中田英寿 自分だけのホテルとの付き合い方を探せ

「そのホテルに泊まりたい」から旅をしたくなるホテルを求めて──。おそらく元プロサッカー選手の中田英寿氏ほど、ホテルを日常的に使いこなしている人はいないのではないか。彼にとっての至高のホテルとは何か

 2006年に現役を引退してから世界中を旅して回り、今までに訪れた国はゆうに100カ国を超え、その間に利用したホテルはざっと計算しただけでも1000カ所近くにのぼる。さらに'09年からは47都道府県をめぐる旅がスタートし、日本各地に宿泊することも増えた。つい最近もタイに3日行ってからロンドンに移動し、そこで2日滞在したあとジャカルタに飛び、帰国した翌日に今度は京都に出かけるなど、国内外を忙しく旅する日々は変わらず続いている。
 さらには、47都道府県をめぐる旅でも、毎日違う宿に宿泊するというこだわり。まさに誰よりもホテルの使い方を知り尽くしているといっても過言ではないだろう。

「まず僕にとってホテルというのは、複合施設です。いいレストランがあって、いいバーがあって、ジムやプール、スパも充実していて、そのうえで快適に寝るための部屋があるところ。若い頃はデザイン重視で選んでいたこともありましたが、年齢を重ねた今はやっぱりサービスを重視しますね。デザインのいいホテルは作ろうと思ったらいくらでも作れるけれど、サービスのいいホテルはそう簡単には作ることができません。結局、サービスの善し悪しというのは、人の数や質の問題に関わってくることなので、人数や手間が増えればその分教育が必要になる。そうなるとどうしたってコストも上がってくる。パリのフォーシーズンズホテルは夜中でもコンシェルジュが常駐しているのですが、そんな時間に利用するゲストなんてほとんどいません。コストだけを考えたらムダなことなのかもしれないけど、それでもちゃんと人を置いている。そういうのを見ると、素晴らしいホテルだなって思います」

ジャケット¥92,400、シャツ¥29,400、パンツ¥47,250(すべてゴールデングース/トゥモローランド 渋谷本店 TEL:03-5774-1711)

 では、中田氏にとっていいサービスとは、具体的にどういうものなのか。
「あくまでも僕の場合ですが、フロントなどに電話をかけたとき、どれくらいのタイミングでつながるかは気になりますね。何回も鳴ってようやくつながるよりも、すぐに対応されたほうが気持ちいいじゃないですか。あと、オープンしたばかりのホテルだと、タオルの状態も気になります。新しいタオルはなかなか水を吸いこまないんですよ。だから、あらかじめ何回も洗って吸水性をよくしたタオルが用意されていたりすると、よく気がきいてるな、と感じます」
 他にも、スタッフがエレベーターのドアが閉まるまでちゃんとお辞儀をして見送るとか、たとえ何かの作業中であってもゲストとすれ違う時には手を止めてきちんと挨拶をしてくれるとか。そういう些細なところにホテルのサービス哲学や教育方針が表れるという。

「要するに、どれだけ気を遣えるかだと思うんですよ。ホテルである以上、システム化されたサービスがあるわけですが、そのうえでゲストひとりひとりに合わせてどこまでパーソナライズできるかが重要になってくる。僕にとっては素晴らしいサービスでも、他のゲストにとっては過剰ととられるかもしれないので、その見極めは本当に難しい。けれど、それが無理なく自然にできるホテルがいいホテルなんだと思います」
 そこに行けば至高の体験ができる──。いいホテルには、胸躍る上質な空間があり、心を癒やす素晴らしいサービスがある。ゆえに、それを求めて多くの人が集まってくる。

シャツ¥63,000(トム フォード/トム フォード ジャパン TEL:03-5466-1123) パンツ¥28,140(アクネ ストゥディオズ/アクネ ストゥディオズ アオヤマ TEL:03-6418-9923) ネクタイ¥16,800(トム ブラウン ニューヨーク/トム ブラウン ニューヨーク 青山 TEL:03-5774-4668)

「いいホテルというのは、それ自体が旅のデスティネーションになります。“あそこに行ったらあのホテルに泊まろう”ではなく、“あのホテルに泊まりたいからあそこに行こう”という旅のスタイルです。だとすれば、“あのホテルに泊まりたいから日本に行こう”となってもいいはずなのに、残念ながら日本にはまだそこまでのホテルはあまりない気がします。日本のホスピタリティは世界的に見ても優れているし、ポテンシャルも高いので、早くそういう状況になるといいですね」
 豊富な実体験と鋭い観察眼に基づいて語られる話は、単なるエピソードに留まらず、みごとなホテル批評となっていて、なるほどと頷くことしきりだ。もし彼がホテルを手がけたら、すごく面白いものができあがると思うのだが、どうだろう。
「チャンスがあればホテルはやってみたいですね。さすがに自分でオーナーになって運営するのは無理だから、アドバイザーとかコンサルタントみたいな形で入って、『こういうのがいいんじゃない?』という提案はしてみたいです。コンサルタントというと、大体は運営者の視点から入っていくケースが多いけれど、そうじゃなくて、ホテルを利用するゲストの立場から入っていったらまた違った視点が生まれて面白いんじゃないかな」
 まさしく適任。中田氏のこれまでの経験と知識とセンスが存分に詰めこまれたホテル。いつかできるようなことがあれば、ぜひ泊まってみたい。

セーター¥29,400(ユナイテッドアローズ/ユナイテッドアローズ 原宿本店 メンズ館 TEL:03-3479-8180) パンツ¥28,140(アクネ ストゥディオズ/アクネ ストゥディオズ アオヤマ TEL:03-6418-9923)

Hide's Check Point 1
真夜中にもスタッフの数が揃っているなど、細部にまで人材配置に気が遣われている

Hide's Check Point 2
新しくても何回も洗ったように吸い込みのいいタオルが用意されている

Hide's Check Point 3
すれ違うたびに、すべてのスタッフが気持ちよく挨拶してくれる


Photograph=操上和美 Text=澤田真幸

*本記事の内容は13年11月1日取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい