【中田英寿に・ほ・ん・も・の外伝】茶師十段がいる日本茶専門店「しもきた茶苑 大山」へ<東京④>

2009年から’15年の約6年半、のべ500日以上をかけて、47都道府県、2000近くの場所を訪れた中田英寿。世界に誇る日本の伝統・文化・農業・ものづくりに触れ、さまざまなものを学んだ中田が、再び旅に出た。

茶師の世界の最高位がつくる煎茶の味

全国各地の茶葉を判定し、合組(ブレンド)などして、煎茶をつくる茶師の世界で最高位となる十段は、日本に十数人しかいない。これまで静岡や福岡の八女など、茶の名産地で“茶師十段”に出会ったが、まさか東京の下北沢に十段がいるとは思いもよらなかった。

下北沢の駅からほど近くの路地裏にある「しもきた茶苑 大山」。昭和45年から続くこの店の茶師・大山拓朗さんは、平成15年に十段を取得した。

「家が日本茶の専門店でしたが、子どものころはあまりお茶が好きではありませんでした。 ぞんざいに扱われたお茶は子どもの口にやさしくはなかった。茶葉の個性や特長を知ってそれを伸ばし、また子ども目線に合わせた適切な淹れ方が伴えば飲みやすいお茶をつくることができる。どんな人が、どんなときに、どんな気持ちで飲むのか。そういうことを考えながら茶をつくっていくのがとても楽しいです」

決して大きな店ではない。でもそこに並ぶのはこだわりの茶ばかり。

「いつも買いに来てくださる常連のお客様も多いので、味が変わったと言われるのが一番ショック。でも茶葉の品質は毎年変わりますから、それを見極めながら同じ味を安定してつくり続けることを意識しています」

中田英寿の前に茶碗が並び、さまざまな茶の香りや風味を確かめる。これは「拝見に掛ける」あるいは「内質審査」と呼ばれる鑑定法だ。審査茶碗に計量した茶葉を入れ、熱湯を用いることで茶葉の形態・滋味・水色・香気と全ての個性を暴き観る。

「渋みや苦味、甘み、旨味のバランスでそれぞれの違いは分かるんですが、どれがどこのものかまではわからないですね」(中田)

現在、茶の勉強中の中田だが、やはり茶の世界は奥深い。なにしろ同じ茶葉でも淹れる湯の温度が5度変わると、香りや味わいが変わる。

「熱いお湯で淹れた茶は、苦味と渋みが強いです。でもそのぶん香りはいいですね」(中田)

「お茶は熱湯で淹れてはいけないと言われますが、品質の備わった茶葉なら熱湯でもお不味くはならない。たとえば、これから仕事を頑張ろうというときなら熱いお茶のほうがいいし、逆にリラックスしたいときはぬるめのお湯でいれればいい。私が考えるいいお茶の条件は、飲み飽きしないこと。飲んだ瞬間はあまり個性を感じないかもしれないけど、飲み疲れることもないし、冷めてきてもおいしく飲めるのがいいお茶だと思っています」

かつては自ら茶畑を管理し、茶葉を育てたこともあるという大山さん。そんな茶生産現場の経験も茶師の仕事に生きている。

「茶師ができるのは、茶葉の可能性を引き出すことです。でもたとえば、いちばん有名なやぶきたという品種でもまだ十分な可能性を引き出せていないような気がします。もっとおいしくやぶきたを楽しむことができるはず。そういうことを考えながら、全国各地の茶葉を日々チェックしています」

下北沢に茶園はない。でもそこには全国の産地からよりすぐりの茶が集まる。その茶葉を十段が見極め合組したとき、「どんな人にとってもおいしい」お茶が生まれるのだ。

かつてこの地に広がった茶畑。時を経て、現代に受け継がれるその志は、「目黒のサンマ」ならぬ「下北沢のお茶」を目指す。


「に・ほ・ん・も・の」とは
2009年に沖縄をスタートし、2016年に北海道でゴールするまで6年半、延べ500日以上、走行距離は20万km近くに及んだ日本文化再発見プロジェクト。"にほん”の”ほんもの"を多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促すことを目的とする。中田英寿が出会った日本の文化・伝統・農業・ものづくりはウェブサイトに記録。現在は英語化され、世界にも発信されている。2018年には書籍化。この本も英語、中国語、タイ語などに翻訳される予定だ。
https://nihonmono.jp/

Composition=川上康介 Photograph=淺田 創

中田英寿
中田英寿
1977年生まれ。日本、ヨーロッパでサッカー選手として活躍。W杯は3大会続出場。2006年に現役引退後は、国内外の旅を続ける。2016年、日本文化のPRを手がける「JAPAN CRAFT SAKE CAMPANY」を設立。
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