トラブルは売らない、買わない、拾わない!ビジネスパーソンこそ必要なセルフディフェンス力

PRの力で5年間で年商を120倍に推移させた実績を持つ、ikunoPR代表・笹木郁乃さん。SNSを駆使したビジネス戦略でも注目を集める笹木さんが、日々仕事をするなかで「もしビジネスパーソンにこんなスキルが備わっていたら、役立つのでは……⁉」と感じたことを、実際にその道のプロにインタビューするシリーズをスタート! 第1回目は「ビジネスパーソンのためのセルフディフェンス術」について、全国で講演活動を行い、メディアにも多数出演する安全インストラクター・武田信彦さんに話を聞いた。


被害者だけでなく、加害者にならないために

笹木郁乃(以下、笹木) 武田さん、今日はよろしくお願いいたします。セルフディフェンス力(自己防衛力)って、一見、ビジネスパーソンには必要なさそうだと思っていました。女性や子どもたちのためのものかと。ですが、実はビジネスパーソンにこそ、セルフディフェンス力が必要なのですよね。

武田信彦さん(以下、武田) そうですね。私は19歳の頃から繁華街での防犯パトロールに参加し、現場で多くの経験を積んだのですが、実はビジネスパーソンならではの危険な状況というのが結構あるのです。

笹木 それは知っておくと役立ちそう。具体的にどういった状況なのでしょうか。

武田 トラブルの元というのは往々にして足を踏まれたとか、肩がぶつかったとか、些細なことである場合が多いんです。だけど、プライドが邪魔をして、素直に「すみません」と言えない。「謝れよ!」「いや、お前に非があるだろ⁉」という感じになってしまうんです。

笹木 なるほど。ビジネスパーソンって、立場が上になればなるほど自分から謝ったり、理不尽なことがなくなってきたりしますからね。そういうことも揉め事が重大化してしまう要因なのかなと感じます。

武田 そうですね。例えば正義感が強い方だと、相手の悪いところをちゃんと認めさせなければいけないと考える。それゆえに、他者とのトラブルに発展することもあります。また、ビジネスパーソンのなかには体力がある人もいますから、トラブルに巻き込まれた時に、被害者から加害者に転じてしまう危険性もあります。

笹木 えっ!どういうことでしょうか?

武田 やられていた人がやり返した場合に、度を過ぎてしまって、相手を怪我させてしまうということが結構あるんです。だから私は「護身術」ではなくて、「セルフディフェンス術」や「身を守るコツ」と言うようにしています。「護身術」というと、一般の方には「格闘技」と思われてしまう場合がある。何かあればやっつければいい、という考えは危険を招くのです。

笹木 なるほど。ちょっとしたきっかけで、被害者が加害者にもなり得るということなのですね。ビジネスパーソンのなかでも特に経営者が気を付けておくべきことはありますか。

武田 経営者の方に意識していただきたいのは、価値観や正義感というのは、不特定多数のすべての人たちに通じると絶対思ってはいけないということです。公共交通機関や繁華街には、見た目にはわからないけれど、多様な人たちがたくさんいます。つまり、なかにはきっかけがあれば犯罪や暴力をしてしまう、それを止められない、という状況の人もいるということです。なかには、あえてトラブルを待っている人もいる。

笹木 そうなんですか⁉

武田 はい。例えば、仕事やプライベートがうまくいかずイライラしているとか、社会に対して強い疎外感を持っているとか、いろんな要因でむしゃくしゃしている人もいるかもしれません。それに対して、「そんなに怒るものじゃないよ」とか、「先にまず謝れよ」とか、自分の日頃の価値観を押し付けようとしても、当てはまらないことがあり、さらに、怒りの導火線に火をつけてしまうこともあります。

笹木 確かに、ビジネスパーソンは仕事のことで気がかりなことがあって、気持ちに余裕がない場合もあると思います。そういうときは、些細なきっかけでトラブルになる状態にあるのかもしれません。

武田 そうなんです。

笹木 トラブルが起こりやすい特定の状況というのはあるのでしょうか?

武田 ビジネスパーソンのトラブルは、公共交通機関で起こることが多いですね。公共交通機関に居合わせた人達って、みんな何かしら我慢しているところがある。だからそこで軋轢が生まれるのは当然です。

笹木 なるほど。他にはどんな状況がありますか?

