演出振付家 MIKIKO 美しき所作の表現~滝川クリステル いま、一番気になる仕事~

PerfumeやBABYMETALをスターダムへと導く一翼を担い、リオ五輪での演出で実力を決定づけた、私と同い年の演出振付家、MIKIKOさん。思わず見惚(みと)れてしまう"日本人ならではの緻密な所作"の秘密に迫ります。

関係者席の目線でも人が引き込まれるものを

滝川 MIKIKOさんは女性だけのダンスカンパニーELEVENPLAY を主宰しながら、PerfumeやBABYMETALの全楽曲、そして一大ブームとなった「恋ダンス」など、数多くの振付・演出を手がけられています。昨年のリオ五輪の閉会式で行われた、2020年東京オリンピックのプレゼンテーション「トーキョーショー」では芸術パートを担当。8分間の演出で日本の強みや可能性を凝縮して表現してくれて、私もとても感動しました。

[トップス¥85,000、パンツ¥58,000(ともに3.1 フィリップ リム/3.1 フィリップリム ジャパン TEL:03-5411-2870)、ピアススタイリスト私物、シューズ本人私物]

無知ゆえの自由さみたいなものがあった

[滝川クリステル] 納得ゆくまで、ギリギリまで粘る。人としての底力が魅力的です。

MIKIKO(以下MI) 大雨で停電している地域も多かったので、どうなるかと思いながらでしたけど。出演者はリオ在住の方に手伝っていただいて大人数にする案もありました。でも一糸乱れぬ動きで日本人の几帳面さを表現するのも目的のひとつだったので、結果的に50人という少数精鋭になりました。

滝川 MIKIKOさんの振付ってパントマイムに近い印象もあります。とても独特だと思うんですが、1曲の振付ってどのくらいかかるものですか。

MI 1週間くらいずっと考えていることもあれば、振り写しの前日に曲をもらって5時間くらいで仕上げることもありますね。スタジオに来て、身体を動かし始めると結構早いです。

滝川 発想にはどういうルーツがあるのでしょうか?

MI 歌の場合は歌詞からイメージすることも多いです。私、正式にダンスを始めたのが遅くて、高校2年生からなんです。クラシックバレエ、モダンバレエ、ヒップホップとジャズダンスを同時に習い始めて、19歳の時にダンス講師になり、それから振付もするようになっていきました。師匠がいるわけでもなく、シンガーに振付するお手本もなかったので、無知ゆえの自由さみたいなものがあったのかもしれません。

滝川 Perfumeの3人は、教えていらしたアクターズスクール広島の第1期生なんですよね。

MI はい。彼女たちが小学5年生からの付き合いです。そのあと2006年から1年半ほどニューヨークに留学して、アメリカの真似をしているだけでは太刀打ちできないと痛感して。それなら自分のこの体型や性格に合った振りをつくってみよう、と思ってできたのがPerfumeの振付でした。留学先からビデオレターで指導を続け、帰国したらそれまでほぼ知られていなかったPerfumeがブレイクしていて、自分でも驚いたんです。

ライブの関係者席に座っている目線で考える

流行り廃りではない本質を追究する リオ五輪の閉会式は、日本人として誇らしい気持ちになりました。また、PerfumeとBABYMETALも、今や日本が世界に誇るアーティストに。「振付は数分間にギューッと凝縮する作業。演出のように全体を把握したうえでの振付は、引き算の連続でよさを最大限に引き出せる」。それこそが、演出・振付をする醍醐味なんだとか。

滝川 バレエの影響はありますか? 私も子供の頃にクラシックバレエをやっていたんです。途中でジャズダンスに転向したんですけど。歌の振りとなると、ダンサーの踊りとはまた違うかなと思うのですが。

MI 確かに「ダンサーの踊り」と「歌い手の踊り」の違いは、常に気をつけているところですね。私はどちらかというと、海外の真似のようなダンスに嫌悪感みたいなものがあるんです。地域に根ざした踊りを現地の人が踊っているのを見るのは好きなんですけど、それをマネすることには抵抗があるというか。

滝川 世界中どこの国、どんな僻地にも踊りはありますよね。その土地に伝わる伝統的な踊りに出合うと、人間って言葉がなくても踊りで伝えられる生き物なんだと実感してすごく感動します。でもそれだけの強さがあるからこそ、他所の土地の人が安易になぞると、履き違えたものになりやすいのかも。

MI あと、見ている側がテンションを上げないといけないようなものが苦手で。だからPerfumeの振りも、過剰に情熱的にならないように意識してます。でも実際に踊っている彼女たちの内面がとても熱いので、抑えても滲み出てくるものがある。そういう、興味のない人でも思わず引き込まれるようなものを目指して、ライブの関係者席に座っている目線で考えますね。

滝川 ちょっと引いた目ということですね。

MI そもそも日本の伝統的な踊りって、着物という動きにくい衣装で、腰を落として内股で、一見地味だけど指先まで計算された、かなり身体的なテクニックが必要なものですよね。でもその大変さを見せない。そういうところが好きなのも、私の振付が「日本っぽい」と言われる理由のひとつなのかも、と思うこともあります。

滝川 MIKIKOさん、古風って言われません?

