エンジェル投資家・島田 亨はどんな人に投資をするのか?(前編)

世に「投資家」と呼ばれる人がいる。なかでも一流の投資家は、資金は事業や組織に投じるのではない、いつだって人に投資するのだと心得ている。人を見る究極の「目利き」たる投資家に聞いた。はたして、どんな人に投資をしたくなるのか? を。

エンジェル投資はライフワーク

僕は「エンジェル投資家」として個人で活動を続けています。

スタートアップ企業に最も早い段階から投資するのがエンジェルですね。理想としては、エンジェルに次いでベンチャーキャピタルが、そしてパートナー投資家、最終的に銀行がつくという道筋をたどること。そうすれば、最もスムーズに資金が調達できていきます。

ひとくちにエンジェル投資家といっても、目的や思いによって活動のしかたはけっこう異なります。エンジェル投資はひとつの確立された投資のアプローチ法なので、純粋にフィナンシャルのリターンを求めて活動している人たちも多いです。投資家としてそういうスタンスは、もちろんあり得ます。

でも僕の場合、フィナンシャル・リターンは第一義じゃありません。エンジェル投資はライフワークとしてやっているものなので、単なるお金儲けを基準に事業を見ても、あまりワクワクしないのです。

僕の場合は、事業にスケールがなくたっていっこうに構いません。それよりも、社会の問題を少しでもよくしたい、解決したいといったソーシャル・アントレプレナーとしての意識を持った人と事業であるかどうかのほうが気になりますね。

また、グローバルな視点があるかどうかも着目します。日本発で日本の市場を想定した事業でいいのですが、それがゆくゆくは海外でも展開できると思わせるものであってほしい。そのあたりのことを満たしていることが、投資したくなるかどうかのポイントです。

投資したくなるのは、「変化を受け入れられる人」

では、「こういう人になら投資したくなる」という傾向は、あるかどうか。

たしかに、自分のなかにいくつか基準はあります。

順に挙げてみましょう。まずはCPUが人並み以上にあること。つまり、考える力を有しているかどうかということですね。何もずば抜けてIQが高いなんてことは求めません。「ああ、頭の回転がいい人だな」と、うっすら思えるくらいでいいかと思います。

次に、変化を嬉々として受け入れられること。これはかなり重要です。世には変化への対応を得意とする人がいます。壁にぶつかったときこそ力を発揮できる、そんな人です。一方で、どんなに優秀でも変化が苦手な人もいますね。あまり起業家に向かないタイプかと思います。変化対応力は、必ずチェックするポイントです。

もうひとつは、人として歪んでいない人。単なるお金儲けの基準でものごとを考えている人というのは、会話の端々でやはりわかってしまうものです。

たとえば女性とデートしていてずっと紳士的だった男性が、タクシーに乗ったら運転手に威張った態度で幻滅したという話ってあるでしょう? その人の本質はけっこう細かいところに透けて出るものです。起業家も同じで、その人が発したちょっとした言葉から、「この人が好きなのはお金だけなんだな」と気づいたりもします。

対面すれば、投資したい人かどうかはつかめるもの

いま述べたような基準が僕の中にはあるわけですが、じゃあそれらをどうやって見抜くのか。いえ、何も特別なことなんてしませんよ。オフィスで30分ほど対面して話せば、さしあたりのスクリーニングはできます。

チェック項目を設けておいて、会ったあとに採点するようなことをするわけじゃありません。自分の中で言語化すらあまりしません。自分がどういう印象を持ったか、反芻することくらいしかしませんね。また会いたいな、いっしょに何かしたいな、とぼんやり思えたらそれでいいんです。

そうすると次には、たいていご飯に誘います。ゴルフでもいいのですが、誰もがプレーをするわけではないので。2時間ほどテーブルをともにすれば、さらに相手の雰囲気はつかめますよね。

数値化できるものは何もなく、あくまでも印象ベースではありますが、それでも確度はかなり高いはずです。

ご自身の職場のメンバー10人を、優秀な順に並べてみることってできますか? それぞれ仕事内容も役割も違うけれど、やってみると案外順番をつけることってできるものじゃないですか。その結果を他のメンバーと比べてみても、けっこう一致したりしますよ。仕事相手に対して抱く印象や能力の判断というのは、誰しもかなり正確にできているものだと思いますね。

