メディカルノート梅田裕真「投資家から起業家へ。医療の新時代を作る」<後編>

大学4年生にして著名なヘッジファンドでキャリアをスタートした梅田裕真。そもそも医師を志していたという彼が、なぜ投資家として成功をつかむことができたのか? 現在はエンジェル投資家として起業をサポートする一方、自らが100%コミットする医療と患者をつなぐITサービス会社「メディカルノート」を設立。学生時代にスタートした投資家人生から、現在の起業家として生きる日々まで、梅田裕真の人生に迫った。


エンジェル投資家として起業を後押し

2013年1月、ヘッジファンドを辞めて、日本に帰ってきました。でも、何を始めるかという明確なプランはない。投資家時代にいくつかベンチャーを見てきて、ベンチャー特有の盛り上がりに憧れを抱いていた。そこで、知り合いのベンチャー企業で、アルバイトをさせてもらうことになりました。

だが、まったく通用しない。投資家や運用業しかやったことがなく、当時はプライドも高く、企業の実務なんてやったことがないし、やろうと思ってもできなかった。アルバイト生活は、予想以上にうまくいきませんでしたね。

その年の6月、鎌田和樹さんがユーチューバーの動画を利用した新しいビジネスを始めると聞きました。鎌田さんは僕がシンガポールにいた頃からの知り合いで、「こんなにすごい人がいるんだ」と感じていた方です。物事の本質を捉える能力はもちろん、人を束ねる力も圧倒的。昔だったら、大帝国を築いていたんじゃないかと思えるほどの人物です。

そんな鎌田さんが起業するという。ゼロから会社を作り上げる様子を、間近で見てみたかった。僕のほうから「何かできることがあれば協力させてください」と申し出ました。結局、エンジェル投資家として、金融面で鎌田さんを支えることになりました。この会社が、UUUMです。いまでは日本を代表するユーチューバーが数多く在籍しています。

UUUMのほかにも合計で10数社、投資家として起業をサポートしました。その経験を生かし、自分でも起業してみようと決意した。そして、2014年10月、メディカルノートを立ち上げたのです。

満を持して、起業家の道へ

事業のアイデアは、学生時代から温めていたものです。僕は大学生の時に緑内障を患いました。病気についての情報を得ようと、インターネットをたびたび検索しましたが、ネット上では思うように情報が集まらないんです。例えば、「緑内障という病気は眼圧と大きく関係があって、ネットではコーヒー飲んだら眼圧が上がるといわれていた。それは正しいのか? 正しいならコーヒーをやめるべきなのか?」という疑問。ネット上では解決できませんでした。

メディカルノートの共同創業者で、医師・医学博士である井上祥と。

「医者に相談すればいいだろう」と思われるかもしれませんが、担当の専門医はめちゃめちゃ忙しい。こんな質問をしては迷惑だろうと感じていました。その専門医は僕のほかに100人以上の患者を抱えていて、診察時にもらえる時間は1人数分くらい。100個くらい質問を考えて病院に行っても、1個しか質問を出せずに終わってしまいます。コーヒーに関する質問なんて、とても切り出せません。

日本には、病院以外で信頼できる医療情報が得られる場がなかったんです。これは、日本が悪いわけではなく、医療の仕組みがそうなってしまっているせいです。シンガポールでは、風邪をひいて病院に行ったら、それだけで3万円ほどかかります。ですから、ネット上で調べて、病院に行くべきかどうか悩むわけです。日本は医療費の個人負担が低いですから、病院に行くかどうかでそこまで悩む必要がない。医療制度が素晴らしいため、そのぶん、「自分で調べる」という選択が失われたともいえます。

でも、その選択性のなさが、患者はもちろん、医者にも大きな負担を与えています。医者には熱意のある人が多く、週末に自分の時間を削って講演会を開いている人も珍しくありません。でも、ITを活用して、誰でも自由に情報を得られる世界になれば、医者の負担もかなり減るはず。「あれば絶対に社会の役に立つ」と考え、プロジェクトとしてスタートすることにしました。

メディカルノートでは、サイト上の記事を見て、病気や症状の情報を得られることができます。さらにもっと詳しくみていくと、病院やご協力いただいている医師の想い、ビジョンも紹介されています。ちょっとした情報の収集から医療と向き合うドクターの想いまで、一貫して知ることができます。そして、自分だけが病気と闘っているわけではないということが分かります。

利益よりも、まずは信頼性を追求する

医療をテーマにしたサービスですから、身近に使えるものであっても、そこには信頼性がなければならない。一般人が意見を述べるのではなく、経験を積んだ専門医の情報だけを掲載しています。

信頼できる医療情報を集める作業は、本当に大変でした。自分の足を使って、一軒一軒医師を回り、情報を出してくれるようにお願いする。インターネットへの漠然とした不安から難色を示す医師もいましたが、理念に共感してくれる医師も多かった。人を救うために、自分がもつ知見を広く伝えたいと考えている医師に大勢出会えました。

そして、スペシャリストと共に医療情報を発信する体制作りの中心に立ってくれたのがメディカルノートの共同創業者で、医師・医学博士である井上 祥です。彼も患者への情報発信ができないことやコミュニケーションの時間を十分にとれないことに歯がゆさを抱えており、なんとかそれを解決したいと感じていた医師の一人です。彼とはすぐに「同じ世界を持っている」と感じられました。

2~3年前、医療情報をネットで紹介するあるサイトが記事に信ぴょう性がないとして炎上し、閉鎖に追い込まれました。気軽にサイト上で医療情報を見られるようにするという考え方はいいと思いますが、あまりにも医療へのリスペクトがなかった。ビジネスとして利益を追求するあまり、コンテンツを適当に作り過ぎていたんです。

僕が考えているのは、利潤を追求する前に、専門医による知見を1人でも多くの人に伝えられる状況を作り上げること。それが、このビジネスの本質です。インフラのように世の中に欠かせないものとなれば、運営に必要なお金は集まると思っています。

夢は、あらゆる病気を網羅すること。例えば、1億人に1人しか発症しない病気。そして治療できる医師は30万人に1人しかいない。そうした状況で、メディカルノートが国や地域を超えて患者と医師をつなぐ存在になれれば、これほどうれしいことはありません。そうした世界を作り上げるためにも、僕らはコンテンツの質にこだわり、医療の本質と向き合い続けていきます。


Yuma Umeda
1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。学生時代から株式トレーダーとして有名になり、大学4年生からヘッジファンドにジョイン。エンジェル投資家として活動したのち、病院以外で信頼できる医療情報を得られる場がないという課題感のもと、メディカルノートを設立。「医療と人がITでつながる世界」の実現を目指し、サービスの拡大に取り組んでいる。
https://medicalnote.jp/


Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生