MI 言われます(笑)。

滝川 こうして話していても、穏やかで落ち着いていて。時には教え子を厳しく指導することもあるんですか?

振付の対象がほぼ女性である理由とは?

(C)Amuse inc.

MI いえ、ずっとこの調子です。「大丈夫、できる!」って。

滝川 優しい先生なんですね。

MI ただ「この動きが気持ちいい」という感覚を共有できる、信頼関係を育むのに時間がかかるかもしれません。私のなかでは型があるんですが、フィット感という意味では慣れるまですっきりしない、踊りづらさを感じる部分もあると思います。

(C)Amuse inc.

滝川 そのあたりの感覚はどうやって共有するんですか?

MI 納得するまで説明します。気持ちに違和感があると動きにも出てしまうので。ビデオを見せて「ここは周りの照明が動いているから、みんなは動きを止めたほうが映えるんだよ」とか。そうすると「ほんまじゃ」ってわかってくれますね。信頼関係が躍りへのフィット感につながると思う。だから歴史の長いメンバーとの関係を大切にしたいし、ELEVENPLAYをつくって、育てるところからやっているっていうのもあります。

滝川 振付の対象がほぼ女性であることも、何か理由が?

MI 「女性が踊る」ということも自分のテーマにあります。この仕事をしていると「ダンスは性の表現だよね」みたいにも言われますし、本質的に避けて通れないものでもある。さじ加減の難しいところなんですね。

滝川 たしかにもともとは、異性を誘惑するものですよね。クジャクの踊りとかもそうだし。

MI でもだからこそ露出して腰をくねらせるとかではない、品のある色気みたいなものを表現したいんです。同性が見ても共感や好感が持てるような。見せられるよりも、見せないほうが興奮する感覚というか。

滝川 やっぱり古風だ。海外だと「なんで隠すの?」「せっかく女性に生まれたのだから、見せなきゃもったいない」という考え方じゃないですか。私はリオ閉会式のパフォーマンスで本当に感動したので、もっとMIKIKOさんのスタイルが拡がってほしいけど。でも今お話をうかがっていて、海外で単純にトレースできるものではないとよくわかりました。

仕事で手を抜くと罰が当たる気がする

MI 海外に呼んでもらうことも多いんですが、海外仕様にコンパクトにパッケージ化して持っていくしかないんですよね。できたらブロードウェイのように、海外から日本に、私たちのダンスを見に来てもらえたらいいなと思うんですけど。

滝川 規模を広げたいとはそんなに思っていない?

MI そうですね。今はテレビをつけると誰かが踊っている時代で、アイドルもたくさんいて。ただ、歌と向き合うことも、演者と向き合うこともなく、何でもかんでも振りをつけて踊ればいい、というような風潮になるのは怖いです。流行り廃りみたいになったら嫌だなと。

滝川 わかります。世間は飽きっぽいから。流されると表面的に消費されてしまいますよね。

MI それに仕事で手を抜くと罰が当たる気がするので、全力でやれる範囲でしか、自分はできないです。それは好きなことを仕事にできている、夢をかなえた人間の責任だと思うので。

滝川 お話をうかがって、すごく納得しました。最先端の技術や斬新なクリエイティブと、古風にも思える控えめな細やかな感性。それがミックスしているからこそ、世界でも独特なものとして映っているんですね。


MIKIKO1977 年東京都生まれ。2歳から広島で育つ。モダンバレエやストリートダンス等の経験を元に19歳でダンス指導を開始。教え子であるPerfume、BABYMETAL等多くのアーティストの振付、演出、ポージング指導を行う。ダンスカンパニーELEVENPLAY主宰。

Text=藤崎美穂 Photograph=滝川一真 Styling=長瀬哲朗(UA) Hair & Make-up=野田智子

*本記事の内容は17年8月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)

滝川クリステル
滝川クリステル
Christel Takigawa 1977年フランス生まれ。WWFジャパン 顧問。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問。一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル代表。現在、『教えてもらう前と後』(TBS系)でMCを務める。2018年、2度目となるフランス国家功労勲章「シュヴァリエ」を受章。インスタグラム:@christeltakigawa
気になる方はこちらをチェック