佐野元春 ロックンロールは世代をつなぐ虹 ~野村雅夫のラジオな日々 vol.15

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、野村さんがリスペクトしてやまない佐野元春さん。


佐野元春は今がいい

この連載で既に3度目となるが、もう一度佐野元春さんについて書こうと思う。自分の過去の作品に新しい言葉と編曲を加え、今にアップデートさせたアルバム『自由の岸辺』について話をうかがったのがvol.8。

その締めくくりでも予告したように、佐野さんは目下、演奏の旅の真っ最中。題して、佐野元春&THE COYOTE BAND全国ツアー「禅BEAT2018」。全国8大都市全9公演。僕はそのツアーの真ん中、10月20日(土)に大阪Zeppなんばでの公演を鑑賞したので、余韻の冷めやらない状態でその様子を伝えたい。

THE COYOTE BANDとは、佐野元春がその40年近いキャリアで率いる3つ目のバンドだ。THE HEARTLAND、The Hobo King Band、そしてTHE COYOTE BAND。メンバーたちは、佐野さんよりも一回り、あるいはそれ以上に若い。そして、皆それぞれにソングライティングできる才覚に恵まれている。佐野さんの音楽を聴き、佐野さんの背中を追いかけてきた彼らが、ステージで佐野さんと音を重ねている。

スタジオ・アルバムは昨年の『MANIJU』で4枚目。人によって当然好みはあるだろうが、僕はTHE COYOTE BANDとのレコーディングが、佐野さんのディスコグラフィーにおいて、重要な位置を占めると感じている。80年代、90年代と、ヒットと評価を積み上げてきた、その歴史を踏まえても、佐野元春は今がいいのだ。スタジオとステージで築き上げてきたメンバーたちとの信頼関係は、もうこれ以上はないんじゃないかというくらいに強固だ。浮足立つことも落ち着き払うこともなく、勢いはあれど緻密に、曲ごとにグルーヴを変化させながらモダンロックを鳴らし、そのうねりで僕たちを圧倒して巻き込んでいく。まさに旬の状態と言えよう。まさに、本人の謳う「新・佐野元春宣言」だ。

それが証拠に、実はこのツアーはアンコールの側面がある。THE COYOTE BANDとの最新アルバム『Maniju』を昨年夏にリリースして、彼らはそのタイトルを冠した全国ツアーを一度行っているのだ(そのファイナルを映像化したDVD / Blue-rayは12月19日に発売される)。

大変好評だったということで、今回は『Maniju』収録の曲タイトルであり、今の彼らの叩き出すビートを象徴的に表す言葉として、ツアー全体を「禅BEAT」と名付けたわけだ。

「今夜は楽しもう!」そんな一言で景気づけられた会場は、のっけから一気に熱を帯びる。大阪の観客はホットだった。佐野さんもバンドも、その反応をビビッドに演奏に反映させ、それにまたオーディエンスが湧くという理想の循環がそこにあった。特に今回は会場がホールではなくライブハウス。ビートが転がるには最適の場所だ。MCは最小限。佐野さんは、どんどんと曲をつないでいく。しかも、キャリア初期の鉄板のヒットにもたれかかることなんてない。

THE COYOTE BANDとの4枚のアルバムから選ばれたものが、その大半を占める構成。アップテンポなものが多いこともあり、数としては軽くアルバム2枚分は演奏しているにも関わらず、全体の尺が短く感じられたのは、僕が興奮していたからだけではない。一気呵成でタイトな構成をこのツアーは意図しているのだ。

終演後に楽屋で佐野さんと話をした時に、気にされていたのは、言葉がちゃんと聴こえていたかということ。ビートと言葉の関わりを重要視する佐野さんだからこその、僕への質問だった。大丈夫。Zeppはまた、鳴りがよい。言葉が埋もれることはなく、バンドサウンドと馴染んで観客の鼓膜を揺らせていた。

これは今回に限らないことだけれど、僕は佐野さんのライブを観ると、不思議な感覚に陥る。身体は反射的にビートに反応しているのに、キャッチした言葉に揺さぶられて、頭も同時に猛スピードで思索を始めるのだ。僕がそんな体験を告白すると、佐野さんは喜んだ。

考えながら踊る。踊りながら考える。享楽的に踊るだけでもなく、考え込むのではない。ダンスと思考を不可分なものにしてしまうのが、佐野元春のライブの目指すところなのだ。そして、今回のセットリストは曲同士の関わりを考えながら、全体として一つの物語のようなものとして機能するように練ってあるのだと、そっと教えてくれもした。

そんな曲目の中でも白眉だったのが、まだツアー中なので具体名は出さないが、ある昔のナンバー。80年代半ばに発表されたその曲が、原型もわからなくなるほどにリアレンジされていた。非西洋的で複雑なリズムを宿した曲が多い今の佐野さんだからこその再解釈には唸るほどしびれてしまった。

「ロックンロールは世代をつなぐ虹」。その日、佐野さんがステージから放った素敵な言葉だ。実際に、会場には10代や20代の、言わばCOYOTE世代の観客の姿もたくさん見かけた。佐野元春&THE COYOTE BANDは、まだ旅の途中。残された「禅BEAT2018」の後半を観られる土地にいる読者は、多少他の予定を押しのけてでも、ぜひ会場へ出向いてほしい。そして、次なる僕の楽しみは、クリスマス。年末恒例の「ロッキン・クリスマス」が、今年は名古屋・大阪・東京の3ヶ所で開催されるのだ。「それでは、また年末にここZeppなんばで」。僕は佐野さんと再び固い握手を交わした。

ひとつのおまけとして、最後にこんなトリビアを披露しよう。僕がラジオDJとしての本拠地としている大阪FM802。そのエントランスには、床から天井まで、そして長い廊下に伸びる大きなパネルがあって、気鋭のイラストレーター、アーティストたちが何ヶ月かおきにそこを鮮やかに彩っている。

現在はどうなっているかというと、架空の誰かの家のレコード棚をイメージして、おびただしい数のアナログレコードがずらり並べられている。

僕たちはそこを通るたびに、「あ、このレコードは持ってる。あっちのはまだ名前しか知らないや」などと音楽談義のきっかけとしているのだが、実はこれらはすべて洋楽。ある時、僕の信頼する先輩ディレクターが教えてくれた。

「あの中に1枚だけ、日本人のレコードがあるんだ」

翌日、目を皿のようにして探してみた。見つけたのは、佐野元春『VISITORS』。1年間のニューヨーク滞在を経て1984年にリリースされた、あの名盤だった。

vol.16に続く

Text=野村雅夫

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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