店主・豊島雅信の生き様を見よ! 『スタミナ苑』が日本一の焼肉屋と称賛される理由とは?

一流とは、その分野でとびきり優れている ことであり「他とは違う流儀」という意味も持つ。飲食業界でもしばしば"一流の仕事"という言葉を耳にするが、独自の流儀を貫き続ける数少ない店のなかで、誰もが認める一 流の焼肉店といえば足立区鹿浜にある「スタミナ苑」だ ろう。『行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学』(ワニブックス刊)を上梓した店主のマコさんこと豊島雅信さんに、仕事の流儀とその心得についてお話を伺った。 


仕事とは生きがい。苦しいときもただ前を向いて歩くしかない

豊島さんが実家の「スタミナ苑」で修業を始めたのは15歳のとき。45年間、ホルモンひと筋の豊島さんにとって、仕事とは「生きる楽しみ」という言葉に尽きると言う。

「営業が終わってから明け方近くまでずっと仕込みをするんです。立ちっぱなしだから足腰に来るし、冬は冷たい水で手の感覚がなくなることもある。1日15時間以上働くんだから、体力と精神力との闘いです。昼の仕込みがひと段落して営業時間が近づいてくると、あと10時間以上働くんだなぁと思うこともある(笑)。だけど、暖簾を出すときに並んでくれているお客さんの顔を見ると途端にスイッチが入るんです。頭のなかにワーグナーのワルキューレがかかってね」

上から目線は仕事の大敵。自分を律し、驕らないこと

豊島さんの店にはその評判を聞きつけて毎日、多くの人が列を作る。「スタミナ苑」は予約を一切受け付けないから、食べたいならば並ぶしかない。かつて、時の総理大臣もその行列に並んだことがいまでも語り草になっているが、お客を依怙贔屓せず、どんなときでも店のルールを徹底するのは豊島さんのポリシーだ。

「有難いことにいろいろな方にお店に来ていただくので、45年やっているとその人となりを見る目も磨かれてくるんですね。仕事のできる人は、食べ方もうまい。僕が見ても理想的だなという食べ方をされます。長居はしない、食べたらサッと帰る。何より、食べているときでも集中力があるんです。

自分にも常々言い聞かせていますけど、一番ダメなのは上から目線。注文するときでもエラそうなのはダメ。道理が通らないことは失敗のもとです。だから僕はアルバイトの子に対しても絶対に上から目線の態度はとりません。お願いするときは相手が不愉快にならないように言葉を選ぶ。早くやれと言われるより、ほら、じゃんじゃんやっちゃってー、って言われたほうが相手も気持ちよく仕事できると思うから」

よりよい人間関係を築くには相手の思いを汲むことが大事

この取材中、とある話が豊島さんのもとに舞い込んだ。豊島さんのもとを訪れた二人組の話によれば「中国の番組でぜひ、スタミナ苑のことを取り上げさせてほしい」ということだった。スタミナ苑に行ったことがあればおわかりだろうが「スタミナ苑」がある場所は決して地の利がいいとは言えず、鉄則として予約不可。

仕込みを続けながら豊島さんは「うちはこんな店だからさ、予約も受けてないし、エアコンもない。冬だって有難いことに表には行列ができるから、お客さんだってすごい寒いなかで待ってくれてるんだよね。中国みたいな大きい国でそんな番組が放送されたら、うちはパンクしちゃうよ」と冗談まじりにやんわりと断るが、それでもその二人組は、なかなか引き下がらない。

こちらも同じような立場ゆえ、静かに様子を見守っていると豊島さんは「うちで取材が受けられるのは、基本的に営業後の夜中の1時から。昼間の時間帯と土日はダメだよ」と念を押したうえで、結局その撮影を引き受けた。

帰り際には二人に「タクシー呼ぼうか」と声をかけ「迎車料金がかからないクルマを呼ぶから」とチャーミングな笑顔で付け加える。

二人を見送ったあと「引き受けられたんですね」と言うと「だってさ、あの二人だって上司から絶対に落としてこいよって言われてるわけでしょ。それを無下にしたら気の毒だよ」。相手の要求をただ飲むだけではなく、自分の意思も伝えること。そうすれば相手も自分もその約束のもとに、気持ち良く仕事をすることができると豊島さん。

「帰りのクルマだって、400円浮けばちょっと嬉しいなと思うものでしょ。さりげない気遣いや相手を思いやる気持ちが自分の仕事にも返ってくるんだよね」

アスリートのごとく仕事に打ち込みながら、絶対に真心を忘れることがない。自分で決めたルールに忠実で、どんなことがあっても軸がブレることはない。欲をかかず、人の目線に立って自分の仕事を全うする。

「スタミナ苑」が一流の焼肉店であり続ける理由は、豊島さんの生き様にこそあるのだ。

Masanobu Toyoshima
1958年東京都出身。兄の久博さんが母親と始めた『スタミナ苑』に15歳で加わり、肉修行がスタート。以来、ホルモン一筋45年! 毎晩、閉店後の深夜から、翌日に供する肉の仕込み作業を朝方まで続ける。'99年には、アメリカ生まれのグルメガイド『ザガットサーベイ』の日本版で、「スタミナ苑」が総合1位を獲得。2018年には「食べログアワード2018ゴールド」受賞。

 

「一番イヤなことは自分でやる」「いいなって思ったら、その瞬間から勉強が始まる」「忙しいときほど手を抜かない」「当たり前のことを当たり前に続ける」「お客さんを自分の彼女だと思う」「どうしたら、どうしたら、どうしたらを常に考える」……なぜ働くか? どう働くか? 毎日15時間近く厨房に立ち続ける男が贈る、こころ震える20の金言。

『行列日本一 スタミナ苑の繁盛哲学  ~うまいだけじゃない、売れ続けるための仕事の流儀
豊島雅信
ワニブックス ¥1,300(税込)


Text=小寺慶子