【楢﨑正剛】GKの仕事とは何か⁉ を改めて語る

2018年シーズンを持って現役を引退した楢﨑正剛。引退後は名古屋グランパスのスペシャルフェローという任について、幅広い活動を行っている彼に単独インタビューを行った。【第2回】


GKが与える影響力とは?

「ありがたいことに、さまざまなチャンスを作っていただいて、いろいろなことをやらせてもらっています。なにをやっているのか、ひと言で説明するのは難しいんですけど(笑)。ただ、毎日練習に行かない。サッカーをしない。走らない。飛ばないという毎日は新鮮ですね」

サッカーを始めた子どものころから、30年あまり重ねてきた時間が大きく変化しているようだ。

「アンバサダー的な仕事もしているし、僕の希望でもあるGKの育成という活動もさせてもらっています。名古屋のアカデミー(ユースやジュニアユース、ジュニアなど)にも顔を出させてもらったり。基本的な指導は監督やコーチがいるのですが、たまに教えることもあります。でも、そういう育成の現場に立つことで、僕自身が学ぶこともたくさんあります。育成とトップチームでは指導も全く違うから。育成世代の指導では、教育的な部分がすごくあるし、親御さんとの関係性も重要です。そう思うと僕は育成年代の指導には向いてないのかなぁと感じることも(笑)。ただ、まだサッカーを始めたばかりの子どもたちにキーパーについて語ったり、キーパーを始めたばかりの子どもに何か伝えるというのは、とてもやりがいを感じますね」

日本ではストライカーやゲームメイカーなど、攻撃的なポジションへの人気が高いサッカー。身体能力や技術の高い子どもたちが起用されるのも攻撃的なポジションであることが多い。しかし、欧州ではGKの人気は高く、サッカーの花形ポジションという印象もある。近代サッカーにおいて、GKもフィールドプレーヤー同様に足元の技術を求められ、身体能力はもちろん、戦術眼などの高さも必要だ。

「ヨーロッパの人に話を聞くと、代表に歴代素晴らしいGKがいて、そういうモデルがあるから、自然と子どもたちにも人気があって、裾野を広げようとしなくても、勝手に広がっているようです。ありがたいことに僕に対しても『憧れていました』と言ってくれる人はいてくれますが、でも、影響力的にはまだまだ足りないなと。今も代表のGKに活躍してほしいし、スポットライトを当ててほしいと思います」

試合を伝える日本メディアが注目するのは、得点者であることが多いのも事実だ。ニュース映像などで短く伝えられる試合映像の中心もゴールシーン。GKにとっては失点シーンしか報道されないことになる。

「まだまだ日本ではキーパーがどういうポジションで、仕事をしているのかを理解されていないなと感じることはあります。キーパーの仕事もサッカーというゲームの一部なんです。キーパーだけが切り離されているわけじゃない。ゲームでキーパーがどう輝くか、どういう仕事が必要かということを伝える人は少ないように感じています。僕自身もそれを子どもの頃に教わった記憶はないですし。シュートを受けることに特化したキーパー練習も重要ですが、ゲーム形式の練習をしながら、キーパーを養成することも大事です。ただ、ゲーム形式だとキーパーのポジションはひとつなので、それだけというわけにはいかない難しさもあります」

GKの仕事とは何か?

GKとは、もちろん最後尾に立ち、自陣であるゴールマウスを守るのが仕事だ。しかし、シュートを止めるだけがキーパーの仕事ではない。たとえ、ボールに関与せずともその仕事は90分間続いている。そのひとつが、チームメイトを動かす声、コーチングだろう。攻守の切り替えが速い現代サッカーにおいて、キーパーの声が守備の精度を高めることもある。

シュートを打たれたとき、手足を投げ出し、ギリギリのところでシュートを防ぐ。そういう「ビッグセーブ」は見た目も派手で、観客を沸かせる。しかし、それを良しとしないGKもいる。もっとも重要なのは、失点を防ぐこと。GKたちはそのために正しい判断でポジショニングを選択し、プレーする。そのためにセービングに至るまでの準備がある。

「ビッグセーブといっても、いろいろなケースがあります。いい準備をし、正しい判断やポジショニングを選択できたとしても、いわゆるビッグセーブでなければ、止められないシュートもあります。もちろん、正しい準備ができず、ポジションが悪くて、ビッグセーブで止めたということもあります。ただ、そういう場合は、次に同じようなシーンがあったらやられてしまう可能性は残ります。あと数センチずれていたら、ゴールになってしまうかもしれなかったわけなので。それでも、失点を防げれば、チームを助けられたという満足感はあります。『よしやったぜ』という気持ちにもなる。僕が大事にしていたのは、その場面で正しい準備ができていたかということですね。そういう意味で、自分の思ういいセーブと、他人の良いセーブにギャップを感じることもありました。準備するための予測は大事だけど、読みや勘はダメなんです。この違いだけをとっても、実際にGKをやっていないとわからないかもしれませんね(笑)」

また、現役時代の楢﨑がよく口にしていたのが、GKが与える影響力についてだ。

たとえば、1本のセーブで試合の流れを引き寄せ、チームメイトの気持ちに火がつくこともある。当然、1本のゴールキックのミスが緊張感をぶち壊すことになるかもしれない。ボールに関与する機会が少ないからこそ、ひとつひとつが意味を持つことになる。そして、プレーに留まらず、その振る舞い、醸し出すオーラにまで気を配った。それが楢﨑の武器となる。経験値がもたらした力だ。

メディアでの活動の重要性も理解しているが、軽々しくはできないという想いもある。

「今は映像も残るし、さまざまな視点でGKのプレーを分析することもできます。そういうなかで何が正しくて、何がダメでゴールになったのか、正しいプレーとはどういうことかを伝えることは大事だとは思います。でも、僕自身はプレーの難しさも十分わかっている。やられたり、失敗したりすることの気持ちもすごいわかるので、偉そうなことは言えないですよね(笑)」

どんな立場での仕事になるのかは、まだわからない。けれど、GKの文化を伝えていくことは、楢﨑にとってのライフワークになるのだろう。

3回目に続く。

SEIGO NARAZAKI
1976年奈良県生まれ。1995年に横浜フリューゲルスに入団。1999年に名古屋グランパスに移籍。J1リーグ歴代最多631試合出場。国際Aマッチ77試合出場。2018年シーズンをもって現役を引退。2019年、名古屋グランパスのクラブスペシャルフェローに就任。  


Text=寺野典子  

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