音楽プロデューサー亀田誠治が考えるGood Musicとは?【連載】

新型コロナウイルスの蔓延で休止しているエンタテインメント。やがて再開するときに、どんな音楽が求められるのか。多くの人が楽しめるGood Musicとは――。 日本のあらゆるミュージシャンのサウンドプロデュースをしてきた、音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治に聞いた。

出演者も観客もボーダーレスの日比谷音楽祭

音楽プロデューサーの亀田誠治があげる「いい音楽」のキーワードの一つはボーダーレスだという。

亀田はこれまでに椎名林檎、星野 源、いきものがかり、Kinki Kids、back number、浜崎あゆみ、平井 堅、エレファントカシマシ、藤井フミヤ、GLAY、JUJU、スピッツ、MISIA、スガシカオ、スキマスイッチ、秦 基博、木村カエラ、山下智久、絢香、アンジェラ・アキ、 大原櫻子、山本 彩、 石川さゆり、由紀さおり……など、日本のあらゆるミュージシャンのサウンドプロデュースに携わってきた。

「50代を迎えてから、毎年夏、僕は自分が生まれたニューヨークを訪れています。そのときに楽しみにしているのが、6月から8月の週末にマンハッタンのセントラル・パークをはじめ街中で開催されるサマー・ステージです。ジャンルや世代を超えた音楽家たちの歌や演奏を無料で楽しめます。エルヴィス・コステロやマライア・キャリーが歌ったり、ニューヨーク・フィルハーモニックが演奏したり。ロックもジャズもクラシックも、ありとあらゆる音楽がくり広げられます。若いカップルも、手をつないだお年寄りの夫婦も、家族連れも、世代や国籍や肌の色も超えて誰もが楽しめるコンサートです」

亀田自身いくつものステージに感銘を受けた。

「R&Bやソウルを歌う女性シンガー、メイヴィス・ステイプルズが同世代のレジェンド、アレサ・フランクリンに捧げた歌は老若男女の心を震わせました。それから、公園内にはデラコルテシアターという屋外の円形劇場もあり、そこで観たウィリアム・シェイクスピア作の歌劇『ジュリアス・シーザー』も忘れられません。シーザー役がどう見てもドナルド・トランプ大統領のパロディなんですよ。セットは古代ローマではなく、ホワイトハウス。そして“トランプ風シーザー”がブルータスに殺される。客席は大歓声です。セントラル・パークから目と鼻の先にはトランプ・タワーがあります。それでもこんな風刺劇を堂々とやってしまうことに、アメリカの懐の深さを感じました」

出演者もボーダーレス、観客もボーダーレス。そんなイベントに魅力を感じた。

「音楽が日々の暮らしのなかに根付いていて、人々の心の支えになっている。これこそ、カルチャーやエンタテインメントのあるべき姿だと感じました。日本にも、フジロックやサマーソニックなど多くの巨大フェスがあります。世界のトップレベルのアーティストが出演する素晴らしいフェス文化です。さらに、都心部でも、できることならば無料で、家族や友達や近所の人たちと楽しめるイベントがあればいいのに。僕はそう考えるようになりました」

2019年5月、亀田は東京・千代田区の日比谷公園で、無料で楽しめる日比谷音楽祭を開催した。

2019年に開催された日比谷音楽祭。

「日比谷公園側からオファーをいただいたとき、サマー・ステージの風景が浮かびました。東京駅からも銀座からも近い日比谷公園は“東京のセントラル・パーク”。近くにある日比谷の劇場街はまるでブロードウェイです」

亀田のこの発想は多くのミュージシャンの賛同を得た。布袋寅泰、石川さゆり、JUJU、タケカワユキヒデ・ミッキー吉野(ゴダイゴ)などが駆け付けた。自分たちの活動と重なりスケジュールの調整ができなかったDREAMS COME TRUEは協賛として参加した。2020年はコロナの蔓延により中止を余儀なくされたが、ボーダーレスの音楽のプラットホームになった。

「日比谷公園にある日比谷野外音楽堂は、武道館と並ぶ、日本の音楽の殿堂だと、僕は思っています」

矢沢永吉が在籍したキャロルやカルメン・マキ&OZの解散コンサート、忌野清志郎がいたRCサクセションのホームのように行っていた定期的なコンサート、キャンディーズが解散宣言をしたコンサートなど、野音ではこれまでにいくつもの伝説が生まれてきた。