武田 お酒の席も要注意です。飲んでいて一番危険なのは、自分の部下や後輩がいる席。アルコールで興奮しているところに、部下や後輩がいることで、カッコいいところを見せたくなってしまう。ちょっと失礼な人に対して「おい!」なんて言って、揉め事になってしまうことがあります。繁華街ではそのようなことがよく起こりますが、時間を巻き戻してみると、その発端は、ささいなことが多いのです。

“相手への配慮”を術として身に着ける

武田 絡まれたときに手を出してしまうと、こちらが加害者となってしまいます。そうなると、揉め事を終わらせることはできても、自分のキャリアや生活までも終わってしまうリスクがあります。私は大学時代に空手の有段者となりましたが、街での対応で攻撃技は使えませんでした。

笹木 どうしたらいいのでしょうか?

武田 絡まれているときって、どちらかがマイナスで、どちらかがプラスの状況なんです。絡む人が勝っている人で、絡まれた人が負けている人。それを、勝とうとせず、フラットな状況に戻せばいいのではないかと考えました。すり抜けるとか、かわす、外す、相手が気が付かないうちに手をほどいて、コミュニケーションで誤魔化すといったことです。そういう独特の技を編み出すようになりました。

笹木 なるほど!

武田 トラブルが重大化してしまうとき、そこに何が足りないかというと咄嗟のコミュニケーション力なんです。

笹木 「すみません」と、その一瞬に言えるかどうかでしょうか。

武田 そうですね。「すみません」のひと言を言うことができれば、もしかしたら逆に爽やかな経験となるかもしれない。ああ、こんなふうに謝ってくれる人もいるんだなって。それができるかできないかが分かれ道なんだと思うんです。日本人の特性として、知り合いにはすごく丁寧だけれど、知らない人にはすごく冷たいというか、シャッターを閉めてしまうようなところがある。もし、肩が当たった相手が得意先の部長だったら、「おー!こんなところで!奇遇ですね!」くらいの感じのいい対応になりませんか?

笹木 あはははは。確かにそうですよね。わかる気がします。でも、私は電車の中で傘を当てられるとどうしてもイラっとしてしまいます。

武田 私も嫌ですね。濡れると、もっと配慮しろよ、と思う。それは、コミュニケーション力で言うと想像力の問題なんです。例えば、もしかしたらこの人、そういうことに気づかないタイプの人なのかな? と考えるようにすると、自分に対して「失礼じゃないか!」という感情を少し抑えることができます。

笹木 うんうん。

武田 公共交通機関や繁華街にはいろんな人がいます。その中で大切なのは、トラブルになりそうなことは早めに解消・離脱すること。逃げるが勝ち。華麗にすり抜ける。そして、「トラブルを売らない、買わない、拾わない」というのが大原則です。

笹木 へー! そうなんですね。拾わないっていうのはどういうことでしょう?

武田 例えば、ケンカを止めに行かないということです。

笹木 あ、止めに行っちゃだめなんですね?

武田 1対1の喧嘩の時って、1人で間に入ろうとしても喧嘩してるのが3人になってしまうだけなんです。必ず2、3人で行って、喧嘩している人の話をそれぞれに聞いて、クールダウンさせるのが大事です。すごく危ないのが、相手は凶器持ってる可能性もあるということ。あらゆる事態を想定しておくことです。もし、重大な事態の場合は、警備員や駅員に知らせる、警察や消防に通報するなど間接的な方法で助けることができます。自らの安全が確保されない状態で、トラブルに介入することにはリスクがあります。だらか「拾わない」ってすごく重要なんですよ。

笹木 なるほど。よくわかりました。

実践! 身を守る予防力と対処力

笹木 ビジネスパーソンが今日から使えるセルフディフェンス術があれば教えてください。

武田 まずは予防力です。電車やバス、新幹線など、公共交通機関は公共空間なのだという意識を持つことが大切です。そこは誰でも乗れる場所なのだという意識をベースに持って欲しいですね。

予防力というのは簡単に言うと、『よく見る、よく聞く』ということ。目と耳が最大に危険を察知する力があります。それが全部閉じてしまっていると、危険を察知できない。ですから、スマホを使うときには、音量低め、画面を見ていても意識は少し周りに向けておくということを心がけたいです。ゲームに集中し大音量では、危険を察知することはできません。音量を落とす、音楽を聞くなら目線、目は開けておく、といったちょっとの工夫が大切です。

笹木 私も新幹線に乗ることが多いので、意識したいです。

武田 予防力の次は対処力。何かあった時のために誰でも持ち歩けるおすすめの防犯グッズがあります。

笹木 どんなものですか?

武田 防犯ブザーです。これはSOSを出すものというよりは、逃げるための道具なんです。音を出して相手をひるませて、その間に逃げる。

笹木 相手をびっくりさせるっていうことですね。

武田 そうです。次に大切な対処力というのは、『伝える、逃げる』こと。ただ、特に男性は何かあっても「助けて!」となかなか言いにくい。

笹木 確かに。

武田 本当の危機の時には、助けを求めるのはすごく重要なんです。「助けて!」に抵抗がある場合は、声を出して周りの注目を浴びることがおすすめです。「何するんですか!」「痛い痛い痛い痛い!」などと声をあげるのがすごく有効です。掴まれたときにこれを言うと、向こうはやりすぎたかな、と一瞬力が抜けるので逃げやすいですよね。

笹木 そうなんですね!

武田 相手が刃物を持っている場合は、時間と距離が大切です。こちらが先に逃げる、助けを呼ぶなど素早く行動すること。そして距離を保ち続けるということが重要です。その次が防護と抵抗。乗り物のような密室のところで刃物を出された場合、盾となるものを使って、徹底的に防護と抵抗をするしかないんです。楯となるものがない場合は、バッグ、傘、ベルト、雑誌など身の回りにあるものを使って抵抗力を生み出し、相手との距離を保ちながら身を守る必要があります。

笹木 先日、新幹線で痛ましい事件がありましたが、武田さんがもしあの場に居合わせたらどのような行動をとりましたか?

武田 人を助ける行為は、今までご説明してきたものより、何十倍も難しいんです。守るべき対象者と自分の命を同時に守りながら対処しなければいけない。本来は、複数で対応する場面であり、相手よりも強力な武器や特殊な道具も必要です。極めて困難な状況だったと想像できます。勇気ある行動をとられた方へ敬意を表します。

笹木 そうですね……。

武田 ちなみに、新幹線によっては、座席ポケットに雑誌が入っていますよね。あれを巻くと固くなるんです。それを2本用意します。刃物よりも長ければ、かなりの抵抗力を生み出すことができる。普通に巻くんじゃなくて、開いて巻くと長さが出ます。ですが、それも冷静じゃないとできないことです。

笹木 なるほど……。大変難しい状況だったということですね。最後に、繁華街で絡まれた場合におすすめの対処法があるとお聞きしましたので、それの実演をお願いしたいのですが。

武田 はい、私は、ワークショップなどで「逃げる技」を教えていますが、その中のひとつが「スタンバイ・ザ・くるりんぱ」という技です。これは逃げられたことに気づかれないようにやるのがコツです。もし、肩に手を回されたら、1、2秒で相手の手からすり抜けます。「あ、靴紐ほどけてますよ」とか、「携帯落としてませんか?」などと注意をそらしながら、コントロールを解いてしまうのです。正面からケンカをしてもしょうがないので、スマートに危険をすり抜けてしまいましょう。ちょっとダンス的なステップです……。

笹木 あはははは。

スタンバイ・ザ・くるりんぱ


〜対談後記〜
今回武田さんにお話を伺って、ビジネスパーソンは安全でセルフディフェンス力なんていらないんじゃないか、という自分の考えが大きく変わりました。また、自分を含め、誰もが加害者にもなり得るのだという意識が自分を守る一歩であるのだと感じました。ぜひ皆さんにも日常の中で意識していただけたらと思います。武田さん、ありがとうございました!

Nobuhiko Takeda
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。1997年、大学在学中に世界中で活躍する犯罪防止NPOの活動に参加し、東京都内の繁華街を中心としたパトロールを行う。現場のリーダーとして多くの事案対応を経験したほか、各支部の設立、メンバー育成、防犯プログラムの企画に注力。2006年に「一般市民ができる防犯」を伝える“安全インストラクター”として独立すると、口コミでその評判が広がり、年間150件もの講演やワークショップを全国で行うように。NHK「おはよう日本」や朝日新聞にてその活動が取り上げられるほか、著書に「SELF DEFENCE『逃げるが勝ち』が身を守る」(講談社)、「もしもテロにあったら、自分で自分の命を守る民間防衛マニュアル」(ウェッジ)ほかがある。

Text=雨野千晴 Photograph=坂田貴広


笹木郁乃
笹木郁乃
宮城県出身。ikunoPR代表。「エアウィーヴ」、「バーミキュラ」2社の飛躍にPRで大きく貢献した後、2016年2月に独立。2年で、約600名の経営者・起業家に対して、PRについて直接指導。 日本唯一の「PR塾」主宰。1期〜11期(定員30名)まで毎回満席・キャンセル待ちの人気に。その他、メディアとのアカデミー設立、企業や政府支援団体のPRプロデュースなどに力を入れる。
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