「それ、会社病ですよ。」スマート・レギュレーションの規律ある寡占化なしでは過度な競争で企業はブラック化する Vol.23


安倍首相が日本経団連などに賃上げを要請した、と報じられました。賃金アップで消費を上向かせ、デフレ脱却を図りたいシナリオのようです。
 円安で業績好調な企業には、応じるところも出てくると思います。日本の経営者は、空気に弱い存在。また、グローバルに展開する大企業では、もはや日本人の従業員比率が30%以下というところが少なくない。リストラと団塊世代の大量退職もあってかなりスリムになっています。賃上げは、それほどハードルは高くないでしょう。
 しかし、残念ながら大企業の雇用は、全労働者のせいぜい3割程度に過ぎません。すべての消費者の財布のヒモがゆるむ、などということはなく、全国津々浦々まで景気の好循環を作るのは難しい。
 むしろ、中小企業では、生産性が落ちているという事実があります。円安によって輸入原価やエネルギーコストが上がったこともあり、賃金が上がるような状況にはまるでない。それどころか、心配しなければいけないのは、放っておくとブラック企業化しかねない、ということです。コスト競争力を人件費でコントロールしようとする企業が出てくるからです。
 グローバル企業を別とすれば、国内での競争は限られた縮小するパイの奪い合い。そこで参入規制の緩和政策だけを推し進めて、過当競争が繰り広げられれば、人件費を削るしかなくなる。

一方で国内産業の多くを占めるサービス産業は、実は不完全競争な業態です。例えば北海道の路線バス会社と、大阪の路線バス会社は競争関係にありません。もっというと、駅を挟んだふたつのスーパーや通りを挟んだコンビニも棲み分けができてしまう。業種によってはとても狭い地域で閉じているのです。こうした雇用吸収力のある労働集約的な産業で賃金を上げていくには、生産性の高い企業へ事業を集約し、ある種の寡占的な産業構造を容認するしかないのです。
 寡占のデメリットは、腐敗が起こることです。それを防止する規律とガバナンスを作りながら、再編・統合を促していく。また、労働生産性を高め、賃金を上げられないブラックなマネジメントには退場してもらうような賢い規制、「スマート・レギュレーション」を作っていく。
 賃金が上がったら、雇用が奪われる、という議論があります。しかし、この手の国内型サービス産業においては、海外の企業に代替能力はない。つまり、雇用は減らない、ということです。賃金コストが高くなっても、その場で提供せざるを得ない社会的なニーズがなくなるわけではないのですから。
 実は、政治が目を向けなければならないのは、自分たちの声を代弁してくれる存在がない70%の労働者、サービス産業や中小企業で働く労働者たちです。彼らが立ち上がるのは、選挙という投票行動においてのみ。だから、選挙結果は大きく揺れる。彼ら70%の置かれている状況を想像し、スマート・レギュレーションを軸とした必要な手を打っていく。今、最も求められていることだと思います。


Text=上阪 徹 Illustration=村田篤司
*本記事の内容は14年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
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