【Bespo高岳史典】ライブドアを再生させた男が、今度は"ビスポ!"で飲食店を救う<前編>

2006年の「ライブドア事件」により、廃業寸前に追い込まれたライブドア。同社の再生を決意し、同社の黒字回復の一翼を担ったのが高岳史典氏だ。いまだから話せる「ライブドア事件」の舞台裏と、高岳氏が厳しい飲食業界を救うためにスタートさせた新しい飲食店予約サービス「ビスポ!」について話を聞いた。インタビュー前編では、ライブドア再生の経緯とともに、高岳さんの仕事哲学を取り上げる。


興銀、外資系企業を経て、ライブドアへ

京都大学を卒業し、日本興業銀行に就職しました。「エリートですね」と言われることもありますが、バブル時代だったので入行できたのです。都市銀行が数百人単位で新卒者を採用している時代でしたから。興銀には優秀な上司や同僚がたくさんいて、高杉良さんの『小説日本興業銀行』を地で行く感じがありました。“日本の生業を興す”という興銀の姿勢は、現在も僕の根幹に深く刻み込まれています。ただし、バブル経済は失速期に入っており、興銀の姿勢が少しずつ変わっているなとも感じました。

その変化に、もやっとした気持ちが少しずつ大きくなり、興銀は2年で辞めました。P&G、フィリップモリスなど、外資系企業でマーケティングの仕事に就き、その後、アリックス・パートナーズという会社に就職しました。そこは事業再生コンサルティングを手がける企業。入社後、大手航空会社の再生を担当しましたが、ある日突然、「ライブドアに行け」と命じられたのです。

当時のライブドアは、有価証券報告書に虚偽の内容を記載したとする事件、いわゆる「ライブドア事件」の直後。堀江貴文さんが逮捕され、彼は留置所の中。世間的にはライブドアが潰れるのは時間の問題だと思われていたし、実際、会社にはハゲタカファンドが群がっていました。彼らは事件で大幅に下落したライブドア株を買い占め、ライブドアを解体して資産を切り売りしようとしていたのです。アリックス・パートナーズはそうしたファンドに雇われて、資産査定を行いました。

僕の役割は、いわば“解体屋”。ライブドアに残された資産を査定し、事業を清算する役割です。でも、ライブドアを知れば知るほど、ライブドアを潰したくなくなった。世の中のためにも、残すべき会社だと思ったのです。

「出澤さんと作ってアリックスとしてプレゼンした"再生"を説得するためのシート。これでクビになり、これで復活し、後の再生の筋道ができました」

その理由は、大きく2つあります。1つめは、「人材」です。堀江さんが逮捕された後も、ライブドアの経営陣には主要メンバーがほとんど残っていました。いま振り返ると、そのメンバーがすごい。CEOは現在LINE代表の出澤剛さん、CTOはLINE上級執行役員の池邉智洋さん、メディア事業部長には現在ZOZOTOWN幹部の田端信太郎さん、ネットサービス事業部長には現在Diverse 執行役員の小久保知洋さん、ネットワーク事業部長には現在オルトプラス CTOの嶋田健作さん。これらの方々が、ライブドアに顔を揃えていたんです。

ライブドアを残すべき理由の2つめは「技術力」です。ライブドアは当時のIT業界で、トップクラスの技術力を有していた。特にライブドアブログは時代の先を行く完成度でしたね。もし、ライブドア事件がなく、事件前の状態で会社が続いていたとしたら、ネットとテレビの融合がもっと早い時期から進み、世界を引っ張るような新しいメディアが誕生していたかもしれません。

解体するはずが一転、再生へ

人材と技術力が揃ったライブドアを潰していいものだろうか? 僕は悩みましたし、 CEOの出澤さんをはじめ、他の経営陣も「ライブドアは絶対に再生できるはずだ」と信じていました。僕が出した結論は「解体」ではなく、「再生」でした。

そこで「再生すべき」と雇い主であるハゲタカファンドに提言。取締役会の部屋から本当に「出て行け」と言われ、僕はクビに。アリックス・パートナーズは契約解除となりました。しかし、アリックスを切ったハゲタカファンドの株を別のファンドが買取り、結果、アリックスは再びライブドアに戻りました。

その後、CEOの出澤さんに「ライブドアに入らないか」と誘われました。うれしい申し出でしたが、最初はお断りしたんです。ライブドアにいる方々は、事件前からライブドアで苦楽を共にしてきたメンバー。僕のような外部の人間が入ってしまっては申し訳ないと。外部のコンサルタントとして、ライブドアに関わっていく道を選びました。でも、出澤さんをはじめ、経営陣の方々へのリスペクトは高まるばかり。お断りしてから半年後、今度は僕のほうから「まだ社員にしてもらえますか?」と、出澤さんに願い出たのです。

ライブドアは見事に再生を果たしました。高い技術力を生かしてその後のLINEの急成長に貢献するなど、社会益に適う事業を展開。いまでも心から「ライブドアが解体されなくてよかった」と思っています。

「ライブドアが業績が回復してオフィス移転した時のもの。こんなに花がくるようになるとは、と感動しました」

人脈は自然に生まれるもの

ライブドアにはCMOという立場で5年間在籍しました。かつてのメンバーは、いまも大切な飲み友達です。堀江貴文さんともライブドアの再生事業を通して交流が深まり、いまでは大切な友達といえる存在です。僕が見た堀江貴文さんの人物像は「裏表がなく、頭がいい人」。インプットされた知識の量が半端でなく、その知識が入った引き出しを正確に開けることができる。だから、誰とでも会話が弾むし、アイドルの話題から政治・経済の話までこなすことができます。その一方で、あまりにも裏表がなく、正直過ぎる。嘘がつけないから、敵もつくっててしまう。もし、逮捕されることがなければ、いまはもっと「叩かれる人」になっていたかもしれません。

こうした人脈を羨ましく思われることもあるし、「人脈づくりの秘訣は?」などと聞かれることも多いです。でも、答えは「わかりません」。人脈は狙って作るものではないし、人脈づくりのためのパーティや名刺交換会なんて、まったく無価値です。常に正直に自然体で生きていれば、人はつながっていくもの。自分が「正しい」と下した判断を信じて、愚直に日々を進んでいくだけですよ。

後編に続く


Fuminori Takaoka
1968年生まれ。’91年、京都大学経済学部卒業。日本興業銀行にて金融商品開発に従事するが2年で退職し、P&Gでマーケティングの世界に入る。その後、コンサルティング会社を経て、2006年のいわゆる「ライブドア事件」後のライブドアへ。CMOとして営業・マーケティング全般を統括、売上は事件前を超え会社は再生へ。’13年、飲食業界で起業。ラムチョップを提供する「ウルトラチョップ」など5年間で5店舗を展開。2018年、飲食店の経営状況を改善させるため、LINEを用いた飲食店予約サービス「ビスポ!」をスタート。
https://bespo.tech/


Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生