【松浦勝人】「人類が始まって以来続いてきたカルチャーが、今コロナによって消えてしまう」

コロナ感染拡大と3密崩壊がもたらすもの

時間に余裕が出てきた。今はスタジオに入ることが僕の生活の中心で、楽曲作りをどんどん進めている。でも、曲作りの作業自体は作曲家チームが行うので、僕の仕事は指針となる方向を決めて、できあがった楽曲に対して意見を言うこと。みなプロフェッショナルなので、聞いてひと言意見するだけで、すぐに理解してくれる。彼らはたいへんだと思うけど、僕の作業なんかたいしたことない。

会社にもほとんど行っていない。必要な会議、打ち合わせはリモートでできるようになっている。雨ばかり降っているので、釣りにも行けない。会食や近所への外出も控えたほうがいいわけだから、ずっと家にいる。

いい機会だから勉強でもしてみようとか、今後のビジネスの戦略を考えようとか思っても、この専門家ですら確かなことが言えない新型コロナの状況では、何を考えればいいのかすらわからない。「隠居」という言葉があるけど、こういうことなんだろうなと実感している。

飲食業や旅行業も大きな被害を受けているけど、僕たちエンタテインメント業界も総崩れ状態。従来のライヴやイベントの売り上げはほぼゼロ。エイベックスも、この状態が1、2年続いたらどうなるかわからない。

それ以上に、エンタテインメントが消滅してしまうのではないかという危機感すら抱いている。コンサートを開催するには、たくさんのフリーランススタッフの協力が必要になる。エンジニア、照明、舞台美術、さまざまな人の技術が必要になる。そういう人たちの仕事は今まったくない。他の仕事をせざるを得ない。じゃあ、新型コロナが収束をした時、彼らは戻ってきてくれるだろうか。誰にでもできる仕事ではない。高い技術とノウハウが必要な仕事。アルバイトを募集して頭数を揃えればいいというものではない。ライヴの技術が途切れてしまうのではないかと心配している。

今、無観客コンサートを有料配信するという試みが行われている。投げ銭やデジタルグッズの販売と組み合わせることで、主催者は利益を出すことも不可能ではない。でも、協力してくれるフリーのスタッフたちは1回のライヴでは生活していけない。全国ツアーに同行することで生活が成り立っていた。

ライヴやクラブというのは、3密だから人が集まってくる。密閉、密集、密接することの面白さが人を惹きつけていた。それがダメだと言われてしまうと、エンタテインメントが成立しない。声出しNG、マスク着用、フロアにテープを貼って、離れて踊ってくださいとなったら、それはもうクラブじゃなくて、ラジオ体操になってしまう。

クラシック音楽の時代だって、人々は舞踏会だとか社交界だとか、3密になることを楽しんでいた。このまま3密がダメとなると、何百年後かに「21世紀前半ぐらいまでは、人が集まって音楽を聴いていたそうだ」と言われるようになってしまうかもしれない。人類が始まって以来、続いてきたひとつのカルチャーが消えてしまう。そういう危機感を持っている。

エンタメというのは、生きていくうえで必須のものではない。だから、コロナ禍の今はいらないという考え方も理解できる。でも、いつか収束をして、日常が取り戻せるようになった時、エンタメは必ず必要とされる。

映画やドラマだって、そのなかではいろいろな事件が起きていて、それを僕たちは楽しんでいる。エンタメに非日常を求め、仕事をしている時の「もうやってらんねえ」というストレスとのバランスを保っている。だからエンタメは、常に危うくて、3密で、非日常じゃなければならない。そこに3密回避という日常を持ちこんでしまうのだったら、エンタメの存在する意味がなくなってしまう。

仮想空間を使って、ライヴ配信やVRクラブを提供することはできる。でも、あの熱気とか匂いとか、振動といった独特のものを精密に再現できるようになるにはまだまだ時間がかかる。再現できても、結局は、どこまでいってもホンモノではないということがついてまわる。

仮想空間で起こるのは、リアルの再現ではなくて、まったく新しいものなのだと思う。例えば、ゲーム空間の中で、誰かがパフォーマンスをやったら世界の何千万人が同時に見るというようなことは起きてくる。そこから「ライヴの再現」ではない、まったく新しいエンタメのあり方が生まれてくると思う。

従来のエンタメが総崩れになって、誰からも必要とされなくなる時期がしばらくは続く。それが、ワクチンなんかが登場して、再びエンタメが必要ということになった時、この業界はガラリと変わって、まったく違った構造になっている可能性がある。いっそのこと、しがらみを引きずっているところが消えて更地になり、新しいエンタメ業界が建て直されるほうがいいかもしれない。エイベックスだって、いったんなくして、もう一度新しいエイベックスをつくるという事態になっても、莫大な資本が必要になるわけじゃない。大切なのは人。人さえ集まれば、もう一度つくることができる。その時、エイベックスがどのようなポジションに陣取ることができるのか。そこは楽しみ。

僕はもうエイベックスのCEOではなくなった。収束後の陣取りをどうするか、僕なんかが考えるよりも、黒岩社長以下、今のエイベックス経営陣のほうがはるかにうまく対応できると思う。だから、人ごととまでは言わないけど、少し離れた場所から眺めて楽しみにしている。

この状況で僕ができることは、エンタメのど真ん中にある音楽を作ること。せっかくCEOではなくなったのだから、僕もエンタメを普通に楽しみたい。制作がどこで、主題歌が誰だからと業界人的な分析をするのではなく、ひとりの消費者として音楽を聴いて「いいな」と思い、ゲームをして「楽しいな」と感じたい。中学生や高校生の頃、音楽に純粋に憧れたあの時の気持ちに戻りたい。そんな気持ちで、楽曲作りに向き合っている。

Text=牧野武文 Photograph=有高唯之

松浦勝人
松浦勝人
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸しレコード店の店長としてビジネスを始め、以降、輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメに関わるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。
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