人を見る目には、自信あり

経営や事業に対する専門スキルは精査しないのか? そう問われたら、あまり気にしないというのが答えになります。僕の投資先はあまり前例のない事業を始める人だったり、初めて事業をする人だったりするので、やる前から技術やスキルを求めてもしかたがない。事業を回しながら習得していけばいいくらいに考えています。

これまでの実績では善し悪しを測れないので、なおさら投資先を決めるには「その人そのものを見る」ことになります。幸い、人を見る目にはたしかに自信があるんです。特別に鋭い視点があるといったことではなく、蓄積があるからこその自信です。

1989年に自分で最初に立ち上げた株式会社インテリジェンスが、人材業だったのは役立っています。仕事上、経営者と会う機会がたいへん多くて、そうすると特に意識せずとも「事業を成功させるのはどんな人か」との知見が溜まっていったのです。

つまずきに対処する会話で、変化対応力がわかる

判断材料はすでに自分の中にある。ですから投資先候補の方とお会いしているときに、人を見極めるための探るような質問などをしなくても済みます。

ですがひとつくらいは、会話から人を見る例を挙げてみましょうか。

食事をともにしているとき、話題はやはりその人が思い描いている事業のことになりますよね。その際、「こういうことが起こると事業がうまくいかなくなるよね」という話になったとします。つまずきにはどう対処しますか? という問いかけが、ここには含まれていますね。

自分なりに練り込んだパーフェクトな答えが返ってくるのなら、いいですね。自分のやりたいことについて、いろんな角度からよく考えている証拠です。

ただ、答えが用意されていなくたって、もちろん構わないんです。その話を受けて、ああたしかにと納得し、「どうしたらいいですかね」「こうしたらよくなるかもしれません」「どうしたらいいでしょうか」と、前向きに話が展開していくのであれば。そういう人は、変化に対応する柔軟性がありそうに思えます。

変化をいやがる人だと、おそらく違った対応となりますよ。その場の議論に勝とうとして、整合性や現実性のない仮定の話を積み上げてしまったりする。そういう話の流れになると、変化への対応力が少々不安だなという印象になってしまいます。

エモーショナルにストーリーを語ってほしい

こう述べてくると、もうひとつ疑問がよぎりそうですね。投資にあたって、肝心の事業の内容は、精査しないのかと。

事業計画の練度は、僕にはけっこうどうでもいいところがあります。社会にある何らかの課題を解決する道筋を示せれば、それはビジネスとして成立するのはたしか。ただ、そうした課題とソリューションがマッチした例は世の中にたくさんあり、同じところに気づく人も多いんです。マッチングを見つけただけでは、事業が成功する要素にはなりません。

成功する事業には、もうひとつ必要なものがあるんです。それは人の心を動かす要素があること。エモーションが、その商品やサービスに含まれているかどうかです。

エモーションが宿る製品やサービスはどう生まれるかといえば、これは提供する側にエモーションがあるかどうかにかかってきます。つくり手が事業に思い入れやストーリーを持っていれば、製品やサービスはワクワクしたものになって、受け取る側をエモーショナルに動かすことができる。

ライフワークとしてエンジェル投資をしている身としては、投資先にはぜひワクワクさせてほしい。ストーリーを聞いて楽しいなと思えれば、やはり投資したくなるものですよ。

そう考えると、起業ビジネスは総合アートだなと強く感じます。人とは違うオリジナルなストーリーを紡ぎ、それをさまざまな技能を駆使してかたちにして、受け取る人を楽しませてくれる。起業して事業を動かすことと、アート作品の創造は、ほとんど相似形なんですよね。

ぜひ楽しげに、仕事への夢を語ってほしい。それさえできれば、その人は僕にとって、紛れもなく「投資したい人」のひとりです。

後半に続く

Toru Shimada
USEN-NEXT HOLDINGS 取締役副社長COO 1965年生まれ。リクルートを経て、 宇野康秀、鎌田和彦らとインテリジェンスを創業う。楽天 代表取締役副社長、楽天野球団 代表取締役社長を歴任。2018年より現職。エンジェル投資家としても知られる。

Text=山内宏泰 Photograph=太田隆生