「僕自身、さまざまなライヴで野音のステージに立ってきました。すり鉢状の武道館はよく、歓声が天井から降ってくると表現されますよね。一方野音は、ステージの音が東京中に飛んでいくように感じる。あの感じが大好きです」

野外だからこその魅力もある。

「曲間に虫の声だったり、鳥が鳴いたり。自然の音が音楽に、その日そのときだけの演出をしてくれます。かすかに響くクルマのクラクションですら情緒がある。とくに夕暮れ時は最高。20分、30分をかけて陽が暮れていく。東京の空の色が変わっていくなかでの音楽は、野音だからこそです。昨年、日暮れの時間帯は山本 彩さんのステージでした。いい雰囲気でした。その後、夜の帳が降りたところで、石川さゆりさんと布袋寅泰さんが登場しました。夜の野音もまたとても美しかった。盛り上がりました」

演歌の石川さゆりとロックの布袋寅泰の共演をイメージできないリスナーは多かったはず。しかし、息の合った迫力のある「天城越え」を披露した。亀田のいうボーダーレスの音楽の一つの象徴だった。ファイナルは、ゴダイゴの「ビューティフル・ネーム」を出演者と客席で大合唱した。

「ゴダイゴの皆さんは僕にとっては大先輩です。事前にミッキー吉野さんとタケカワユキヒデさんと打ち合わせをして、日比谷音楽祭の趣旨を率直に伝えて、『ビューティフル・ネーム』や『銀河鉄道999』をやってほしいとお願いしました。『ビューティフル・ネーム』は1979年の国際児童年の協賛曲で、NHKの『みんなのうた』でも放送されています。子どもから大人まで世代を超えて愛された曲です。英語詞が混ざりますが、わかりやすい単語をタケカワユキヒデさんがきれいな発音で歌う。客席にきちんとメッセージが伝わります」

今後もボーダーレスの音楽を提供していきたい、という。

「たとえば、 日本のフォークやロックの黎明期を切り開いた先輩達の素晴らしい音楽を、当時リアルタイムで体験した世代、それをなんとなく生活の中で聞いていた世代、そしてこの日比谷音楽祭で初めて聞くというような世代に、垣根なく届けたいです。 残念ながら今年は叶いませんでしたが、南こうせつさんや谷村新司さんの出演は、本物のアーティストが歌う名曲は世代を超えて、愛されていくということを証明するためでした。ローリング・ストーンズは今も『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』を、イーグルスは今も『ホテル・カリフォルニア』を歌いますよね。ストーンズやイーグルスに通じるものをこうせつさんや谷村さんに感じます。年齢を重ね、キャリアを重ねることでカッコよさを増す。そういう姿を見てみたいですね」

男性ボーカル編に続く

日比谷音楽祭 ON RADIO
「日比谷音楽祭2020」は新型コロナウイルスの影響で中止になったが、本来開催日だった5月30日(土)17時40分~21時10分に、ニッポン放送で『日比谷音楽祭 ON RADIO』がオンエアされる。出演は、亀田のほか、菅田将暉、武部聡志、中村正人(DREAMS COME TRUE)、新妻聖子、一青窈、そして日比谷音楽祭を支えるクラウドファンディングを運営するREADYFOR代表の米良はるかなど。

 「スタジオとリモートとで、音楽の現在、未来についてトークをくり広げ、もちろん音楽もお届けします。武部さんのピアノと僕のベースで録音した音源に、 新妻さん、一青さんらが  自宅でセッションしてくださる予定です。リスナーの皆さんのメッセージもいただきながら、音楽の役割、なぜ僕たちに音楽が必要なのかを提案していく番組になります」(亀田)

Seiji Kameda
1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに数多くのミュージシャンのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、ベーシストとして参加('12年に解散、’20年に再生を発表)。 '09年、自身初の主催イベント“亀の恩返し”を日本武道館にて開催。 ’07年の第49回、’15年の第57回日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが人気を集めた。’19年5月、自身が実行委員長を務めるフリーイベント「日比谷音楽祭」が開催され、2日間で10万人を動員。


Text=神舘和典 Photograph=大森 直