掴む人や資金調達する人、縁をつなぐ人もいれば、アイデアの元にしている人もいる。彼らにとって酒とはどのような存在なのか? 第一線で活躍する酒LOVERの酒の流儀に迫る!


「お店のお薦めを飲むのがマイルールです」

締め切りをクリアしたら、必ずひとりで飲みに行きます」と話すのは、直木賞作家の島本理生氏。家ではいっさい飲まない島本氏にとって、外での飲みはご褒美だ。

「書き上げれば、美味しい時間が待っている! と、仕事のモチベーションになっています」 

その頻度は週に1回ほど。まずは、行きつけのオイスターバーで生牡蠣とシャンパンからスタート。次はなじみの焼き鳥店へ赴き、合わせるのは、ビールや生レモンのサワーを。そして、締めはバーでマティーニというのがお決まりのコースだ。

「お酒を飲むことで頭を緩める感じ。とはいえ、やはり小説のネタ探しをしてしまいます。恋愛とお酒ってとても親和性が高くて、お酒がある場所では小説のヒントになることがたくさん起こるので。あのカップルはどんな関係かなと想像したりと人間観察もついつい……。作家の性ですね」

好きな酒の守備範囲はかなり広い島本氏。小説では酒にまつわる描写も多く、近年、酒蔵への取材を通じて新しい酒に出合うこともあるという。

「酒蔵にグランドピアノが置いてある福島県の蔵元の仁井田本家は、訪ねて以来大ファンに。無農薬・無化学肥料栽培の酒米を使った自然酒は、旨味はあるけれどフレッシュでふわっと優しい。何度飲んでも感動します」

趣がありつつも新旧が混在する飲み屋街、荒木町(新宿区)は島本氏のお気に入りの街のひとつ。お店選びに関しては、ガイドブックを読むよりも勘を頼りに気になるお店に入ってみるというチャレンジャー。

東北のお酒は好みに合うものが多く、秋田県齋彌酒造店の「雪の茅舎」の繊細な余韻にいつもうっとりするそうだ。

お酒の選び方、飲み方は、店主の薦めで季節の限定酒などいろいろな酒質、銘柄を飲むことが多いという。今回撮影の場となった荒木町の『ろっかん』、『HIBANA』も良質な酒の品揃え、店主の知識の豊かさが好きなのだ、と語る。

「お店のこだわりを感じさせながら、好みにも配慮してくださるのが嬉しい。寛ぎの空間です」 

20代の頃は、味の表現が「濃い」「薄い」くらいしか出てこなかったという島本氏。

「同じ大吟醸でも、フルーティなものばかりでは飽きるから、次はキレのあるものを、と指南いただいたり。苦手だったアルコール感と旨みの強いお酒は、燗にすると和らぐことを教えてもらったり。飲むお酒の幅に比例して表現する言葉の幅も広がっていくのが楽しいんです。日本酒に限らず、お酒への興味は深まるばかりですね」 

その尽きない興味は、執筆の原動力にもなっている。

日本酒もワインも、生産地の風土を移す自然な造りのもの,、造り手の想いが味わいとなり、じんわり染み入るようなものが好み。
Rio Shimamoto
1983年生まれ。15歳の時の作品「鳩よ!」で掌編小説コンクール年間MVPを受賞。2001年『シルエット』が群像新人文学賞秀作に。’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、そして昨年『ファーストラヴ』で直木賞に輝く。


島本理生がオススメするお酒2選


Text=藤田実子 Photograph=鈴木拓也